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吸血姫として現実世界を生き抜くために  作者: ふじごがつ
第三章 《鍛冶神》 ニーベング
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No.3-2 「地下階層 1-12」

 三ヶ月……三ヶ月も寝ていた、だと。

 由良と話していた時間は、体感で数日。あそこの部屋だと時間軸がおかしくなっていたのか?

 それとも、また記憶が操作されている?

 でも、由良がそんなことをする理由はない。


『接続:アルギュロス』


 通じない。俺が起きるのが早かっただけと思いたい。

 なんなら一度、現実に戻るのは……できない。

 ログアウトをしようにも、体が拒否している。

 体に恐怖が植え付けられている。


「時間は有限。お嬢ちゃんが何に困っているかは興味がない。

 付いてこい! まず先に仕事を終わらせる」

「少し待ってくれ、頭がこんがらがったままなんだ。

 何の意味もなく、三ヶ月も寝ていた訳がない。

 きちんと意味を調べておかないと、ママに怒られる……ママ?」

「無駄な時間は嫌いだ。

 お嬢ちゃんが動かないのならば、レギン様が担いでやろう、っほ」


 レギンはしゃがんでいた俺を軽々と持ち上げて肩に担ぐ。


「だから待ってくれって!」


 レギンの手を解こうにも、ガッチリと腰を握られていてびくともしない。

 この力は、流石の使徒というべきか。

 だが、ここでいいようにされる俺ではない。

 スキルを使って……あれ? 発動しない。

 『身体強化』、んん? なんで、どうして?


「『身体強化』……なんでっ、ふんぬっ……」


 声に出しても発動しない。

 こんなこと、今までならなかった。

 まだ進化した力が目覚めていないのか。


「スキルなら使えんぞ、【吸血姫】。

 レギン様に抱かれてしまっているからな」

「なっ、なんで俺の正体を知っている!?」

「……はぁ、レギン様を馬鹿にしているのか?

