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吸血姫として現実世界を生き抜くために  作者: ふじごがつ
第三章 《鍛冶神》 ニーベング
37/38

No.3-1 「地下階層 0-1」

 

 黒のトランクスを装着して血の結晶から魔道具や装備を回収しながら歩いていると、この世で最も嫌いな扉の前に出た。

 到着するのに前回ほど時間はかからなかった。ステータスが上がったおかげだな。

 効果を失っていると分かってはいても、過去のトラウマが体を震わせる。

 恐る恐る扉を押す。軽い。

 ギギィと鳴らして、真っ暗な部屋を灯す。


「『複製』懐中電灯」


 カチッとスイッチを押す。

 懐中電灯の明かりで扉の隙間から覗き込むように見回す。

 床に絨毯じゅうたんが敷かれ、その真ん中に棺。それ以外は何もないサッパリとした空間。

 覗いていた隙間から入り、片手で棺の蓋をずらす。


「……俺の顔と変わらないな」



「キミ、起きたら我の棺を探せ。恐らくだが、キミに『影化』を与えた扉の中にある」

「遺体を弔ってほしいのか」

「遺体はあるが、違う。その死体が握っている指環を回収してほしいのだ」

「いいけど……呪われている指環とかじゃないよね」

「そんなものではない。四つあると思うが、その一つをファーニールに渡してくれ。これはお願いじゃから無視してくれても構わん」



 哀しげな顔で頼まれたら断れないんだよ。

 で、握っている指環って……これか。握るというか、しっかり指にはまっている。取っても大丈夫だよな。墓荒らしみたいでバチが当たりそうだけど。


 死体の手に触れると、冷たく固まった正気のない感触が広がった。

 ひいっ、き、気持ち悪い。でも、抜かないと。


 指が細くなっていたのもあり、簡単に指環を全て回収できた。

 ファーニール、恋人に渡してほしいと頼まれた指輪は……絶対これだ。

 一つだけ輝きが違っていたり、他の三つの形状に見覚えがあったりで簡単に見分けがついた。

 頼まれた指環はオブジェクト・リングに、残りの指環は適当にはめた。

 そして……。


「『強固なる血の糸』『裁縫』」


 棺の遺体が着ている服を作り、天に掲げる。

 テッテレー、俺は文明を手に入れた。


【舞い散る粉塵】

 由良にニーベングで最も役立つ装備だからこれを着ろって言われた。

 全身覆える灰色のローブ。霧が充満するニーベングでは姿を隠すのに便利な上、太陽の光を浴びないためのフードも付いていて【吸血姫】にとって完璧な服。

 あと二着ぐらいは予備を作っておくか。


 ずらした蓋を元に戻して、部屋を出る。

 この洞窟から脱出するには、あの魔道具を『複製』すればよかったはず。


「『複製』転移陣:カーディン」


 床に魔法陣が現れる。

 乗ればすぐにカーディンだが、今の時刻は、時計を『複製』して7時。

 24時間のじゃないから朝か夜か。

 仕方ない、肌の露出をなしにして魔法陣に乗ろう。



 よし、夜だ。ひとまず特殊クエストだけクリアしないと。

『彷徨いの森』なら、地図を見なくてもこの肉体なら。ドンッ。

 その場で垂直跳びをして灯りが目立つ場所に体を向ける。

 着地し、体の正面に向かって足をすすめる。


 閑古鳥が鳴いている。

 すでにプレイヤーの移動は終わっているようだ。

 出遅れたからには急がないと。


 ギルドも人っ子一人いない。

 現地の住民は冒険者にならないのか?

