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吸血姫として現実世界を生き抜くために  作者: ふじごがつ
第一章 《吸血姫》 ユラ・ヴァン・アルギュロス・ロード 
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No.1-4 「ただいま現世女の子なう」

 レベルが上がって念願の『裁縫』を手に入れた。服が、人間の叡智がようやく俺の手に。

『血剣』を発動したときと同じように声に出す……『裁縫』と。


【裁縫を使用するには糸が足りません】


 ん? いとってなんだ? いとって糸のこと?

 ユラは血液でも大丈夫って言ってなかったけ? ダメそうじゃない?


 うんうん、俺も思ってたんだ。糸とか絹とかなくても作れるのかなって。

 やっぱりいるじゃん! 糸いるじゃん!

 もー、最悪なんだけど…。

 こんなのMMORPGじゃなくてZNR(全裸)RPGじゃん。


 あぁ、俺は服すら調達することができない敗北者なんだ。

 良いよユラ、俺を馬鹿にしても、それぐらいしか存在価値がないんだよ……。


「馬鹿な主人様よ。主様は取得したスキルの能力を確認しないのか。そんなんじゃから、いろいろと見逃したりするんじゃ。馬鹿じゃないのかのぅ。おっちょこちょいな主人様が心配になっちゃうのぅ」


 人を煽ったり、馬鹿にしたりした経験がないのか、俺のために罵倒しようと頑張ってくれるのは聞いていて心が癒される。


「そうじゃな、我はあまり乱暴な言葉は好かん。じゃが、我は眷属たちに労いの言葉を掛けるのは得意じゃったのぅ」


 なるほどね。それはそれはいい上司だったことで、さてと、茶番はここまでにしておいて能力でも確認しますか。


 確認する方法は至ってシンプル。スキルリングをただ握るだけで、そのスキルの情報が頭の中に流れこんでくる。


 『裁縫』

 ・糸を使用して発動可能

 ・見たことのある服を作成

 ・作る服を想像することで必要な糸の量が分かる

 ・服の性能はスキルレベルによって異なる

 ・現在元の性能の10%


 『血の糸』

 ・血液を消費して糸を作ることができる。

 ・糸の大きさは自由に変更することができる

 ・糸の耐久力はスキルレベルによって異なる

 ・現在の耐久力は10


 なるほど、先に作ろうとした服を想像することが必要だったんだ。

 糸の必要な量を『血の糸』で作り出して、『裁縫』を使用することによって服が完成するってことね。

 ……服なんてここにきてから何か見たっけな?

 んー、あっ!

 そういえば水晶の中に埋まっていた中に、ワンピースみたいな服を見かけた覚えがある。

 うろ覚えでも大丈夫かな。


炎憐なる吸血鬼殺しフレイム・ヴァンプ・スレイヤーを作成するには糸が700必要です】


 かっこいい名前だなっていうか吸血鬼殺しって……、もしかしてここに埋まっている水晶とかってユラに挑んだんだけど、返り討ちにあって死んだ奴らのアイテムとかかな?

 それだとしたら、どれほどの多くの人があそこで死んだのだろうか。

 一人ひとつだとしても、普通に100人は超えるだろうな。

 それだけの量に狙われるって…………ユラは一体何をしでかしたんだろう。

 素朴な疑問を胸に抱くも、ユラからの返答はなかったため、服を作ることに集中する。


 糸を700作るのにどれぐらい血液を消費するんだろうか? 

 ま、物は試しだな。


「『血の糸』、………………うっ! 気持ち悪い」


 ごっそりと自分の体から血が抜ける。

 立ち眩みで立てないな、嫌だけど……座るか。

 ぴちゃっと血の池にお尻をつけると、全身に鳥肌が立つ。

 痛覚含め、このドロドロした感触もなくていいんだけどな。


 俺の口から赤い糸が『血剣』を作ったときと同じように重なり合い、服の形状へと形を変える。


【炎憐なる吸血鬼殺しを作成しました 装備しますか?】


 当たり前だ!