 この世に生きる吸血鬼は【吸血姫】しか残っていない。

 特徴的な銀髪に、肌の色、尖った歯に目の色。視力があるのならわかって当然だ」

「じゃあ……お、俺を殺す、のか」


 スキルを使えない今、俺はレギンの手のひらの上にいる。

 どう調理するのもレギン次第。

 こんなことになるなら、胸を触られた程度で嫌って言うんじゃなかった。

 フードを深く被って目を力強くつむる。

 しかし、俺の想定とは違い、レギンはゆっくりと歩き、話す。


「滅滅するなら出会った瞬間している。

 それに、全ての神が【魔神】の敵ではない。

 レギン様も、お嬢ちゃんに死なれては困ることがある」


 ため息を吐いて、続ける。


「もう一人の使徒である、ファーニール。七代目と死別してから、お姉はずっと部屋に篭っている。

 部屋からを引っ張り上げるには、七代目と同じ背格好のお嬢ちゃんが必要なわけだ」

「そのあとに殺す……」

「……お嬢ちゃんは勘違いをしているぞ。

【創造神】を目指している神は【魔神】以外もいる。

 昔は【魔神】が一強だったと聞いているが、力を失った【魔神】を目の敵にしているのは【創造主】ぐらいなものだ」


 そう言われれば、納得しかなかった。

 神は生き残りをかけている。

 バトルロワイヤルだから強い神は狙われるし、弱い神は後回しにされる。

 もちろん、弱い神から淘汰される場合もあるが。

 アルギュロスは【魔神】としての力を剥奪されている。

 だから狙われない、と。


「理解したか? お嬢ちゃんは他の神にとって問題ではないことを」

「……うん、逃げないから降ろしてくれ」


 あっさり降ろしてくれた。

 しわのできたローブをはたいてから、歩むレギンの側を離れないようにする。


「ニーベングの紹介を軽くしよう。

 ニーベングは地下階層がここを一階として、50階まで存在する。

 4階までは居住区で、そこから下に魔物が住み着いている。

 階層のボスを倒せば、さらに深く潜れるようになる。

 同行者がいた場合、最も進んでいる者の階層が参照される。

 質問はあるか?」


 首を横に振る。

 詳しい説明は既に由良から聞いている。

 もし忘れていても、記憶を『複製』すれば思い出すことを、知っている。


「他には、ああ、お嬢ちゃんがはめている指輪は地下階層を潜ると力が戻って指環に応じたランダムな能力を発動できるようになる。

 ……と、話の途中だが、ここが一軒目だ」


 そう言って、レギンはある店に入った。

 服や鎧が飾られている店だ。ただ、レギンの印象とは真逆の清楚系が多い。

 もちろん女性用だけでなく、男性用もあるが、飾られているモノ全てがぴっちりとしている。


「アマ! 店主! レギン様がご来店だ」


 レギンは他の客がいるにも関わらず、店の中心で叫ぶ。

 一同の視線が集まるも、レギンだ。と、わかるとすぐに散乱した。

 その視線の中にはプレイヤーがいるというのに。


「これはこれはレギン様、此度はその子を見繕えばよろしいですかな」

「うむ、話が早くて助かる」

「お、俺はローブを脱がないぞ」

「黙れ、これ以上みすぼらしい格好でレギン様の隣は歩かせん」


 レギンに首根っこを掴まれ、店の奥へと運ばれる。

 レギンに何一つ抵抗できない自分が、進化できているのか不安になる。


「……ちゃんとしている」

「そうだろう、アマの眼は本物だからな」

「いや、そうじゃなくて、こう……レギンのことだから水着みたいな服を着せてくると思って」


 刺繍の入った黒のスカートに、学生服のようなシャツに素朴な胸当て。

 現代感があるが、プレイヤーがこれだけいるんだ。

 現代のデザインを輸入しているのだろう。


「かわいいな。どうだ、お嬢ちゃんのことをロスと呼んでやる。

 代わりとして今夜――」

「だっ、だから誘わないでって!」

「愛い愛い、別れる頃にはロスの方から抱いて、と迫ってくるのは決まっている。来い、次の店だ」



「リー、ロスにメイクを頼む」

「かしこまりました。さっ、こちらへ」


 連れられたのはメイクサロン。

 異世界のはずだよな。

 ここまで現代人に寄り添わなくても……。

 どうぞ、と案内されて席につき、瞼を閉じるよう言われる。


「ご要望はございますか?」

「……メイクとかってこの世界で普通にするのか」

「普通ではありませんよ。レギン様がプレイヤーから話を聞いてこのお店を作ったのです」

「あんな横暴な王様が慕われる理由がわからんな」

「ふふっ、あんな横暴な王様は他にはいませんね。あれほど平民に真摯になれる王様も」


 それから訊いてもいないのに、リーはレギンについて語り出した。


 水神の使徒の攻撃を一人で食い止めた。

 飢饉に瀕したとき、数万人分の食料を他の都市から交渉で勝ち取った。

