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吸血姫として現実世界を生き抜くために  作者: ふじごがつ
第二章 《守護神》 カーディン(上)
8/38

No.2-2 「吸血鬼としての性」

「んー、久しぶり、ユラちゃんの体。にへへへ」


 無邪気に抱きついてきて、俺の微かな胸に顔を擦り付けるファー。

 小学生ぐらいの妹ができた感覚。姉よ、俺も分かったよ。甘えてくる存在の尊さを。

 さてと、ファーが俺の体を堪能している間に、俺もファーの体を……ぐへへへ。

 って、うわ、デゥアルが殺気ましましの眼光をこちらに飛ばしている。


 とりあえず笑っておくか…………おや?

 デゥアルの顔がどんどん怖くなってきてる! 鬼の面を付けていると言っても信じるぐらいの顔に!

 何でそんなに機嫌悪くなってるの? って、正直に訊けたら楽なんだろうけど……。


「ちゅっ! ヤナちゃんはファーを見てて!」


 デゥアルと見つめ合っているとでも勘違いしたのか、ファーは頬を膨らまし、いきなり俺の唇を奪ってきた。

 人生で初めてのキスは血の味がした。

 二回目のキスはどんな味がするのだろうか、経験豊富な人たちは分かっているのかもしれない。

 唇なんかに味がしないことを、だけど俺は言わせてほしい。

 ファーの唇からは苺の味がしたんだ。


【ファーが『眷属契約』を使用しました。『眷属化』に成功しました】


「これでファーはヤナちゃんのものだからね! 困ったら、デゥアルなんかじゃなくてファーを呼んでね! 絶対だよ?」


 手をパタパタさせて、上目遣いで自分の存在をアピールしてくるファー、何だこのかわいい生物は!!!

 撫でたい、めっちゃ頭撫でたいんだけど!!

 そんなことをしたらデゥアルから何を言われるかわかったもんじゃない、ただでさえ機嫌が悪いのに……。

 我慢だ我慢……我慢できるかなぁ。


「うん、眷属になってくれてありがと」

「礼を言うぐらいだったらなでなでしてほしいな~」


 なっ、ナッ、なでなでしてほしいだと。

 せっかく我慢しようとしてたのに、ファーがちらちらとこっちをみてくる。

 クソッ、こうならやけだ!


 ファーの頭を撫でると、自分の中で抑えていたものが弾けるような感じがした。

 かわいいな、かわいいすぎだよ、かわいいな。

 おおっと、可愛すぎて川柳を作っちまったぜ。


 それじゃあ現実逃避はこれぐらいにしておいて。現実と向き合いますか。

 ちらっと俺が逃げていた現実の方を見てみると、ずっとこちらを睨んでいたのか、すぐに目が合う。


 うぅ、圧が凄い。

 だが、圧に負ける俺ではないのだ!

 昨日のデゥアルに戻ってしまうのだけは避けたいからな。

 覚悟を決めて、機嫌の悪いデゥアルに問いかける。


「あのー、デゥアル……さん。なんで機嫌が悪いんでしょうか、もしかして俺、何かしちゃいましたかね?」

「……ヤナが何を考えているか知りませんが、とりあえずファーはこの氷をどかしてくれませんか? 動けなくて不便です」


 なんだ、デゥアルが睨んでたのはファーだったのか。

 そういえば、デゥアルの体を包み込んでいた氷はある程度溶けてなくなっていたが、以前凍っている部分もある。 

 流石に凍らせたまま放置されたら機嫌が悪くなるよな、うん。


 ちらっとファーの顔を覗くと、ファーはにやにやといたずらっ子のように笑っていた。

 こいつ、分かってて放置してたな。とんだ悪女だ!!