【称号《炎に魅入られたもの》を取得しました】


 これが服の温かさか、心地いいな。

 温度とかは変わらないけど、肌に擦れる糸の感覚が良いのだよ。

 それにしても、この服の形とかはうろ覚えでワンピースとしか覚えてなかったけど、めっちゃ可愛いな。


 血の糸で作ったからなのか、服の色が赤で統一されている。デザイン性はないかと思いきや、ウエディングドレスのように様々な装飾が施されていて、赤一色とは思えないほどの鮮やかさを露わにする。見た人を魅了させるほど美しい。

 しかもこの服、ノースリーブでスカートの丈も膝上までしかないから動きやすくて戦闘にもピッタリだ!!

 しかもこの服についている称号もめっちゃ強そう!!


【炎に魅入られたもの】

 ・炎属性の魔法を無効化する

 ・自らが使用する炎属性の威力を1.5倍する。


 炎属性のスキルなんて持ってないから威力が増えないけど、炎属性の魔法を無効化にするのって強すぎないか?


「さて主人様よ、無事服を着れたことじゃし、先に進もうかのぅ」

「うん、さっさとデゥアルに会いにいくか」


 服と感動的な出会いも果たせたおかげで、一歩また一歩と歩くが体が軽く感じた。


 何故か、レベルアップしてからはサソリやコウモリに遭遇することはなくなった。

 出てきても一撃で倒せるからあんまり気にしないけども。

 そして、洞窟の奥に到着すると、


「この扉はあるんだな。正直トラウマになってるんだけど」


 洞窟の奥には、ユラが封印されていたものと同じ魔法陣を浮かべている【深淵の扉】らしきものがあった。

 しかし、俺はもう馬鹿な真似はしないと決めたんだ。

 よし! 何も見なかったことにしよう!!

 そのまま体を180度回転して帰ろうとしたら。


「何してるんじゃ、主様よ。その扉は【深淵の扉】ではないから、普通に開けるだけでいいんじゃ。眷属たちは我が封印されたと同時にほとんどの力を失っておるから、普通の扉でも封印することができるのじゃ。ほら主様、回れ右じゃ!」


 ユラにそう言われ、あんまり気は進まないが、試しにちょんと人差し指で扉に触れると……とくに何にも起きなかった。


「その扉はただの扉なんじゃ。へっぴり腰にならんと進んでみるよ。どれほど我を待たせるんじゃ? まさか、主人様は放置プレイというのが好きなのかのぅ。それじゃと、我は主人様の将来が心配になってくるのぅ」


 はて、こいつはどんだけ俺が変な趣味を持っているんだと思っているのだろうか?

 ユラの言葉を無視して扉を開けると、そこには成人男性がぎりぎり入る大きさの赤色の箱があった。

 デゥアルがあの箱の中に入っているのかと観察していると、箱が宙に浮き、大量の血が噴き出し、箱の下に溢れ出た血がどんどん人の形へと変化していた。


「俺が触ったわけでもないのに、急に血が……もしかしてあの血がデゥアルなの?」


 箱の色が真っ白に、血の形が人の形となったと共に……。


「昔から変わらん奴じゃのぅ。主様人よ、戦う準備をしといたほうが良い。やつがくる」


 ユラの言葉が聞こえた瞬間にはすでに、その血が、その手が俺の胸を貫いていた。


「ぐっがっっ!!」


 またこんな目に合うのか。聞いていた話と違うんだけど、忠実な眷属なんじゃないの?

 もしかしてユラ、お前って嫌われてない?

 仮にも同じ姿なんだよね?

