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吸血姫として現実世界を生き抜くために  作者: ふじごがつ
第二章 《守護神》 カーディン(上)
32/38

No.2-20 「黒ビキニこそ至高-3」

 

 頭に生えるキリッとした金色の耳、ふわふわな毛並みの尻尾。

 外見からして狐の獣人種っぽいな。

 身長や体型もカエデと同じだが、子供のようなワンピースの水着がカエデよりも幼い印象を与える。

 九条はカエデの背から頭をひょっこりさせている俺に気づき、


「その子は誰?

 かえちゃんはお姉さんしかいなかったよね?

(あの優しいお姉さんも来てるのかなぁ。挨拶したいなぁ)」

「はあ? なんでそんなん教えなあかんの?

 馬鹿なうちとはもう関わりたくないんやろ」


 ほんわかな雰囲気の九条に対して、カエデは毛を逆立たせ威圧的に応える。

 俺がどれほどやらかしても優しかったあのカエデが、ここまで敵意を剥き出しにするって……一体何をされたんだ?

 アザクラが始まる前は仲が良かったって聞いていたけど、そのことを深く訊けるほど俺のメンタルは強くない。


「あたしそんなこと言ったっけ?

(ほんとに何のこと!? もしかして、何かを勘違いしちゃってるのかな。かえちゃんが連絡返してくれなくなったり、一緒に遊んでくれたりしなくなった原因ってそれ!?)」

「はっ、あんなことしといてよくうちを前にそんな態度とれるわ。

 なんも用ないんやったらデートの邪魔せんといて」

「で、でーと? かえちゃんが? 相手は……その、かわいらしい子?

(かえちゃんがあたし以外の人とデートなんて……嘘、だよね?)」

「そうや、今めっちゃ楽しいんやから邪魔せんといて。

 わかっとると思うけど、プールん中でも話しかけんといてな」


 そう言ってカエデは俺の手を引き九条の横を通り過ぎようとしたが、奥のロッカーから現れた二人の女の子と目が合い、カエデの足がピタッと止まる。


「まじ? 蓮花れんげさんじゃん。

 偶然〜、来てたんだ」

「うわ、てか何その水着、だっさ〜。

 全然似合ってないくてウケるんだけどwww」

「ちっ……。うちが嫌いならいちいち話しかけてくんなや。めんどくさい。

 うちに無駄なカロリー使わせんといて」

「こ〜わ〜い〜。

 ささっ九条さん、こんな凶暴な人は放っておいて行きましょ」

「そ、そうね。かえちゃんも大人しくしないと顔のしわが増えちゃうよ。

(こんなこと言いたい訳じゃないのに! かえちゃんと話そうとしたら照れ隠しで口が悪くなっちゃうこの性格が憎いぃ。この二人はよくわかんないけどかえちゃんを目の敵にしてるしさ〜、あんたたちの方が凶暴だよぉ)」


 出会って早々にカエデを中傷してきた取り巻きは、九条と違って嫌な女子っぽさ満載で怖い。

 こっちが何か反論しようとすると、蛇のように睨んできそうな雰囲気を持つ二人。

 その雰囲気に圧倒されて俺はカエデの背にぴったりとひっつくと、カエデの体が震えているのがわかった。


 俺を守るためにカエデは言いたくもない言葉を放っているんだ。

 俺に矛先を向けさせないようわざとあいつらの土俵に立って、小さな体で気を張って……そう思うと、逃げ出したいほどの悪い空気を感じなくなった。

 すーっと体が軽くなった。

 この嬉しい気持ちを伝えるべく、俺はカエデの肩や脇から手を前に出してぎゅっと体を抱きしめる。


 脈絡もなく抱きしめたことによって困惑をあらわにするカエデ。

 ぽかんと口を開ける九条とその取り巻き。


 俺は説明することなく抱きしめた腕でカエデのお腹やら胸のお肉を締め付ける。手に鎖骨やら肋骨の形が伝わるほどに。

 カエデは俺の腕を掴み、苦しそうな顔で振り向く。

 頬に流れる一粒の涙を俺は舌で拭きとり、ありがとうと一言。

 その行動を見た取り巻きは、


「はっ、変な人の近くには変なやつしかいないね」

「あたしらの前でキモいことすんなよ。

 あれ、……もしかしてさっき言ってたデートってほんと?