 貴族の反発を押し退けて、平民が5階層よりも下へ移動できるようにした。


「さらには、人生の楽しみを失った人には新たな楽しみを与えました。

 私にとってはこの仕事です。

 まだまだ教えて差し上げたいことは多いのですが、終わってしまいましたね。

 レギン様もお待ちです。またのご来店をお待ちしております」


 からんからんと扉の鈴の音を鳴らす。

 レギンは店の外で空を眺めていた。

 懇切丁寧に説明されたからか、その横顔に不思議と凄みを感じた。


「次は一つ下の階層だ。ついでに階層の降り方も教えてやる」


 レギンが店に入れたくせに、メイクの感想もなく先を急ぐレギンに苛立つも、ぶれずに歩むその背中が苛立ちをなくさせた。

 そういえば、レギンは住民からも、プレイヤーからもすれ違うたびに挨拶をされている。

 俺の一歩前に立って歩いているが、ちらちらと後ろを気にする様子もうかがえる。

 これほど慕われている王様に、三ヶ月もの長い時間を待たせたという罪悪感が芽生える。


「1−4までの階層の降り方は設置されてある魔法陣に乗ればいい。

 5階から下はギルドを通れば大丈夫だ」

「5階層より下に行けるなら、先にファーニールに会おうか?」

「ロスが気にすることではない」

「ファーニールではない方を気にしている。

 先代は、由良は俺の育ての親だから、親孝行はしないと。

 それに、頼まれたことがあるんだ」

「だとしても、ファーニールに会いにいく権限がロスにはない。

 物事には順序とタイミングがある」


 レギンは詮索することはなかったが、話題が出た以上あの部屋であったことを思い出してしまう。

 あれは俺が、梁川健斗の人格を取り除いたときのこと。



「『複製』で梁川健斗の魂を入れる器を作れ。

 我はスキルを使えんが、キミは問題ないはずだ」

「テレビとか出していたのはスキルじゃないの?」

「あれは粘土を捏ねた結果でスキルではないのだ」


 由良に言われた通り、自分の体を『複製』する。

 出てきたのは幼い吸血鬼。


「キミは元の男の肉体に執着はないのだな」


 そうか、アザクラが始まる前の姿で良いのか。

 男のときの姿を思い出して……『複製』。

 しかし、いくら『複製』しても生まれるのは吸血鬼の幼子。

 細部まで必死に思い出しながらマネキン工場のように量産していると、由良が言う。


「カカッ! むごいな、あいつら。

 もしやとは思ったが、まさか男の肉体での生活も偽りとは」

「それって……」

「梁川健斗という人格が最初から存在しなかったということだ」


 薄々気づいていたおかげか、それを知ってもため息ひとつで心は穏やかになった。

 仕方ないと割り切るべきだ。

 あいつの考えることは俺には解らないのだから。


「だったらこの体で良いよ。

 頼む、俺の記憶を全て移してくれ」

「良いのか? 全てが偽物だぞ」

「うん、俺の願い事は変わらないから」

「キミがそう言うなら……始めよう。

 まずは、キミの魂から梁川健斗としての記憶を全て引き出す。

 これを転がっている吸血鬼に埋め込む……」





 あれ? こっから記憶が途切れている。

 レギンには触れていないし、『複製』で記憶を蘇らせてみよう。


「残っているキミの記憶はまっさらになった。

 キミにこんなことを言ってもさっぱりだと思うがな。

 アルギュロス・ロードオーバーソード」

「あぉ〜、だあぁ」

「はっ、し、しまった! 

 本当に梁川健斗の記憶をすべて移してしまった!!

 言語能力などの人としての記憶すらも!!」

「ぁあ〜あ、うまあぁ」

「日本語を1から教えるとしたら、5日では圧倒的に足りん!

 スキルで補完することもできない。

 ……ほら〜、ロスや。ママだよ〜、ママ」

「ままっ、ま、まーまま」

「おおっ、言葉を覚えるのが早いな。

 これならば数ヶ月で元の言語能力に戻るはず。

 じゃが、勉強物は……そうか、梁川健斗の一生を本にして読ませれば……」


 これだ!!

 俺が三ヶ月も眠っていた理由は……赤ちゃんプレイだ!!!!


 三人称視点のせいか、羞恥心がモロにくる。

 記憶の『複製』は止まらず、由良にあやされている姿が再生されている。

 き、きつい。肉体も成熟した裸の俺。

 育てられた記憶はあるにはあるが、赤ちゃんのころの記憶はもちろんない。

 子育てと言えば聞こえはいいが、背格好が大人だから赤ちゃんプレイとも言える。


「すまんな、おっぱいは出ない。

 ほ〜れ、ほれ、指をちゅぱちゅぱ……おいちいでちゅか〜」

「んあっ、ああ〜、っちゅ。あう〜、ひゃひゃ」

「おお、笑ったぞ! カカッ、これが母性というやつか。

 なかなかどうして、悪くはない」


 むりむりむり!

 全身がむず痒くて死にそう!!

 由良も楽しそうに指を舐めさせるんじゃない!!!