「デゥアル〜、人には頼み方ってのがあるんじゃない? ねーヤナちゃん」


 ファーのメスガキボイスが刺さったのか、デゥアルがものすごい眼力でこっちを。

 ヤバい、めっさ怖いんだけど…。

 デゥアルの目からは、ファーに賛同すると、どうなるかわかっていますか?みたいな威圧感が伝わってくる。


「まぁ、それもそうだけどデゥアルは俺を守ってくれてたから、あの氷をどかしてほしいな。お願い!」


 デゥアルには称号とかについて教えてもらったり、盗賊から守ってくれたりと、色々教えてくれた恩もある。俺は抱きついているファーの腕を解いて、膝を地面につけて頭を下げる。

 そうでもしないと、ファーは俺の言うことを聞いてくれなさそうだし、何よりデゥアルの目が怖すぎるんだよ…。


「えぇー、ヤナちゃんそんなことしたらだめだよぅ。んんー、わかったから、デゥアルの氷取るから頭上げて、こんなの見られたらユラ様から怒られちゃうよー」


 ふぅ、デゥアルよ、分かったか?

 これが人にものを頼む態度というものだ。

 息を鳴らしてデゥアルに視線を送ると、軽蔑するような目を返された。せっかくデゥアルのために頭を下げたというのに、そんな顔されると泣いちゃうよ? いいの? この姿で大泣きするよ。


「『解除』っと。はい、これでいい?」


 ファーがスキルを使うと、デゥアルを捕らえていた氷が完全に溶けてなくなった。

 自由に動けるようになったデゥアルは、自分の足首を擦って息を吹きかける。

 さすがのデゥアルでも、長時間氷に触れていたら、しもやけにでもなるのだろうか。


「私の言うことを素直に聞いていたらいいだけなのに……」

「むー! 何よ、一番初めにユラ様に会っただけなのに……まぁ、そんなデゥアルこそ称号を使う・間・抜・け・だもんね。抜けてるからファーに居場所がばれるんだよ? ごめんね~二人きりを邪魔しちゃって」

「いえいえ、私たちも早めにファーを見つけたかったのでちょうどよかったです。まぁ、私の匂いに釣られて姿を現す・間・抜・け・なんていらないのですが」


 おいおい、こいつはこいつでどんだけファーのことが嫌いなんだよ。

 まさか眷属同士がこんなにも仲が悪いとは。

 この調子だと、他の眷属と会うたびに、取っ組み合いの喧嘩でもしそうだな。

 喧嘩の仲裁は絶対にしないからな!