 蓮花さんは女の子が好きだったんだ。レズなんだ〜、ヘ〜。

 てかさ、そうなら体育の着替えとかのとき、あたしらのことえろい目で見てたってこと?」

「まじ!? そんなん最悪!

 きっしょ〜、まじきっしょ〜。

 そんなん性犯罪者と一緒じゃん!」


「「キャハハハッ」」


 腹を抱えて下品に笑う取り巻き。

 この二人の口の動きや声質にストレスが溜まってきていたが、これから起こることを考えれば許してやるのが男ってもんだ。

 九条はいいとして、カエデには取り巻き二人と完全に縁を切ってもらわないと。

 今までの交友関係とか知らない。

 夏休みが終わって学校でこの二人とカエデが出会うとしても、扱いが今と変わらなさそうだしやらないという選択肢はない。

 それに、この二人がカエデに嫌な思いをさせてるってだけで罰されるべきだ。


「さっきカエデが言ったけど、俺らデートしてるから。

 カエデは俺のだから。冗談とかじゃないから。

 俺たちは付き合うの、これから。

 ……自分の気持ちに素直になったから」

「はぁ? なにマジになってんの?

 せっかくあたしらが話しかけてあげたのに。

 興醒め、まじだるいんだけど」

「そうそう、いくら二人の仲が良くても冗談はダメだよ。

 かえちゃんも、ね? きちんと否定しないと誤解しちゃう。

(お願い、ううんって言って、首を横に振って。じゃないと耐えられないよ)」


 カエデは三人の言葉に耳を貸すことなく、俺の指に指を絡ませて、


「ほ、……ほんまにうちと付き合ってくれるん?」

「そう言ったじゃん。だって俺はカエデのことが好きだもん。

 一目惚れ的な好きもあるけど。

 外見も中身もぜ〜んぶ、ぜ〜〜んぶ好き、大好き。

 そうだ、お腹も減ってきたし、ご飯でも食べて一緒に話そうよ。

 これからのことを」


「「ちょっ、――――」」


 野犬のように吠える二人の言葉を右から左へと聞き流して、出口までカエデの手を引いて歩く。

 通り過ぎざまに見えた九条の唖然とした表情が妙に胸をざわつかせるも、関係ないと割り切ることにした。


『接続―デゥアル』


 どうせ側にいるよね?


 ――もちろんです。

 なにか問題がありましたか?


 問題ってほどじゃない。

 俺の前にいる二人にだけ毒を与えるってできる?


 可能です。

 効果に要望はありますか?


 短期間の結構やばめな腹痛とか、いける?


 それだけでよろしいのですね。

 では、あのお二人を軽度の食中毒状態にしましょう。

 ……ちなみにですが、おもらしの処理はこちらで済ませてありますのでご安心を、それでは。



 おもらしのリカバリーすら完了しているなんて、至れり尽くせりで頭が上がらない。

 ……というか、デゥアルが処理したってことは一緒に行動していた姉も俺のおもらしを知っている、と。


 ああああああぁ!

 さっ、最悪だ!

 絶対死ぬほどいじられる!

 ただでさえオモチャにされているのに、これ以上だと俺の尊厳がさらに地の底まで落ちてしまう。

 自業自得なのはわかってるけど、わかってるけどぉ……。


 ううん、起きてしまったことをうじうじと考えていても仕方ない。

 もういっそ開き直ろう。

 姉にとやかく言われようと心を強く持てばおもらしなんて無かったことになる、と思おう!

 じゃなきゃやってられっか!