「あうぁ〜、まーま。まーま」

「そんなに吸いたいのか……出ないが、吸わせてみるか」


 ユラが胸の先端を俺の口に近づけようとした。

 授乳が精神の限界を迎え、記憶の『複製』を止めるべくレギンの手をぎゅっと握る。



 ……よし、止まった。

 …………ふぅ、俺が三ヶ月寝ていた理由を知れてよかった。

 あー、まったくまったく、うろ覚えの部分や、完全に忘れている部分の記憶を『複製』するときは、覚悟を持ってやらないといけないな。


「どこか行きたい店でもあったか?」

「いやっ、そんなんじゃない」


 ぱっと手を離す。


「……その場で飛んでくれないか? できるだけ高く」

「飛ぶってジャンプのこと?」

「そうだ」


 その場で跳ねると、もう少し、まだまだ、あとちょっとだ、と言われるたびに足と地面の距離を伸ばした。

 レギンは一本の剣を取り出すと、徐にその剣を地面に突き刺した。

 その瞬間、周りにいた人たちは慌てて剣から離れ始めた。


「――『聖剣』コラリス。触れた範囲を崩壊させる能力」


 強烈な破裂音。剣の中心から半径3mほど地面に穴が空いた。


「きゃああああぁぁぁ!!!」


 浮遊感が恐怖を倍増させる。

 落下速度が速くなり、風の轟音が耳を支配する。

 レギンは『聖剣』をさらに下に向かって投擲する。

 時間差で破裂音が何度も響く。


「むっ、力を入れすぎたな。

 かなり下まで行ってしまった……おいっ、レギン様の手を握れ」

「なっ、なんて!? 聞こえないいいぃぃ!!」

「面倒なやつだ。こっちへこい!」


 ぐいっと腕を引っ張られ、レギンの胸に体が収まる。

 飛ばされないようレギンの体をがっちりと抱きしめて身を任せる。


「『聖剣』フロートフロレイン。対象を浮遊させる能力」


 次第に落下速度が遅くなり、目を開く余裕ができた。


 ……すごい。

 火床ひどこの明かりが鍛冶の都市であることを証明し、階段のように建てられている建物群の整列の綺麗さ、運搬されている鋼材の量が技術の高さを表している。


 これが……鍛冶神の都市、ニーベング。


「本当はギルドを通さなければ5階層まで行ってはならんが、今回は特例だ。

『聖剣』を回収しなければならん」

「……穴は誰かが修理するの?」

「この地下階層に巡る魔素が自動で元に戻す。

 魔素の残量が少ない今、ああいうことをすべきではないとわかってはいるが、年甲斐にもなくはしゃいでしまった」

「ふーん、ていうか、『聖剣』を使うときってわざわざ能力も言わないといけないの?」

「本物の『聖剣』はすべて【聖王】が所持している。

 聖騎士や鍛冶職人の作る『聖剣』のレプリカは、能力を使うために許可がいる。

 その許可を取るのに、能力を口に出すのだ。理由は【聖王】が決めたらしいが、レギン様ですら知らん」


 許可取りの方法が簡単すぎやしないかと思ったが、レプリカですら数は少ないらしく、それでまかり通っているのだと。

 コラリスはかなり深く落ちてしまったようで、レギンは落下スピードを早めた。



「12階層、かな?」


 レギンは木に引っかかったコラリスを引き抜き、答える。


「正解だ。律儀に数えていたのか?」

「景色見ながらだったらからついでに。

 こっからどうするの? その浮遊する『聖剣』で上がるの?」

「それでもいいが、面白みに欠ける。

 ……勝負といこう。報酬は、……そうだな。敗者は勝者の望みを一つ叶える。

 内容は、どちらが先にこの階層のボスを倒すか。

 もちろんハンデはやるぞ」

「……どんなハンデ?」

「ボスの居場所を教え、ボスと遭遇してから5分間レギン様は手を出さん」


 つまり、俺が5分でボスを倒せるかどうかの勝負。

 ボスの弱点とか、能力は教えてくれなそうだが、進化したこの体なら、どんな敵でも軽く屠れる……はず。

 負けたとしても、レギンの望みなんてえっちなのに決まっている。

 だったら別に負けても問題ないし、俺としてはどっちでもいいし。


「レギンに勝って、鍛冶神の使徒の座をもらおうかな」

「ほほう、言うではないか、ロスよ。

 戦いの準備は向かう途中に終わらせておけ、数分もかからん」


 豪勢に笑うレギン。

 冗談のつもりで言ったのに、まさか通るとは。

 12階層にそこまで強い敵がいるのかと、不安と高揚を持ってレギンの後ろを歩く。