 デゥアルとファーが口喧嘩しているのを横目に、屋根に寝転んで終わるのを待っていると、


【精神の主の権限を確認、『接続』を発動します】


「主人様よ、さっきぶりじゃのぅ」

「ん、さっきぶり」

「……すまんのぅ。【創造主】の奴が邪魔をしてきたんじゃが、安心せい。対策はバッチしじゃから、もう主人様のそばを離れることはない」

「それは重たいなぁ。ま、無事ならいいんだ。それとアザクラに――――」


 ユラと楽しく雑談していると、さっきまで言い争いしていたはずのデゥアルとファーが。


「なんでヤナちゃんは一人でぶつぶつ話してるの? もしかして内なる自分と会話――――いや念話でもしているのかい……ごくり」

「ヤナ……私はそういった知識はあまりないのですが、こう見えて昔は尖っていました。相談できる人がいないのであれば、私で良ければ聞いてあげますよ」


 ファーからは不思議そうな、デゥアルは同情するような目。

 二人からはユラの声が聞こえてなくて、ただ単に俺が一人で話している可哀そうなやつに見えてたのかな。

 俺はその病気は一年前には完治した。誤解されたままだと、俺の心が過去の記憶を呼び覚ましてしまう。

 何としてでも弁明しなければ………。


「厨二病じゃないって! ユラが目を覚ましたから喋ってただけ」

「ヤナ、そのような時期は誰にだってあるんです」

「よくわからないけど、ヤナちゃんは抑えきれなかったら解放ってのもしてもいいよ。キラッ! って風に」


 ファーは口で言った効果音とともに目の前でピースした、かわええ。

 ……違う! 何を言っても言い訳にしか聞こえないのなら、実際にユラの声を聞かせるのがベストか。

 てかデゥアルは俺の中にユラがいることを知ってるじゃんか。こんなに馬鹿にしなくても。


「主人様よ、『接続』をあいつらに使ってやれば、主人様のあらゆる感覚を共有することができるんじゃ」

「俺でも『接続』って使えるの? てっきりユラだけかと思ったんだけど」

「我は主様が使えるスキルしか使えんのぅ。ほれ、あやつらが我を恋しがっておる。早く使うんじゃ」


 そういえば『接続』のスキルはあることは知ってたけど、まだ効果を確認してなかったな。


 『接続ジャミング

 ・自分の意識を他の人に繋げることができる。


 これしか説明がないんだけど。

 しかも使い方さえ分からない。繋げる? どうやって? 自分の意識ってことはユラの意識は含まれるのか?

 ユラが俺に対して『接続』している状態で、俺がデゥアルに『接続』するとユラの意識もデゥアルと繋げることができるのか……。

 物は試しだ。それに長年生きてらっしゃるユラが使えと言ってるんだからできるはず。


「要はスキルの使い方じゃ。見たままの効果を信じるのではなく、発想を膨らませるのじゃよ」


 見た目に惑わされるなってことか。

 スキルって人にはどうやって使うんだ? 相手に手をかざす?

 スキルの発動方法は理解しているが、対象指定の方法は?


『接続』をデゥアル達に使うため、直接体に触れたり、『接続、デゥアル』と声を出してみたりと、試行錯誤していると。ユラが不思議そうに聞いてきた。


「主人様よ、さっきから何をやっておるんじゃ?」

「スキルの使い方が分からないんだよね。『接続』って言っても反応しないし、手をかざしてみても何も起きないし」

「簡単じゃ。『接続』のスキルリングを繋げたい相手に渡すだけでよい」


 知ってるなら教えてくれ。じゃないと二人からの俺の評価が落ちて地に着いてしまう。ほら、俺が変な動きをしたせいで、デゥアルの目に優しさが溢れてるじゃんか。


 文句を垂れても仕方ないので、光っている『接続』のスキルリングを右手から取り出すと、右手に新たな『接続』のスキルリングが生まれ、取り出したスキルリングが変化して銀色の指輪になった。

