流れ星の猫
ある高い山の頂上に、猫の家族が住んでいました。
猫の家族は、お父さん猫とお母さん猫、そして子供の猫の三匹です。
三匹の猫たちは、とても仲良く暮らしていました。
三匹の猫たちのお仕事は、夜のお空に流れ星を降らせることでした。
子供の猫のお仕事は、星の材料をふもとから運んでくることです。
朝になると一番に山を下りて、星の材料を山の頂上まで運びます。
だからいつも眠たくて、材料を運び終えるとすぐに眠ってしまいます。
お母さん猫のお仕事は、星を作ることです。
子供の猫が運んだ材料を組み立てて、夜が来るまでに沢山の星を作ります。
だから、昼の間はずっと忙しく働いているのです。
お父さん猫のお仕事は、夜のお空に流れ星を降らせることです。
お母さん猫が作った星を、夜のお空にえいやっと振り撒いて、朝が来るまで流れ星を降らせます。
だから、夜の間はずっと眠らずにお仕事を続けているのです。
流れ星を降らせることは、とても大切なお仕事です。
夜のお空から降ってくる流れ星は、みんなの所に笑顔を運んでいるのです。
だから、三匹の猫たちは毎日毎晩、一生懸命流れ星を降らせていました。
毎日毎晩、休む日もなく流れ星を降らせ続けるのはとても大変なことでした。
それでも、三匹の猫たちは力を合わせて、毎晩流れ星を降らせていました。
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その日も、子供の猫はお日様がのぼる頃に目を覚ましました。
朝のうちに、ふもとまで星の材料を取りに行くのです。
「おはようお母さん。今日もいってきます」
子供の猫は、まだ眠っているお母さん猫にすり寄ってあいさつをしました。
目を覚ましたお母さん猫は、子供の猫に頬を寄せて答えます。
「おはよう。気を付けて行っておいで」
子供の猫は、お父さん猫にもあいさつをします。
「おはようお父さん。今日もいってきます」
お父さん猫は、ちょうど最後の流れ星を降らせたところでした。
「おはよう早起きさん。寄り道せずに帰って来るんだよ」
言いながらお父さん猫は、子供の猫の頭をそっとなでます。
そうして子供の猫は、いつものように出かけました。
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子供の猫はいつものように山を下りて、ふもとで星の材料を集めました。
そして、集めた星の材料を背中にしょって、山の頂上に帰ります。
その帰り道の途中で、子供の猫は年老いた猫に出会いました。
年老いた猫は、子供の猫にしわがれた声で問いかけます。
「やあ、かわいい子だね。きみはこんな朝早くに何をしているんだい?」
子供の猫は足を止めて答えました。
「おはようございます。今は星の材料を運んでいます」
年老いた猫はそれを聞いて、喉をゴロゴロ鳴らしました。
「おお、おお、それはそれは、まだ子供だというのに感心だね。働き者のお前に、このお守りをあげよう」
そう言うと、年老いた猫は子供の猫にキラキラ光るペンダントを渡しました。
「わあ、きれいだな。ありがとう、でも本当にもらっていいのかなぁ?」
子供の猫はペンダントが一目で気に入りましたが、こんなきれいなものを貰ったら悪いような気がしました。
「いいんだよ、いいんだよ。持っていきなさい、かわいい子」
年老いた猫は、そう言い残して去って行きました。
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ひとり残された子供の猫は、ペンダントを首から下げてみました。
するとペンダントはキラキラと光りました。
「よし、帰ろう」
子供の猫はそうつぶやくと、山の頂上に向かって走りはじめました。
足取りはいつもより軽く、飛ぶように山を登っていきます。
きれいなペンダントを貰って、うれしくなっていたからです。
ところが、山の半分くらいまで登ったところで、ピタリと足が止まりました。
なぜか、とても眠たくなったのです。
「変だなぁ、こんなにも眠いなんて」
いつもはどんなに眠たくても山の頂上まで走れたのですが、この日はもう歩くこともできそうにありませんでした。
子供の猫の目はクルクルとまわって、まぶたが重く重くなってきます。
そうしてとうとう、子供の猫はその場に丸く寝そべって、目を閉じてしまいました。
「眠ったって、ちょっとだけなら平気だよ」
そうつぶやいて、子供の猫は眠りにつきました。
眠ってしまった子供の猫の首で、光っていたペンダントは黒くなりました。
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山の頂上では、お母さん猫が子供の猫を待っていました。
「どうしましょう、あの子が帰ってこないわ」
いつもならもう子供の猫は帰ってきている頃でした。
でもこの日、子供の猫は帰ってきませんでした。
待っても待っても子供の猫は帰ってきませんでした。
「お父さん、お父さん、あの子が帰ってこないんです、ねえ、あの子を探しに行きましょう」
心配で仕方ないお母さんは、お父さんを揺り起こして言いました。
「なんだって。あの子が帰ってこないだって」
お父さん猫はびっくりして飛び起きました。
それからお父さん猫とお母さん猫は、子供の猫を探して走り回りました。
山の中をすみずみまで駆けまわって、切り立った断崖の上や、いばらの絡まった茂みの中まで探しました。
でも、子供の猫は見つかりませんでした。
星の材料があるふもとから、山の裏側までぐるりとまわって探しました。
それでも、子供の猫は見つかりませんでした。
「おかしい、おかしい、あの子がいない」
お父さん猫とお母さん猫は、子供の猫を探し回って探し回って探し回りました。
そうしてついに、山の中腹に星の材料が落ちているのを見つけました。
それは、子供の猫が運んだ星の材料でした。
「ああ、あの子はここに居たんだ!」
お父さん猫とお母さん猫は、星の材料を抱きしめて、きつく目を閉じました。
お母さん猫の目には涙があふれていました。
お父さん猫は、歯を食いしばってお母さん猫に言いました。
「この材料で星を作ろう、大きな星を作ろう。大きな星を夜空に浮かべて大きな流れ星を作ろう、そうしてその流れ星に乗って行こう、そうすれば、流れ星があの子の所に連れて行ってくれるはずだ」
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その夜、澄みわたったお空に、大きな流れ星がひとつ、飛んでいきました。