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吸血姫として現実世界を生き抜くために  作者: ふじごがつ
第三章 《鍛冶神》 ニーベング
36/38

No.3-0 「プロローグ・ロス」

 ここは……ユラが幽閉されている部屋に似ているが、違う。

 周りを見回しても赤と黒しか色がない。

 数分経過したところで嫌な考えが頭をよぎった。

 まさかユラのやつ、睡眠みたいなものだと言っておいて、この閉鎖空間で100時間過ごさせる気か!? それも一人ぼっちで?

 かなりの苦行だが、乗り越えた先にある未来を考えれば安いものだ。


 ぺちゃっと波紋を立てて寝転がる。

 もう裸で過ごすのは慣れたものだ。裸族と指を刺されても否定はできないな。

 どう暇を潰そうか考えていると、背後からぽこぽこと泡を弾きながら少し大人びた裸のユラが現れた。

 一人ではないのだとほっとしたが、文句を言わないと数分前の俺が可哀想だ。


「ひどいじゃんか。

 一瞬だって言ってたのに、これじゃ暇で死んじゃうよ!」

「カカッ! 此度こたびの主人様は元気じゃな」

「こたび? それってどういうこと?」

「我はユラであってユラではないということじゃ」


 はっと正体に気づいた俺に対し、


「察しは悪くはないのだな。

 そうじゃ、我が本当の7代目【吸血姫】、由良じゃ」


 仁王立ちで堂々と名乗るには似つかわしくない格好はだかだが、変な凄みがある。

 おお、と拍手をすると、満更でもない表情で由良は手を振った。


「とうとう我の出番が来たわけじゃな」

「もしかして俺と代わるってこと?」

「そうではない。

 我が先代にしてもらったように、キミにプレゼントを贈るのだ」


 プレゼントと言われてもまったく嬉しくならない。

 こんなところでもらうプレゼントなんて、どうせ気味が悪いものに決まってる。


「安心せい、きちんと良いものじゃ。

 といっても物じゃないがのぅ」


 プレゼントの想像がつかず、首を傾げる。


「プレゼントは、アルギュロスが【創造神】を目指す理由。

 それと、キミを取り巻く環境の全ての説明。

 あとは……時間が過ぎるまでの話し相手である我じゃ」


 そう言うと、由良は床に手を突っ込んで、よいしょと何かを持ち上げた。テレビだ、それも50インチはありそうなテレビ。

 床から湧いて出た長方形の箱の上に置いて、数歩下がった場所に二人掛けのソファ、小さなちゃぶ台にポップコーンとコーラを準備した。


「ほら、隣に座るが良い。見知った裸だろう。

 ん? 塩よりもキャラメル派か?」


 トントン拍子で準備を終わらせ、ソファに深く座り、テレビが真っ黒のままポップコーンを頬張る由良。

 深く考えても仕方ないんだ。プレゼントならきっちりとおもてなしされないと。


「俺はキャラメル派、それもカリッカリのやつ」


 要望を付けると、由良は取り出したポップコーンをキャラメル色に染め上げた。


「これでアルギュロスの過去を見るの?

 重要そうなイベントなのに映画感覚で見て良いの?」

「そうは言うが、我のときは泥臭い空間ではなく、リゾートの砂浜でかわいい女の子に仰がれながら見ていたぞ。

 先代が老人でな、この部屋の操作に慣れておったが、我はあまりな」


 リゾートよりはまだ、この暗い部屋の方が映像に集中できる。

 ちょこんと由良の隣に座り、キャラメル味のポップコーンとコーラを受け取り、一口。

 あっ、ちゃんとカリカリして甘い。味って再現できるんだ。


「上映時間は1時間程度じゃったかな。

 では、ポチッとな」





『【創造神】は戯れでこの世界を創造し、生み出した14の神にそれぞれ土地を与えた。最後に残った土地を支配する神が次の【創造神】だと宣言した』


『14の神はそれぞれ炎を司る神、時を司る神、水を司る神、鍛治を司る神、魔素を司る神、光を司る神、――』


「もう8つの神は死んでるから飛ばすぞ。

 ちなみにじゃが、カーディンの神は時、これから行くニーベングの神が鍛治じゃ」

「スキップして良いの!?」

「良いんじゃよ、だって我見るの二回目じゃし、面倒じゃ」


 こいつ、映画館だとエンドローグで席立つタイプだな。


『――を司る神は、己の力を分け与えた2名の使徒を従え、土地を成長させた。そして、神の司る力を持った都市が次々に完成した』


 てか、この声デゥアルじゃん! 俺が聴き間違えるわけないし、えーデゥアルの録音してるとこ見てみたい!