 なるほど、完璧に理解した。

 スキルリングをもう一つ取り出して銀色の指輪を作り、それぞれ一つずつデゥアルとファーに渡した。


 二人の手のひらに指輪を置く。

 デゥアルは左手の人差し指に、ファーの指にこの指輪は大きかったのか、親指にはめた。二人とも嬉しそうに眺めているのだから、大丈夫だろう。


【『接続』完了しました。これより開始します】


「これでお前たちにも我の声が聞こえるようになったかのぅ」

「あ! ユラ様の声がした。でも、どこからだろ? ユラ様の気配なんかまったくしないんだけど。お~いユラ様~、隠れてないで姿みして~」


 ファーは突如として頭に響いてきたユラの声に反応して、あちこち走り回ってユラを探し始めた。


「我はここにいるじゃろ」

「またユラ様の声がした! かくれんぼでもしてるの? って痛!!」


 デゥアルが走り回るファーの額にデコピンを。


「ユラ様はまだ封印されているのです。今はヤナを通して、私たちに声だけを届けています」

「うむ」

「ええぇぇ〜! やっとユラ様に会えると思っていたのに~。ねぇ、一回だけで良いからユラ様と会わせて。本当にユラ様だったら、一緒に付いていくからさ、ね?」

「……一度だけだぞ」

「やったー!」


 無邪気に喜ぶファーを前に、頭を抱えるデゥアル。


「はぁ、ユラ様が甘やかすから」


 ううぅ、ぼそっと呟かれる方が怖いよぉ。


「主人様よ、我が姿を現すと、主様の意識は負荷に耐え切れず、現実世界に戻らなければならないからのぅ。それでもいいか?」


 あっちに戻るくらいどうってことない、この世界についての知識も少しは収穫もあったし大丈夫。

 今夜は三人で楽しくお喋りでもすればいい。

 別に不機嫌なデゥアルの側が嫌なわけじゃない。本当に。


「それでこそ我の主様。あちらに戻ると、『眷属召喚』でデゥアルを呼び出すがいい。スキルを使用できればじゃが。主人様よ、それでは」


【精神の主の権限を確認。『同期シンクロ』を発動します】



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 自部屋のベッドの上で目を覚ます。

 ユラが『同期』を使うところまでは覚えているが、それから先の記憶はない。

 軽い体を動かしてカーテンを開けると、夕日がほとんど見えなくなっていた。


 思っていたより時間が経過していた。

 仕事から帰ってくる姉のために晩御飯を用意しないと。


 パジャマを脱ぎ、部屋着に着替えようとタンスを漁るが、ちょうど良いサイズのズボンがない。下着のままだと姉に襲われそうだけど、姉の服を借りる気も起きない。

 そうだ。この体なら普通のシャツで全部隠れる。


 タンスの中から一番ダボダボなTシャツを選んで首を通す。

 すごい! 膝の位置まで隠れてる! でも、手が……手が短すぎる。萌え袖なんてちゃちなもんじゃない。

 サイズ的に腕が袖から出なくなるのは許容するしかない、か。

 洗面所から洗濯バサミを二つとって、袖をまくって手を動かせる位置で止める。


 両親が居なくなってから、ほとんどの家事を俺がしている。

 姉はモデルの仕事で家にはあまり帰らず、俺は家に引きこもっていた。ならば、料理、洗濯、掃除などの家事は必然的に俺がすることに。

 今は引きこもりから脱却したが、家事はずっと続けている。

 面倒を見てくれている姉にしてあげられることがこれぐらいだから。


 服も着替えたし、晩御飯を作りますか。

 今夜の晩御飯はみんな大好きバーモンドカレーです。

 冷蔵庫を開くと、肉以外に何も無かったので、肉オンリーのカレーになります。

 それでは3合のご飯を研いで炊飯器にセットし、早炊きに設定しましょう。

 レンチンご飯を使うのは最終手段です。

 カレーを作るときに、そんな甘えは捨てましょう。

 ではでは、カレーの工程に移りたいと思います。


 ー バーモンドカレー ー


 肉を鍋の中にぶち込みます。

 火は中火に設定。焦げ目がつかない様に、箸で肉をほぐしながら混ぜましょう。

 ちなみに我が家ではカレーには絶対に牛肉しか使いません。

 姉が牛でないと食べないからです。


 肉に色が付き始めたら、水を適量入れましょう。

 ここではしっかりと軽量カップを使い、決まった値を入れましょう。

 もし目分量で入れてしまうと、さらさらの味が薄いカレーになってしまいます。

 味見をするたびにルーを継ぎ足したせいで、量が倍ちかくなったことがあります。

 火は弱火に。基本的には、沸騰してから15分ほど煮込みます。

 ここでは浮いてくるあくを取ることを楽しみましょう。


 煮込みが終わると、カレールーを投入します。

 ここで焦ってはいけません、焦って先ほど入れた水に対しての割合を間違えると最悪ショック死します。

 本当に気を付けてください。

 おおっと、私としたことがローリエを入れるのを忘れていました。

 ローリエ、良い響きです、この葉っぱにはロリエといったロリの妖精が付いていることを忘れずに鍋に投入しましょう。

 こういった一つ一つの動作がカレーを作るのです。


 最後に強火に設定し、混ぜます。ありえんぐらい。

 混ざり加減がカレーの生死を分けるといっても過言ではありません。

 綺麗に混ざらないと、カレールーの塊が溶け切らずに残ります。

 その塊はカレーの魂です。

 カレーの魂をカレーの中に残してはいけません。

 もし10分ほど混ぜたとしても亡くならない場合はロリエの残骸とともに取り出しましょう。

 それが唯一の救いになります。


 以上がバーモンドカレーの作り方になります。


 カレーが完成するとちょうど良く、ピーと炊飯器の音が鳴った。

 皿によそって、カレーをいただきまーす!!