 足を進めていると、俺の足を引っ掛けるように取り巻きの足先が伸びてきた。

 俺は伸ばされたふくらはぎに蹴りをおみまいするも、ぽよんと跳ねて何も言えない空気がその場に広がる。

 互いに次の動きを考えていると、突如として足を伸ばしていた取り巻きがお腹を抑えてへたり込んだ。


「ちょっ、お腹が変……やばめに痛い」

「まじ!?

 病院行った方が……はぅ!

 なんか……私もやばくなってきたんだけど」


 もう一人は心配そうにへたった取り巻きの介護をしようとするも、自分のお腹の調子に気づき、速攻でトイレに駆け込んだ。


 デゥアルがどこから見ているかは知らないが、これで野犬たちへのお仕置きは完了。

 ふふふ、謝ってももう遅い。

 取り巻き共には今日1日、プールの水よりもトイレの水を味わってもらおう!

 別に八つ当たりとかじゃないんだからね。

 逆に羨ましいくらいだよ。

 だって俺はトイレの水を味わうことができなかったんだから。


 二人の絶望に満ちた声色を確認して悦に浸っていると背後から、


「ま、待って!

 かえちゃん、その子と付き合ってるって……嘘だよね?

 あの二人はトイレに行ったし、あたしには嘘つかなくていいんだよ」

「……嘘ちゃうよ。

 といっても今日からやけどね」

「そんなことって。

 急すぎるよ、今日までそんなそぶり見せなかったのに」

「急って何?

 友達ですらないのにヤナちゃんを紹介するわけないやんか」


 九条は何か声を出そうとするも、口からは空気の音しか聞こえてこない。

 その後、カエデは俺のボトムをロッカーに入れてから更衣室を足速に出ていった。

 更衣室に俺と九条が取り残されてしまうも、九条からカエデを奪ってしまった立場の俺はどうすることもできず、すぐさまカエデの後を追った。


「なんでこんな酷いことになっちゃったの?

 ずっとずっと好きだったのに、お泊まりだってしたのに。

 ……ぽっとでの女の子に取られた。

 あの性悪な二人のせいだ。

 あいつらのせいで、あたしはかえちゃんを……」


 背後から怒りに満ちた視線を感じる。

 これじゃまるで俺がカエデを寝取ったみたいじゃんか、事実だけど。

 元カノ? の話なんて聞きたくはないが、刃物で刺されそうな雰囲気だし、流石に知らないと危険な気がする。

 ……んん〜、別にいいか、どうせ九条とは奇跡でもない限り出会わないんだし。



 取り巻きがトイレに篭っているとはいえ、いち早く更衣室から離れたかったので反対方向に進む。

 カエデの友人とのいざこざがあった後とは思えないほど空気は軽いが、待たせてしまった告白の返事をした後の空気にしては重い。

 どう会話を切り出そうか、どう手を繋ごうか、などと悩んでいると、少し前を歩いていたカエデが立ち止まり、俺に向かって頭を下げた。


「ほんまごめん。ちょっと乱暴なとこ見せちゃった」

「……なんで謝るの?