 そんな疑問は置いておいて、受付に特殊クエストを受注するよう言う。


「すまない、『ニーベングの軌跡』を受けたいんだが」

「……確認しました。それでは、このチケットを持って『彷徨いの森』を抜けた先にある港に行ってください。船長にチケットを見せれば問題ありません」


 手渡された紙を眺めながら、


「これって、一枚だけで何人乗れる?」

「一人です」

「……だったらもう一枚貰える? こいつを連れて行かないと」


 受付は俺の視線の先に顔を向けるも、そこには何もない。

 受付は何のことかわからず、マニュアル通りに答える。


「申し訳ございません。チケットはクエストを受注した者にしか……」

「そう、悪かったね。駄目ならいいよ、駄目なら」


 正規の方法で行けるならそれがよかったんだけど、『複製』:ニーベング行きのチケット。

 ほら、ファー、出ておいで。せっかくだし、話しながら行こうよ。

 プレイヤーはここにいないし、俺も守られる存在じゃなくなった。


「それに、久しぶりにファーと話したいんだ」

「――えっへへ、ファーもそう思ってた!

 んんーっ、ほんっと久しぶり! ヤナちゃんもすっかり大人になっちゃって」

「身長だけだよ。……あと、俺はヤナじゃない。ヤナには眠ってもらった。深い、深い眠りに」


 ちんぷんかんぷんなファーだが、考えることをやめて俺の胸に抱きついてきた。

 俺はファーの背中に手を、お尻に手を。ファーの体を持ち上げて港まで歩いた。


「俺だけが知っていればいいんだ。これから俺のことはロスって呼んで」

「ロスちゃんね、分かった!

 ファーね、物覚えが悪いから忘れないようにする!」



「おうおうおう! こんな時期にプレイヤーが残ってたんだな!