 何度か分かれ道があったが、レギンは迷うことなく先に進む。

 生い茂った植物で隠れていた扉を見つけたり、ターザンのようにつるで崖を渡ったりと、この階層で体験できる遊びを教えてくれた。

 道中、木の魔物やスライム系統の魔物が多く出現した。

 『複製』で炎系統のスキルを使いつつ、この体での闘い方を学んでいった。



「この扉の先だ。

 レギン様は付き添うが、入るタイミングはロス次第」

「準備はできている。あとはボスの息の根を止めるだけ」


 扉のサイズ的に、中型の魔物だろう。

 取っ手はなく、両手で押して入る。


 暗い。木の擦れる音。水滴の跳ねる音。

 すぐさま『複製』で電灯をいくつも作り出し、ボスの風貌を露わにする。


 なるほど、制限時間が5分の理由はこれだな。

 レギンにはどうしても俺に叶えてほしい望みがあるらしい。


 そこには、根っこに守られたまん丸とした卵があった。

 その卵のてっぺんに6:26と、文字が浮かび、1秒経つごとに1ずつ減っている。

 卵の状態だが、俺はボスと遭遇してしまっている。

 レギンはタイミングを俺に任せているので、俺が慎重になれば回避できたかもしれない。


「してやられたな。認めるよ、俺の負けだ」

「その潔さ、大好きだ!!

 ではロス、これからお前の体はレギン様の所有物だ。

 手始めに心臓を10個渡せ、『複製』したもので構わん」

「……なんに使うの?」

「『魔神』の心臓が生み出す魔素を、ニーベングの維持のために使う。

 地下階層の魔素だけでは不十分でな」

「『複製』したものでいいなら」


 減るのもではないし、罪悪感を取り除くためにも心臓は渡そう。

 渡すけど、所有物になるのは……想像の範囲だけど、所有物の範囲は詳しく決めないと。

 俺も使徒の立場を望んだから、同じ程度の望みを断れない。


 袋を『複製』して、その中に10個の心臓を入れる。

 それを渡すと、レギンは背後にいた何かに預けて、言う。


「3個まで消費して良い。

 いち早く最下層まで魔素を回せ」

「……誰?」

「あいつか? あいつはレギン様の直属の部下だ。

 さっ、勝負は終わったといえ、孵る大蛇、アヤタルはロスが殺せ」

「わかってるよ……あと、心臓はあげたけど、俺がレギンの所有物になるってのはどの範囲までかは話し合いだ」

「いいが、あの卵、孵るまで1分もないぞ」


 卵に亀裂が走る。

 装備も変えるべきだが、レギンが用意してくれた服は脱ぎたくない。

『聖剣』コラリスを『複製』し、深呼吸をする。


 『聖剣』を握る手からは煙が出る。

 やっぱしか、でも……能力は使える。

 卵が割れた。……来るっ! 


『シャアアアアアア!!』


 アヤタルの静かな咆哮。吐瀉物を撒き散らしながら突進してくる。

 大きく口を開けるアヤタルの喉元に向かって。


「『聖剣』コラリス。アヤタルを崩壊させろ」


 コラリスの範囲に触れたアヤタルは、頭から粒子となって消えていった。

 所詮、浅い階層のボス。

 コラリスが強いだけかもしれないが、これならソロで問題なさそうだ。

 役目を終えたコラリスは朽ちて泥となる。

『聖剣』は便利だけど、自傷と使い捨てってのが欠点だな。


「レギン、話し合いを……」

「二人きりになればだな。

 ここは、人が来てしまう」


 手に残った泥を振り払っていると、新たに部屋に入ってきた二人組と目があった。


「――――その矢筒、ええ加減に変えたらどうです?」

「ダメや。これは、うちの一生の宝物やから」

「……過去の女のモノなんて、忘れてしまえば?

 持っとくだけでも辛くなるだけです」

「それだけはあかん、これすら失ったら、うちはもう立ち直られんよ」

「わかって……ごめんなさい。って、まだ人が。

 レギン、様? なんでこんな階層にいてる?」

「ほんまや……怒ったら怖いし、はよ戻ろ……えっ、…………えっ? うそやろ。

 もしかして、ヤナちゃん?」


 新たに入ってきた二人組。

 格好は変わっているが、二人同じように生えているケモミミに、大人の男性が話しかけようモノなら通報されそうな風貌。


 本で読んだ、カエデと……九条だ。



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