 悪いのはあっちじゃんか」


 過去に何があったのかは興味ないし、さっきの行動もあっちから仕掛けてきたんだ。

 俺目線ではカエデに非はない。


「やとしても、やんか〜」


 頭を上げるよう促すも、カエデは両手で顔を覆い、その手を離そうとしなかった。

 デゥアルの毒がカエデにも当たったのか? と心配したほんの束の間に、カエデの口から喜びの唸り声が聞こえてきた。


「……夢やない、夢やない。

 うちら、恋人同士……うちの初めての彼女」


 勢いで答えたとはいえ、声に出されるとこっちもにやけてしまう。


 恋人だって宣言したんだ。

 俺が男だってこと、カエデに打ち明けよう。

 元々それを言った上で好きって伝えるつもりだったし、順番が逆になっただけだ。

 これで断られたなら、でぅ……姉に慰めてもらうとしよう。


 地蔵になったカエデの手首を握り、顔から離れさせる。

 幸せの絶頂の笑みを浮かべるカエデに、俺は言う。


「俺が秘密にしてたこと、教えるね。

 それを聞いてから告白の返事をお願い、いい?」

「……ええよ。どんなんでもうち、受け止めるわ」

「実はお、俺……不登校、なんだ、

 ずっと家に引きこもってる。家事だけはしてる、けど。自分でもわかってる、このままじゃダメだって、姉に甘えてばかりじゃダメだって、でも……でも……」


 あれ? 俺、今なんて言った?

 不登校って言った?

 男って言わなかった……いや、言えなかった。

 口が勝手に動いた。なんで、どうして。


 口で「お」の形を作っても、おとこ、と発生できない。

 つらつらと思ってもいないことを述べるだけで、言葉を自分でコントロールできない。

 それに、俺は不登校になった過去なんてない。


「言いたくなんやったら言わんでええ!

 ……ありがと、打ち明けてくれて。

 理由とかは話さんでええし、うちからも追求することはないから安心して。

 ずっと胸につっかえてたんやね。

 大丈夫やから、そんなことでうちは嫌ったりなんかせえへんから」


 おれが言いたいのはこんなことじゃないのに。

 まさか、俺の知らない本心がカエデに嫌われる可能性があることをしたくないのか。

 俺が元男なのは、姉がボロを出さなければ隠し通せはするけど、カエデに嘘を吐き続かなければいけないなんて……そんな罪悪感に俺は耐えられない。

 ここで言わなければ、いつ次のタイミングが訪れるか想像もつかない。


「……ヤナちゃんも教えてくれたし、うちもさっきの子ら。

 みほちゃんたちと何があったのか、詳しく教えるわ」


 でも……俺の話す言葉と心が繋がらない。

 どうして……なんで俺の心は正直になってくれないんだ。


 ……。

 …………。

 ………………。

 そうだ、いいんだ、今じゃなくて。

 ちょっとネガティブに考えすぎちゃったな。

 ユラが起きてたら怒られちゃうところだった。


「話したら気が抜けてお腹すいちゃった。

 ずっと立ち話ってのもなんだし、売店で何か買って食べない?」

「そ〜やね。

 もしヤナちゃんが沢山頼むんならうちとわけっこしようや」

「うん!

 売店は……あれかな?」


 適当に歩いていただけなのだが、運良く売店の近くまで来れていた。

 プールの定番であるカレーや焼きそばソースの匂いが空腹感を刺激する。

 メニューの種類は多く無かったので、列に並びながらどれを注文するか相談することにした。

 列の進むスピードが速く、ものの数分で注文する番になりこれとこれとと、メニュー表の文字に指を差す。

 注文も終わり列の端っこに促されると、すぐに商品の乗ったトレーを手渡された。


「どこで食べよっか?

 あっちは有料エリアやし、テントとかは持ってきてないやんね」

「あそこの階段っぽいところは?

 座って食べてる人がちらほらいるよ」

「やったら適当に座っといて、うちは飲みもん買ってくるわ。

 何がいいとかある?」

「ラムネがあったらラムネがいい!