 真っ先に殺しに来たんだけど。


「仕方ない、主人様よ。少しの間、体を借りる」


【精神の主の権限を確認。『同期シンクロ』を発動します。】


 俺の髪の色が銀色から金色に変化し、小学生のような未熟な体から大人の女性のような成熟した体へ成長し、体の主導権がユラに奪われる。

 炎憐なる吸血鬼殺しの服は俺のサイズに合わせて作られているので、ビリビリと破けてまた裸になってしまった。

 これがユラの本来の姿なのだろうか。

 俺は身体の主導権が無くなったことを不思議に思うことをやめ、二人の戦いを楽しみにすることにした。


「数分しか持たん。すまないが手加減はできん。全力で相手をしようかのぅ」


 ユラが腹に刺さっている手を軽々と握り潰し、戦闘態勢を取ろうとすると、デゥアルが地面に膝をつけて。


「お久しぶりですユラ様。会える日を長らくお待ちしておりました。どれほどお待ちしていたか、ユラ様には分かりますか? ユラ様が勇者たちに戯れとして封印されてからはや数百年。その間、ほかの者たちは自由気ままに生きていたらしいです。あいつらはユラ様が封印されているこの場所を守ろうとしなかったのです。本日まで私は冒険者からユラ様の安眠を守るために殺……んん、追い払ったのですが……。その者は何ですか? 私という存在がありながら、そのような虫に継承したのですか? なぜですか? 私のことをお忘れになったのですか? 昔はあんなにお互いを信頼しあっていたというのに」


「ん? あぁ、久しぶり・だ・な・?」


 ユラよ、こいつは単純にユラに忠実なんじゃなくて、ユラしか見えてないんじゃないかな?



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 デゥアルの髪は毒の色をイメージした紫と、血の色をイメージした赤が混ざったような色で腰まで伸びている。

 体は何というか、出ているところはきちんと出ており、身長も170ほどの女性にしては高身長であった。

 服装は黒をベースにしたメイド服のようなもの。

 俺と違って最初から服を着てるなんて、そんなのずるいじゃないか!


「デゥアルよ。一目散に襲いかかってきたから、思わず『同期』を発動したんじゃが、そんな必要は無かったのぅ」


 確かに、俺はデゥアルに胸を貫かれたはずだが、この体は風穴どころか傷一つ付いていない。


「たとえユラ様でなくとも、そこにユラ様の精神があるとするならば、私が危害を加えるなどあり得ません。ただ、このダンジョンにユラ様と同じ気配が現れましたので、私の眷属を通して観察していたのですが……。あまりにも無様で情けなく、あるまじき行為が目に余り、ついあのような行動をとってしまいました。申し訳ございません(普段見れることのない、かわいらしい姿はとても心躍りましたが……)。」

「デゥアルの言い分はわかった。なら、我のわがままを一つ聞いてくれんか?」


 デゥアルは嬉しそうに体をモジモジさせながら、


「ユラ様のわがままなら何でも叶えてみます。国を亡ぼすことや、ユラ様を封印した憎きクソ勇者を殺すこと、何ならご一緒に布団に入ったり、普段できないあんなことやこんなこともできます。私のおススメは……」


 デゥアルが頬に手を添えて長々と自分の妄想を語っていると、若干ユラの顔が引きつっていることに気が付いたデゥアル。

 だが、引きつった顔などまったく気にせず、続きを話し始めたので、ユラが遮るようにコホンと息を吐いた。


「デゥアルよ、そんなに難しいことではない、すぐに終わることじゃ。我のわがままはたった一つ、我の主人様の眷属になってもらいたい」

「はい? 私とユラ様は眷属になっていますので、もう一度同じ主の眷属になることはできませんよ? あっ、ユラ様は形式上での眷属ではなく、生涯をともにする、いわゆる人生の眷属になってほしいということですか? 私として大変うれしいことなのですが………。申し訳ございません、もう一度聞いてもよろしいでしょうか?」

「デゥアルには我の主様の眷属になってもらいたい」


「ええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


 ええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!

 ちょっと待て、ユラ。こいつ、迷いなく俺のことを殺しに来たんだぞ! そんなやつを眷属にしたら、いつ裏切られるのか、絶対後ろから刺されるって!!


「ユラ様の願いだとしてもそれだけはダメです。そもそも生理的に受け付けませんし、私の主はユラ様だけと生涯決めておりまして。それに、これには私を眷属にすることなど不可能でしょう」

「なんだ、おぬしたち息ぴったりではないか。」


 ぴったりじゃない!!