「皆、作っておるし、試しに作るか。

 都市は……これぐらいで、使徒はこやつらにするか」


『事前に与えられた土地には何種類かの種族が村単位で生活している。魔素の神はひとりぼっちで生活していた2名を選出した』


「そなたらに命を与える。村を統一させ、都市を開発せよ」

「「……」」


 この世界の言葉で話しているつもりだが、そもそも言語を習得できていないのか?


「『言語習得』、これで良いか?」

「……あっ、話せる! 聞ける!」

「元気いっぱいだぜ!」

「ではそなたら、面倒だな……個体命を与えるか。

 こちらはエリマ、そちらはサンシップじゃ」

「……さんしっぷ」

「私、エリマ!

 おそらさんの名前はあるの?」


 お空? ああ、天から声だけを伝えておるから空なのか。


「名などない。他の神からは【魔神】と呼ばれておる」

「【魔神】様! 助けてくれてありがと!」

「ありがとー」

「礼などいらん。

 これからそなたにはせっせと働いてもらうからな」


 【魔神】はサンシップとエリマに使徒の力を与え、あれこれと指示をした。

 二人は命令に背くことはなく、忠実に指示をこなしてあっという間に数万人規模の都市を開発した。

 知識については何も施してはないが、あらゆる種族の村を話術で合併させたサンシップ。市民から反感を買うことなく、あらゆる防衛や政治を収めたエリマ。

 ランダムに選んだが、最も使徒に向いている二人だったな。


『途中、使徒が住まう城の城門にいた捨て子を保護したり、攻め込んできた時の神の軍勢を退けたりと、困難はありつつも被害を出すことなく生活していた。それから時は過ぎ……』


「【魔神】様、私の願いって叶えてくれる?」

「エリマにも願望があるのか?」

「うん、【魔神】様と出会ってからの夢」


 うむ、既に都市は他の追随を許さぬレベルで成長し、【創造神】になるのは確実と言って良いほど。

 これほどまで成長したのは二人の使徒のおかげじゃが、願いなんぞあるとは思わなんだ。


「【魔神】様に会いたい。多分、サンシップも同じことを思ってる。

 一目だけでもいい。わたしたちを悪魔から救ってくれた神様ってどんな顔してるのかなって」


 利用したつもりだったが、こやつらにとっては救いになっていたのか。

 都市の開発で神に許されているのは助言や能力の付与まで。

 直接この地に降り立っても、都市に手を施さなければ問題はないはず。

 何十年と命令しかしていなかったのだ。

 たった一度の願いすら訊かなければ神として崇められなくなるだろう。


「であればエリマよ。未開の山頂に家を作れ。

 そして、使徒の権利を他の信頼するものに譲渡しておけ」

「ってことは!」

「そこに行こうではないか。サンシップとクートロンにも伝えておけ」

「やった! やたやたやたっ。

 会えるっ、会えるっ、あはっ、あひゃひゃひゃ!」


 快調なスキップと共に【魔神】が提示した条件をいとも簡単に達成した。

 使徒の権利を持つ者はこの世で最強。

 その権利をあっけなく捨てるその姿に、どれほど会いたかったのか容易く想像できる。


『そして、【魔神】の使徒でなくなった、エリマ、サンシップ、クートロンと【魔神】は四人で過ごし始めた。とても神様には思えない質素な生活だが、平穏な日々は三人にとっての宝物だった』


「すまない。来る途中この子を拾ってな。

 介抱する準備と温かい食事を頼む」

「え!? そいつ悪魔ついてんじゃん!」

「……ひっ、ごめんなさいごめんなさい」

「こら! 悪魔ならエリマも持っておるじゃろ! 