 なかったら炭酸だとなんでも」

「任せんしゃい」


 先に座ってと言われたので、階段の一番上の端っこを陣取ることにした。

 トレーを落とさないよう気をつけて階段を登り、太陽の熱がこもった階段にお尻をつける。

 滑り止めのざらざらしたものがお尻に触れてこそばゆい。

 プールを眺めながらぼーっと待っていると、ピタッと頬に冷たい感触が広がり、ビククッと体が震えた。

 目線を上げると、したり顔のカエデがラムネ瓶二つでからんと音を鳴らした。


「おまたせ〜、自販機にラムネ売っとったから買ってきたで」

「よく見るラムネだ! ありがとっ」

「どういたしまして〜。

 ほな、冷めんうちに食べるとしますか」


 よいしょと、カエデは隣に座って取り皿を手に持ち、割り箸で焼きそば、からあげ、たこ焼き、ポテトを少しずつ盛り付けた。

 その合間にラムネを開けようと、突起のついている蓋でビー玉を押すもびくともしない。

 思い切り体重を乗せたら開きはするけど、勢い余ってラムネが溢れたら泣きそうになっちゃう。

 俺がラムネのビー玉と奮闘しているとカエデが、


「うちが開けたろか?」

「カエデの力で開けれるの?」

「余裕のよっちゃんや。

 貸してみ…………ほら、すぐ空いたやろ。

 獣人は力が強いんやから任せんしゃい」

「獣って入ってるもんね。

 ……前の体はどうだったの?」

「そりゃあ貧弱に決まっとる。

 体育の持久走とかでみほちゃんとよく最下位争いしてたわ」

「……九条の友達のあの二人はどうだったの?」

「まったく知らん。

 そもそもあの二人と接点なかったし。

 ……というか足は閉じてほしいな。

 ぶかぶかではみ出るかもしれんから」


 苦笑するカエデの目線の先には、90度開いている俺の足があった。

 はみ出る棒も付いてないのにと不思議に思うも、太ももとパンツの隙間から入る生暖かい風がそういうことかと解らせてくれた。

 パタっと足を閉じるも違和感があったのであぐらで座ることにした。

 カエデは嫌そうな顔をしていたが、足を開くよりはマシなのかあぐらで納得してくれた。


「九条とはいつからの付き合いなの?」

「小学んころから。何年生かは忘れたけど、中学も高校も一緒。

 あっと、その、……今から簡単に話すけど、あんま期待せんといてな。

 ただ、中学卒業まで仲良かった子に、訳もわからず嫌われたってだけやから」


 カエデはラムネで喉を潤し、一呼吸おいてから話し始めた。

 アザクラを始めた経緯、九条たちと何があったのかを。


 うちとみほちゃんはクラスの端っこによくいるタイプで、いっつもゲームとか漫画の話をしとった。

 お互いに友達は多くなくて、学力とかも一緒やから同じ高校に行こうやってなって、普通に二人とも受かって。

 んで、高校入学しても変わらず二人で遊んどったんやけど、みほちゃんはいわゆる、高校デビューってのしてめっちゃ可愛くなっとったんや。

 ほんと、よくいる一軍女子って感じにな。

 そんな子がさ、芋っぽいうちと遊んでるんが周りの人からしたら変に写ったんやろ。


 入学して一ヶ月経つ頃にはうちはひとり、みほちゃんはさっきの子らと遊ぶのが増えた。

 みほちゃんは変わらずうちに話しかけてくれたんやけどな。別の子が話遮ったり、怖い目で睨んだりしてきたから、臆病なうちはみほちゃんとは関わらんように自然となった。

 やけどある時、みほちゃんからアザクラのリンクと一言、昔みたいに遊ぼうよ、って送られてきたんや。

 うちは乗り気やなかったけど、本体が送られてきたし、ここで行かんとみほちゃんとはもう遊ぶことはないって気づいたら、いつの間にかログインしてた。

 もちろんお金は返したけどな。


 選べる種族は獣魔種しかおらんくて、この外見もうちの好きなキャラに似せて作ったんや。

 そんでチュートリアルを終わらせて、約束してた時間にギルドに行ったら、みほちゃんだけやなくて、あの二人もおった。

 なんでって聞くと、人は多い方が楽しいってさ。

 昔みたいに遊ぼうって言われたら普通二人きりやと思うやんか。でも、みほちゃんはそうじゃなかった。

 うちの心が狭いって思われるかもしれんけど、教室内でうちを置物やと認識しとう人と遊ぶなんて無理。


 うちは子供やけど、これから遊ぶって時に場を壊すほどやない。