「ぴったりではありません!!」

「やはり、息ぴったりではないか。じゃが、そんなに嫌なら一度だけでも試させてくれんか? それでだめだったら諦めるからのぅ」

「……ユラ様がそこまで言うのなら。一度だけで良いんですね? 結果なんて分かりきっていますが。……ユラ様はその姿のままですか?」


 俺の体は成長したままで、体の操作もできない状況。

 この姿でユラが『眷属化』をデゥアルに放っても、俺の眷属になるのか・


「心配ない、このスキルは精神を入れ替えるだけで、他は特に変わらんからのぅ。……それでは始める」


【『眷属化』を発動します。対象を選択してください】


 ユラが人差し指の先を八重歯で噛み、血を垂らし、デゥアルに近づけると、そっと人差し指を手で支え、血の付いた指を舐めた。舌が指を撫でる感触が伝わる。

 すると……。


【称号《穢れなき吸血鬼》を発動します。眷属化が成功しました 称号《穢れなき吸血鬼》が消滅しました】


 見覚えのない称号が勝手に発動して、勝手に消滅したんだが……。

 もしかして、最初から称号を持っている場合もあるのか。


 デゥアルの眷属化が成功した後に『同期』が切れて体が元に戻った。

 俺の眷属になったデゥアルを見てみると、この世に絶望したような雰囲気を醸し出していた。

 ……なんかごめん。


「この虫の『眷属化』が私に対して成功することなんてあり得ないはず……、この称号は……なるほど、もうこの時が来たのですね、ユラ様」


 地面に項垂れていたデゥアルが何事もなかったかのように立ち上がり、スカートの裾を手で広げ、優雅にお辞儀をする。

 本物のメイドみたいに。


「改めまして、私は【吸血姫の五人の妹ペンタクル・シスターズ】の一人、デゥアル・クリムゾンです。以後、お見知りおきを」


 俺も軽く自己紹介をしようとしたが、あなたには興味がないので大丈夫ですと一蹴された。


「それではヤナ、あちらでも頑張ってください。もう時間になりますので、これだけ伝えます。何があろうと己を信じ、信じられるように」


 デゥアルがそう言い放ち、にっこりとした表情で俺の額にデコピンをしてきた。その衝撃でバランスを崩し、後頭部を打ったところで、視界が真っ暗になった。光を取り戻した視界に映ったのは見慣れた天井。現実に戻ってきてしまった。

 不具合が起きて急に切断されたのかな。

 何度もゲームを起動し直すが、一向に動く気配がない。

 このゲーム、サービス開始直後だとしても、不具合が多すぎでは……。

 サングラスを外し、時計に目をやると、すでに夜12時を回っていた。

 昼に始めたのに、もうこんなに時間が経ってしまっていた。

 溜まっていた和也からの連絡に引け目を感じ、バグで起動できなかったことを伝える。規則正しい生活の和也から既読は付かない。

 汗で蒸れた全身タイツを部屋に脱ぎ捨て、風呂に入り、寝巻に着替えて寝ることにした。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 姉の叫び声で起きる。最悪の目覚めだ。

 まだ朝の7時だ。

 夏休みだってのに、こんな早く起きることになるなんて……。

 まぁ待て俺よ。姉の言い分でも聞いてやるとしようではないか。


「どうしたんだよねぇ、………………朝っぱらからコスプレして大声出してさ、てか姉ってコスプレの趣味あったんだ。俺はまだ寝ていたいんだけどぉ…………ん? なんだ、このかわいい声は」


 俺が発したこの声は、ゲーム内で感動した自分の声と同じ声質だった。


「ケンちゃんが、おおお、女の子になってるんだけどーーー!!」


 姉に言われてぱっと自分の体を見下ろすと、光が反射する銀色の髪、昨日まではぴったりサイズだった寝巻はぶかぶかに、そして極み付けは……未使用だったが愛着があり、ほぼ毎日労わっていた息子が無くなってた。

 急いで俺は洗面所へと駆け出し鏡を見た。

 しかし、鏡には俺の寝巻きしか映らない。

 鏡の前に俺はいる。

 いるから声も、息も、体も、俺のものだと主張している。

 だけど、鏡には俺の体が映らない。俺以外しか、映らない。

 アザクラの姿と、瓜二つ。


 俺は吸血鬼に、なっちゃった……のか。


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