 いいぜ、早く乗り込め! こっから3時間は我慢しろ!」


 乱暴に案内された客室には暇つぶし用のボードゲームがいくつも用意されていた。

 中には二人用のボドゲがあったので、ルールが簡単なのを選んでファーとプレイする。

 船はひどく揺れる。そんな中プレイできるゲームといったらトランプだ。

 トランプのゲームを片っ端から説明すると、ファーがババ抜きをしたいと。

 カードを赤色のみにし、充分にシャッフルして配る。


「3時間か、転移とかさせてくれたら楽なのに」

「しょーがないよ、ユラちゃん対策で神同士が協力してるっていっても、元は争っていたとこもあるしー」

「なら、仕様がないな。上がり」

「あーっ! ロスちゃんつーよーい! もう一回、ねっ、もう一回だけ!」

「ファーはわかりやすいから。もっとポーカーフェイスを頑張らないと」

「だってー、ジョーカー来たら焦っちゃって顔に出ちゃうもんー」

「……手加減はしないぞ」

「当たり前! 手加減されて勝っても嬉しくないもん!」


 ――こうして、ニーベングに到着するまでババ抜きをする羽目になった。


「最後まで勝てなかったー!」

「本当に最後までやるとは、そんなに気に入ったの?」

「うん! ファーはロスちゃんと遊べること自体気に入ってからねっ」

「さっさと降りろ! こっから紹介状に書かれてある場所に行け。

 そしたら案内役が来るはずだ。お前らは来るのが遅かったから謝ったほうがいいぞ! 達者でな!」


 ドンッと、空気の読めない登場をしてきたが、言うべきことを言って慌ただしく船内を走っていった。

 急いでいる中、俺たちを乗せてくれたんだ。文句は、いや。ちょっと愚痴る。


 荷物はないので、颯爽と船から降りて、船員に軽く手を振ってから、港にある看板で示されていた中心部に出発。


 由良から聞かされていたが、霧が充満していて看板通りに歩ける予想がつかない。

 まだ港だから迷いはしないが、奥へ進めば進むほど霧が濃く、場所によっては蜃気楼を見せてくる場所もある。

 太陽は姿を見せないが、この霧の中でローブを脱ぐ必要性はない。

『聖王の紹介状』に記されてある場所は、ニーベングの地下階層。

 つまり都市の中心部までは自力で辿り着かないといけない。

 道も由良に聞いておくべきだったな。と反省の色を描くと、由良から貰った三つの指輪が一方に光を差した。


「……ファー、行こうか」

「うん! 実はね、ファーも初めてなんだ。ニーベングに行くの」

「カーディンでお留守番していたの?」

「ううん、お留守番はしてたけど、前は現実のほうに居たから」


 眷属の仕事ってシフトみたいに持ち回りなんだ。

 でも、ファーの力は隠密に特化しているし、どちらの世界でも問題ないのだろう。


 しばらく歩いていると、地面の砂に足を取られるようになった。

 中心部に近づいたからか、足が埋もれる具合がどんどん悪くなる。

 ファーは、……大丈夫そうだな。



「ここが……鍛冶神の都市、ニーベング」

「すぅっごい寂れてるね!」


 ファーの言葉を否定できない風景を醸しだしている。

 見たところ、建物はあるが砂を被ったり、風化したりしていて人が住んでいる気配はない。

 地下階層というのだから、どこかに地下へ潜る穴とか階段があるはず。

 それを探しながらニーベングの街並みを見ていると、


「あれじゃない!?」


 ファーは何かを見つけたのか、走り出してしまった。はぐれないようファーの後ろを追う。

 止まったファーの目の前には、砂漠都市にはあり得ないほど近代的で人が100人は入るエレベーターが存在していた。

 エレベーターの中には砂が溜まっているが、中のボタンは光っていた。

 ファーと一緒に入る。ボタンは上から順に0、1しかなく、0を押しても反応がなかったので、1を押したらガコンと扉が閉まり、下に降りていった。




 エレベーターが停止し、扉が開く。

 そこには、デザイナーズマンション的な建物が、煌めく武器を携えるプレイヤーが、商売に勤しむ声があった。

 地下というが、天井は高く辺りを照らす星のようなものが見える。

 次の朝には検証しないとだな。

 もし地下の灯りだとしても、その灯りの度合いによっては肌が焼けてしまう。


「どうしようか、ファー。

 案内役を探すのを先にしとうと思うんだけど……」


 ファーの意見を聞こうとしたが、すでに背景に溶け込んで見えなくなっていた。

 俺が全力で探そうとすれば見つけられるが、ファーも仕事をこなしているんだ。邪魔をしたらアルギュロスに怒られちゃいそうだし、ファーとはお別れだな。


 さて、まずは聞き込みからだ。

 ここが地下階層で合っているか、案内役をどう見つけるか。

 この都市の住人に訊いてもいいが、やはり経験したであろうプレイヤーに訊くのが一番に違いない。

 どこかに、優しそうで大人しそうな人畜無害君は……いた。

 人に話を訊くのなら、多少は媚びた格好をした方が成功率は高い。


 全身を隠していたローブはそのままに、フードを外して自慢の長髪をかきだす。

 胸のボタンも外して、と。


「そこのお兄さん、ちょっと訊きたいことがあるんだけど」

「……へっ、あっ、はい。なんっ、ですか?」

「さっきここに着いたばっかりで、案内役がどこにいるかわかる?