 デゥアルをいじめるのではない」


 なんの因果か、この家に住むもの全員が悪魔に魅入られてしまった。

 そのせいでわざわざ【吸血姫】として現界せねばならなかった。

 この子……デゥアルも【悪魔の称号】のせいで村八分を受けていたのを、その村から誘拐した。


「デゥアル……私?」

「そうじゃ、前の名など忘れろ。

 そなたの名はデゥアル、我の新たな眷属となるがいい」

「あっ、ありがとう……ございます」


 怯えておる。生まれてずっと暴力を受けていた?

 いや、飢餓と疎外感のせいか。


「ここには悪魔に魅入られた者しかおらん。

 デゥアルも健やかに育つといい」

「そっ、生きて良いんですか。

 悪魔の私が……」

「神が許可する。

 デゥアルは神に逆らうのか?」


 サンシップが持ってきたパンを一口サイズに千切ってデゥアルの口に運ぶ。

 涙ながら我の指ごと食べる姿にエリマは怒鳴ったが、たんこぶを生やして自分の部屋に篭ってしまった。

 どうやらエリマは他の子と違って独占欲が強いらしい。


『【魔神】の眷属となったデゥアルは満足な栄養を摂取し、【魔神】の背丈を越そうとしたとき、初めて、【魔神】の過ごす家にノックの音が鳴り響いた』


 なんじゃ、他の4人は家事や森で遊んでおるし、ノックをするようなやつはいない。浮浪者か? 探求者か?

 だが、ここに住んでからそんなもの一度も。


『接続――』


 よく聞け、訪問者が現れた。

 許可するまで家に戻るな。


 これであやつらが危険な目にはあわんはず。

 さて、ご対面といこうか。


 扉の先には何もなかった。見えない何かがあるわけでもなかった。

 だが、しっかりと意識すると何かが立っていることは認識できた。


「誰だ、こんな山奥に来るなんぞ。助けはしない」

「親の顔を忘れたのか、アルギュロス」

「親? アルギュロス? 人違いじゃ……」

「【創造神】だ。おめでとう、魔素の神の都市が残った、お前が次の【創造神】だ。その報告をしに来たのだ」


 つまり、他の神は破れたということこか?

 なぜ……、エリマとサンシップが任せた使徒が他の都市を攻撃したな!

 正直言って、魔素の神の能力は14神の中で最も強いと自負している。

 他の神が炎や水、土で必死に開拓する中、スキルを使えば全ての能力が使えてしまう。

 戦争が起こっても、素手対銃火器のようなもので魔素側が負けるのはあり得ない。


「しかし、他の子から文句が出てな。スキルはずるい、俺らにも使わせろ。でないと公平ではない。と言って具合でな。私はそれを了承した。全員がスキルを使える状態で再戦だ」


 初めて相対した親にこれほどまでに殺意を芽生えてしまうとは。

 我はおかしくなったのか。


「この世界はどうなる……」

「壊す。アルギュロスよ、新たな使徒を探すが良い。最後に一つ、他の子の要望を聞くのだ、アルギュロスも言え」


 そう言うと、周りの背景がぼろぼろと崩れてきた。

 あの子たちと過ごした家が、なくなる。

 鬼ごっこした森が、バーベキューをした川が、成長の記録した木が、法界する。


 初めは暇潰しだった。

 あの子たちを教育したのも、都市を作り上げて他の都市を攻撃したのも、新たな【創造神】ができるまでの暇つぶし。

 だけど、この感情はなんだ?

 ひどく、痛い、生物としての欠陥が、目から流れていく。


「ならば、あの子たち、魔素の神の眷属を次の世界でも」

「それは無理だ。公平と言った。あれほど強大な力を持つ者を連れて行けば公平ではない」

「ぐっ! であれば【魔神】……我を【吸血姫】として次の世界で誕生させよ」


 今度は初めから我が直接世界に干渉できる。

 神である我が手を下せば、他の神を殺すなど動作もない。

 再び我の都市が残り、我が【創造神】となってあの家を取り戻してやろう。


「叶えよう、その要望を。次の世界でも励め、アルギュロス」


『こうして世界は崩壊し、造られた次の世界では魔素が充満し、誰もがスキルをしようできる世界となった』





 幼いが生きておる。約束は守るのだな。

 眷属たちのため早急に他の都市を滅ぼさなくては。

 形だけでも建物や使徒を決めるか……使徒はあやつら以外にさせたくはないが、戦力的に使徒は不可欠。


「『建物生成』、使徒は……適当な村から攫えばいい」


 しかし、スキルを発動しても建物が建たない。

 具体的な形を創造しなければいけなかったか?