 んー、市販のカレーとは思えないほどの美味さだ。

 辛さは中辛だが、なかなか舌にくる。

 福神漬けが無かったので、この辛さに対抗すべく氷を沢山入れた水をごくごく飲む。

 カレーをぱくり、水をゴクリ、を皿のカレーがなくなるまで繰り返す。


 あれ? 俺ってこんなに食えたっけ?

 男子高校生といっても運動なんてしないし、特に大食いといったわけでもない。

 いつも一人前でお腹いっぱいだ。

 だけど、一皿平らげても、満腹感が生まれない。

 カレーは日持ちするので、4人分で作っていたし、ご飯も3合炊いている。


 だけど、それらすべて平らげたとしても、まだ空腹感が迫ってくる。

 どうしてお腹がいっぱいにならないんだ……。


 大量のカレーが蓄えら、膨らんでいるお腹に手を当てる。

 俺の姿が変わってしまったのが原因なのか……。

 どうすればお腹がいっぱいになるか考えていると、玄関のドアが開く音が。


「ただいまー、一人でも大丈夫だった? お!! カレーのいい匂いがするー、ケンちゃんの作ったカレー、お姉ちゃん大好きー」


 良かった。こんな状況だからか、姉のハイテンションな姿には安心する。

 安心するからこそ、俺の食欲のことを伝えるべきか迷ってしまう。


「ごめん、カレーはもうなくて」

「そうなの? じゃあ久々にどこかに食べに行こっか」

「…………うん!」


 もじもじしていた俺を見て何かを察してくれたのか、姉の提案で久々に外食することにした。

 今の姿で外出しようとしたが、当たり前のように姉に止められた。少し抵抗はあるが、姉のショートパンツを借りて近くの回転寿司に行く。平日の21時だったからか、ほとんど貸切り状態だった。

 普段は10皿食べると満腹になるが、この日は何皿でも食べれるような気がした。

 実際に食べようと思えば、この店の全てを食べれてしまうが、俺は姉の友人の話を聞きながら、いつも通りの枚数を食べて、「お腹いっぱいになった。ありがと」と言い、店を後にした。


 寝ようとしても、空腹が襲ってきて眠ることができない。

 空腹を紛らわすために帰る途中で買っておいたキャラメルを舐めていると、間違って思い切り舌を噛んでしまった。痛みに悶えていると、突然苺のような甘い味が鼻を刺激する。

 この味ってファーの唇の味と似ているような。いったい何の味なんだろうか、嗅いだことのあるはずの匂いなんだけど……。


 いや、悩むはずはない。本当は知っていたんだこの匂いの正体を。

 ただ認めたくなかっただけなんだ、、、、、血液がこんなにもおいしいと感じることを。


 その夜、俺は人生で初めて、自分で自分を傷つけた。

 己を吸血鬼だと主張するような鋭く尖った八重歯を手首の端に当てる。

 押し付ける力を次第に強くすることによって、プツンと一滴の血液が唇をなぞった。

 人差し指でふき取り、薄っすらと開けた瞳でしばらく見つめる………………舐めた。


「…………おいしい」


 躊躇することなどなかった。

 甘美を求めて己の血液を求める。

 最初に歯を当てた場所に再度近づける。

 ジンジンと痛みと快感が流れ続けている場所に。



 ――――――――――――ガシッ!!



 溢れ出てくる苺のジャムのような紅くて甘い液体を舐めながら俺は想像する、吸血鬼として現実世界を生き抜くために、必要な犠牲について。






「甘いな、」


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