 そん時は堪えて二人に挨拶したんやけど、取り繕った笑みと学校で見せる冷ややかな目で返された。

 一瞬うちとあの二人の仲を取り持とうとしたんかなって考えたけど、やったら普通、間に入って会話を繋いだりするもんやんか。

 みほちゃんはただ黙って押されるうちを見てただけ。


 ……ああ、みほちゃんはうちに離れてほしいんやなって確信した。

 でも、途中で抜けられるような性格やないし、適当クエストをクリアしてログアウトするって決めた。

 明らかな疎外感を与えられながら歩いて、目標のトレントっつー木の魔物がおるとこまで到着して……みほちゃんが真っ先に死んだ。

 別に驚くことやない。

 ただの火力不足とコミュニケーションが終わってたってだけ。

 そっからは三人で街まで逃げて二人からなんでお前が前を張らないんだって怒鳴られて、うちが言い返してを何回か繰り返した。ほんま醜かったし恥ずかしかったわ。


 ログアウトしたらみほちゃんからの通知が溜まってたけど、中身を見れるほどの心の余裕はなかった。

 夏休みで学校もないし、みほちゃんの家に行けるわけもない。

 多分やけど、うちはみほちゃんと二人で話す機会はもうないやろな。

 そう考えると楽にはなったけどな。

 まっ、うちとしてはそのおかげでヤナちゃんと出会えたから一概に悪いとも、言えん……けど。


 カエデは話の終わりを示すように、半分以上残っていたラムネ瓶を空にする。

 

「うちから何かしたとかはないはずや。

 思い当たりはないけど、うちも一緒に変われてたらって妄想は何度かしたなぁ」

「九条と二人で話した?」

「……そういやしてないな」

「ぱっと見だけど九条は悪いやつに見えなかった。

 あの取り巻きがあることないこと吹き込んだだけで、九条としてはまだ、カエデと友達でいたいんじゃないかな」

「……かもしれんけど、もう無理や。

 うちから話しかけることはありえんし、あっちから誘われても、うちはたぶん……いや、100%無視するもん」


 吹っ切れたような横顔のカエデに掛けるような言葉が浮かばない。

 カエデと九条の関係を修復しようだなんて思えないし、これで二人で遊ぶ時間が長くなる、なんて喜んでしまった俺がどうする問題でもないか。


 それからは口をもぐもぐさせながら九条の話題を避けて、好きな食べ物、趣味や性格についてなんかを話した。

 学校の自己紹介のテンションで。


 話しているといつの間にか完食していたので、せっせと瓶やら紙皿を捨てて、あらゆるプールを回ることにした。

 温水プールでまったりくつろいだり、流れるプールではぐれたり、頭上からおっきなバケツの水をかぶったりと九条との出会いを忘れるほど楽しかった。





「つっかれた〜!

 もう閉園時間やって、時間過ぎるんあっちゅうまやったな」


  園内にあるすべてのプールを制覇し、疲弊しきった体で着替えを終わらせ、入口への階段を一段ずつ上る。


「うん、人生で一番楽しかった」


 恋人と時間を忘れて遊んだのも、学校以外のプールに来たことも初めての経験で幸福感がぐるぐる回って脳が酔っているみたいだ。

 それでも、まだかまだかと焦らされ続けていたことが気掛かりでしょうがない。

 カエデが言い出してくれるのを待っていたが、カエデが忘れていてこの気持ちのまま解散なんてしたくない。


「……俺へのプレゼントってなんなの?」

「プレゼント……ああ、えっとな。

 今日、お姉ちゃんはルミナちゃんの家に泊まるんよ。

 そんでお母さんとお父さんは旅行で居ないの。

 ……言っとう意味、わかる?」


 隙間がないほど密着した手の温度が、この日最高気温を迎えた。

 石の階段とサンダルが擦れる音や蝉の鳴き声がやけに騒がしく聞こえる。


「膨らんだ期待に沿える内容?」


 ピンと立つケモ耳から数滴の水が俺の顔に飛び、疲れとは違う乱れた息遣いになった。


「訊くのが最後でよかった。

 じゃなきゃ平常心で遊べなかったもん」

「やったら焦らしたかいがあんな。

 ……んじゃ、うちに付いてきてくれる?」

「カエデこそ、俺のこと置いてかないでね」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 当日:ヤナとカエデがカエデ宅に帰宅した1時間後。