 最近スキルを使っていなかったせいか、どうも発動の仕方を忘れてしまった。

 忘れてしまったはず……。


「……【創造神】のやつめ、【魔神】の力を取り上げたな。

 こんな状態で生かされたところで、他の神と退治するなどほぼ不可能ではないか」


 我に残っているものは……幼き吸血鬼の力と不死、のみ。

 神の力を振るえぬのに、勝ち残れと。

 可能性はあるが、0ではないだけ。

 神の力を剥奪されたことに絶望しつつも、少しでも力をつけるべく【彷徨いの森】で人間を狩っていると、


「けっこー探したよ、魔神様」

「……我は今すこぶる機嫌が悪い、死にたくなければ消え失せろ」

「えー、実の娘にそんな言い方ないんじゃない?」


 ……娘だと。我にとって娘と呼べる存在などこの世には。


「あひゃひゃっ、私の【悪魔の称号】忘れた?」

「……エリマ、なのか?」

「そーだよ! 魔神様の元使徒エリマちゃんだよ!

 ついでにこれ! クートロン!」


 差し出された手のひらには手を降るように葉をしならせる若葉。


「サンシップのやつはもういない。

 この世界を探し回ったけど、それらしき気配はなかった。

 でもね、デゥアルはいたよ。いたっていうか、これから生まれる。

 あの『接続』から何があったのかは知らない。でもね、私はもう一度家族揃ってご飯が食べたいな」

「すまない……我のせいで、これほど汚れさせて」

「あひゃひゃ! すっかり立場が変わっちゃったね」

「そうだな。我ももう神様ではなくなってしまった」

「ほんと!? だったらどう呼べば……私が考えてあげる」

「いや、我にも名前があった。アルギュロスという名前が」


 憎むべき【創造神】に名付けられたが、与えられた名に罪はない。

 いや……我もわかっている。憎むべき対象はいないことを。


「サンシップに会うまでアルギュロスには甘えないようにするね。

 あの子にまた会ったとき、罪悪感に襲われないように」

「安心せい、小さき胸だが貸してやる。今は存分に泣くといい。

 全て……我の軽率な発言のせいで崩壊してしまった。エリマ、サンシップ、クートロン、デゥアル……皆、本当にすまない」


『アルギュロスは【吸血姫】として歩みを始めた。その道は細く、ひどく脆い。だが、どれほど躓こうがアルギュロスは【創造神】になるため進化する』


 エンドロールは流れず画面がブラックアウトした。

 由良がパチンと指を鳴らすと、用済みになったテレビやちゃぶ台が沈んだ。


「終わったことだし、感想タイムといこうではないか。

 キミからどうぞ」

「……誰も悪くないってこと?」

「ふむ、キミはそういう見方をするのだな」

「だってさ、ユラ……アルギュロスはサンシップって子に会いたい一心で力をつけてる。他の神は【創造神】になるために力をつける。ただの競争じゃんか」


【創造主】がどうとかはなかったけど、【創造神】の使徒なんだろう。

 だからアルギュロスは敵ではないと知っているが、【創造神】の使徒である【創造主】を憎んでいるのだろう。


「由良はこれを見たとき、どう思ったの?」

「我は元々アルギュロスには協力的だったから変わりはない。知っているか?アルギュロスは協力者に、【創造神】になったときに願いを叶えてやる、と約束しているのだ。目的があった我は、当時の恋人に説明して戦ってもらった」