 あと、ここって地下階層で合ってる?」

「あっ、えっと……その」

「…………すまない。急に訪ねた俺が悪かった。気にしないでくれ、別の人を探す」

「えっ、あはは……はい」


 ――流石にコミュ障すぎだろ。

 人に訊かれたことぐらい答えれないと困るぞ。

 だけど、まぁ。俺もよくテンパる側だったからそっとしといてあげよう。

 他の人は、……イカツイ系は論外で、女の人は格好問わず怖い。

 選択肢が少なすぎるぞ。

 仕方ない、プレイヤーは諦めてどこかの店主に訊くか。結局それが一番丸い。


 賑わっていない適当な店を選んで入る。

 人は数人いるが、気にせず店番に声をかける。


「突然すまない、『聖王の紹介状』に記されてある案内役の人について知っていることはないか?」

「あん? 案内役……ちょっと見せてみろ。

 なるほど、運がよかったな。こいつならもうすぐ……噂をすればだ」


 店番は入り口の鈴が鳴ったのを聴いて、紹介状を俺に返す。

 店番は顎で見ろと指示をしてきた。その先に視線を送る。

 しかし、俺が視界に収める前にそいつは背後に移動し、籠手のまま俺の髪を掬い上げて、パラパラとほぐす。


「珍しいな、銀髪。さらさらで羨ましい」

「……えっと、どちら様で」

「なに!? レギン様を知らない愚か者がいたとは、嘆かわしい。

 知らぬなら自己紹介を聴かせてやろう。

 レギン様は鍛冶神の使徒であり娘の一人! 鍛冶神がいない今、このニーベングの実質な王様である!」


 店の売り物が振動するほどの声、無駄に張られた胸、自信に満ち溢れた鼻息。

 インパクトの強すぎる自己紹介で今後忘れることは許されない。というか、忘れることができない。

 しかし、この王様が案内役なのか?

 店番の口ぶりにそうだとしか思えないが、自分の名前に様をつける人に案内されたくないぞ。

 ……って、鍛冶神の使徒!? 俺の殺さないといけないやつじゃんか。

 もっと案内されたくなくなった。


 顔に力を入れて、へへへと苦笑いをする。

 レギンは手を俺の首に回して、持っていた紹介状を覗き込んだ。


「おやおやおや、お嬢さんがレギン様の案内すべき方だったとは。

 待ちくたびれたが、来たのだから案内せねばならんな。

 さー、着いてこい! 素晴らしきニーベングの端から端まで堪能させてやる」


 回した手を首から腰に移動させ、ぐいっと引っ張られて店の外に出る。

 有無を言わさない力に、ちょっぴりドキッとしてしまった。


「細いな。だが、胸はある。どうだ、今夜レギン様が抱いてやろうか?」


 体を弄る手つきは変態だが、とにかく顔がいいっ! 

 うぅ、乙女チックな反応をしたらいけない。

 引き寄せる手を外して、両手でレギンの胸を押す。

 レギンは拒否されたのに納得がいかない雰囲気を醸し出していたので、俺は言う。


「誘わないでほしい。俺……強引に迫られたら断れないんだ」

「お嬢さんは攻められたいと」

「違う! 攻めたり、攻められたりとかじゃなくて、そういう行為をしたくないの!」

「なぜだ? レギン様のテクニックは本物だ。何百人の女を抱いてきたことか。

 お嬢さんにじっくり味わわせてやろう」

「っ、お嬢さんってのも嫌だ。俺は……ロス。

 それにこの体は、まだ処女。誰の舌も指も入れさせるつもりはない!」

「レギン様の為に取っておいているのだろう、感謝するぞ」


 そう言って、今度は籠手を脱いで、ほんのり湿った手を俺の肌に直接触れてきた。


「下着はつけた方が……ははん、さてはレギン様に選んでほしいのだな。任せろ任せろ」

「だから離れろって!」

「無駄無駄、お嬢ちゃんの力では抵抗できん。

 もしや、わざと力を抑えているのか? まったく、誘うのがうまいことだ」

「くそっ、まったく話が合わない!」


 スキルで握力を強化して、なんとか服の中に侵入してきた腕を引っぺがして、落ちたローブを拾い、それで胸を隠して前屈みになる。

 レギンは籠手をはめ直して、はぁとため息続けに言う。


「そう身を固めるが、三ヶ月も待ったレギン様に褒美の一つもなければやる気というものが、なぁ」


 三ヶ月? どの三ヶ月だ?


「三ヶ月って……」

「決まっているだろう。ニーベングにプレイヤーが着陸してからすでに三ヶ月が経過している。その間、ずっと待っていたのだ、お嬢ちゃんのことを」


 そう言われ、はだけた服のまま店の中に入り、プレイヤーの肩を掴む。

 プレイヤーはうおっ、と驚く声が先に、視線を落として、はああぁっ! と二度驚き声を出した。


「今、何日?」

「……現実だと、確か11月6日、だった、はず」


 店にいた数人に聞いても、1日違ったりしていたが、全員が全員11月と答えた。

 どういうことか、俺が進化のために眠ってから100時間ではなく、100日経過していた。


 話が違うぞ、アルギュロス!!!


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