 カエデ宅の付近の公園にて、デゥアルはジャングルジムの天辺で仁王立ちしていた。


 ようやくひと段落つきましたね。

 これでカエデのヤナに対する依存度は必要以上に稼げました。

 以前よりもかなり前倒しで進んでいますが、問題はないでしょう。


 ……はい、心得ています。

 準備をしていたのはあちらも同じ。

 2人の情事を中断なんてさせません。


「隠れてないで出てきてください。

 創造主の使徒よ」


 スキルで気配を消していても漂ってくるほどの殺気。

 ゲーム序盤にしては手にするはずのできない魔素量。

 だとすれば答えは一つしかない。


「……あんた、かえちゃんの何?」


 電柱の影から姿を現したのはカエデの友人だと聞いた九条だった。

 からんからんと下駄の音を響かせ、紺色の甚平を身に纏っている。

 右手には小刀、左手には狐の面。


 昼間に目にしたときとは異なる憎しみの表情。

 ヤナに嫉妬したのを創造主に見透かされ、身の丈に合わぬ力を与えられたところでしょう。


「可哀想とは思いません。

 しかし、慈悲はあります。

 せめて苦しまぬよう一撃で葬ってあげましょう」

「あたしの話、聞いてた? ちっ、……なんでもいいか……あたしは、あの人に言われたことをするだけ。

 そしたら、かえちゃんはあたしのだ」


 九条が狐の面を顔に当てる。

 暗闇でぼやけていた狐の面を蛍光灯が照らす。

 昔の記憶が蘇ると同時に眉間にしわが寄る。


「妖狐の命面めいめんですか。

 面倒なものを渡しましたね、創造主は」

「お願い……そこを退くか、あたしに素直に殺されて」

「それはこちらのセリフです。

 きなさい、雑兵。

 私と同様、神に魅入られてしまったあなたに死を贈ってあげましょう」

「っ、誰が死ぬか!

 お前を殺してかえちゃんを取り返す!」


 逆上した九条は右手のスキルリングを赤く光らせ、辺り一面崩壊させてしまうほどの熱球を作り出す。


 これほどまでの大きさに光量、着弾してしまうと音で二人が気づいてしまうか。


「『忍法・火のた……」

「……これで1回」


 九条がスキルを放ち切る前に、手刀で首を落とす。

 スキルは詠唱中でも発動させなければ不発に終わる。

 力を失った熱球はぽすぽすと虚空に消えて、頭を失った九条の体は力無く地面に倒れる。


「慣れていないのはわかりますが、早く復活していただけますか?

 時間の無駄です」


 いくら待とうど地面を転がる頭が消えず、肉体も動く気配がない。

 仮面の効果を知っているのかと疑問に思えたが、創造主はそんなへまを打たない。

 ここで暴れられても迷惑なので、九条の頭と体を掴んで近くのカラオケ店に侵入する。


 九条の出血で歩いた道が汚れてしまったが、創造主が事件にならないように後処理はするはずだ。

 九条の千切れた頭と体を合わせてしばらくすると、九条のお尻から半透明な狐の尻尾が生えてきた。


「……んん、ここ、ぐっ、あぅ!」


 九条が気づいた瞬間、即座に首をへし折る。


「2回目、あと7回……本当に面倒です」



 妖狐の命面。

 装備者に九つの命を与る。

 その代わりとして、妖狐の命面の素材となった妖狐の魂が肉体に宿る。

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