「……俺の知ってる人?」

「……すぐに会うことになるだろう。

 そやつの名はファーニール。幻獣種であり、【鍛治神】の使徒だ」


 使徒と恋人って……スケールが広いな。

 最低でもその地で3番目に強い人と愛し合ったってことだよな。

 なりそめとかファーニールの外見は気になるけど、それは実際に会ってからのお楽しみにしておこう。


「アルギュロスの過去については以上。次のプレゼントだが、……そうだな、率直に言おう。

 キミは特別な肉体、アルギュロスを元に作られたクローンだ」

「――――――は?」

「キミはクートロンに植え付けられた偽りの記憶と、肉体の奥深くに残っている記憶によって生成されている。

 ああ、今はこんがらかってもよい、だってキミは人間年齢で2ちゃいだ。赤ちゃんそのもの。進化の過程ですぐに整理できる脳が作られる」

「たっ、たちが悪い冗談は嫌いだよ!」

「……家族っている?」


 頭に姉の顔を思い浮かべて、頷く。

 由良は息を吐いて、尋ねる。


「キミさ、家族の名前、言える?」

「当たり前だ! 姉は、姉は……」


 おかしい、いくら思い出そうとしてもモヤがかかったように探すことができない。

 それに、俺が小学生のときの記憶も、中学生のときの記憶も今思い返してみればどこかハリボテのように。


「そう悲観することではない。

 キミはこれからなんでもできる、文字通りなんでも」

「……俺が生きてきた全てが偽物だってことか。

 梁川健斗は、存在しなかった……」

「梁川……アルギュロスにも情はあったのだな。……こっちの話だ、気にするな」


 否定ができないって苦しいな。

 2ちゃい、2歳ってことは和也との記憶や、姉との記憶は本物のはず。


「衝撃を受けているところ悪いが、追加情報として、キミの胸に抱く好きという感情はキミのものではない。先代の感情だ。

 カエデの恋人は三代目と四代目、ファーニールは我、アルギュロスを好きになったのは二代目、他は知らんが」

「そんなっ、はずは……」

「昔の……先代たちの思考にとらわれず生きたらよい。

 どうせ我もキミの進化が終わると同時に消滅する」


 俺が俺でなかった。

 それに、カエデに抱く感情も俺のではなかった。

 真実を聞かされてすぐに決断できるわけもなく、ソファに顔を埋める。



 カエデと一緒にいたいって感情は俺のじゃなかったら……九条を無視してもいい。

 そうじゃないだろ! 俺!

 同じ目に合わすんだ、あの痛みを感じさせないとっ。

 でも……九条と会うのは、怖い。とっても怖い。

 それに、あいつが【創造主】の使徒だとしても戦う意味はない。

 ……九条のことを考えるのはやめよう。

 アザーワールド内であいつに会う確率なんて低いんだから。

 今は俺の……梁川健斗のことだけを考えよう。


 そもそも現実世界に俺の居場所がなかったんだ。

 けれど、うっすらとだが色はある。

 この記憶に宿る梁川健斗は鼓動していた。

 存在しないはずの記憶を実際に存在させたことにすれば、健斗は生き返る。


「アルギュロスは、俺の願いも叶えてくれるのかな」

「当たり前だ。キミが知りたければ我と先代の願いを教えようか?」

「……いらない。願いは人には言わないもんだよ」


 梁川健斗という人物を蘇らせる。決めた、これが俺の願いだ。

 俺は俺が、梁川健斗ではないと自覚した。

 だから、俺は吸血鬼としてではなく【吸血姫】としてこの世界を壊してやる。


「……名前つけてよ。

 俺が【吸血姫】として異世界を生き抜くために」

「我のネーミングセンスは終わっておるが、いいのか?」

「では、キミの……八代目の名前は、アルギュロス・ロードオーバーソード」

「えらい長い名前だな」

「じゃったらロードオーバーソードの頭文字をとって、ROS、ロスとでも呼ばせるが良い」

「……意味は」

「アルギュロスを超える剣として道を歩め」

「カッコいいじゃん。気に入った!」





 そして由良と話すこと百数時間、ようやく誕生のときがきた。





 眠った場所、例の洞窟。

 たった数日前っていうのに懐かしいな。

 ははっ、おっぱいだ、おっぱいがある。

 背もだいぶ伸びたな。髪は相変わらず長いままか。


「あーあー」


 声もかわいい。

 あっ、赤い宝石。この石には俺の姿が映るんだよな。

 それに今は埋め込まれている武器を取れる。

 由良曰く、この宝石はアルギュロスの血の結晶で、進化した俺を【吸血姫】として認知したからだと。


 さて、道筋を覚えているかな。

 ここにある装備を全部回収しないと始まらない。

 俺の…ロスとしての冒険が。


「我は八代目【吸血姫】アルギュロス・ロードオーバーソード。

【魔神】を超えて世界を崩壊させし者」






 ……一人称は俺のままにしておこう。


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