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吸血姫として現実世界を生き抜くために  作者: ふじごがつ
第二章 《守護神》 カーディン(上)
31/38

No.2-20 「黒ビキニこそ至高-2」

 入場口からプールまでの道のりは長い。

 そもそも園内にはプールだけでなく、遊園地やレストランがあるため、プールまで行こうとするならば遊園地を通る必要があり、10分ほど歩かないといけない。


 カエデと歩幅を合わせて、大きな石畳を一段ずつ丁寧に降りてゆく。

 夏休みだからか、家族連れや中高生のカップルがちらほら歩いているのが見える。

 右上から叫び声が聞こえたので、その音に目を向けると風と共にジェットコースターが頭上を去っていった。


「カエデって絶叫系乗れる?」

「乗れるけどあんまし好きやないね。

 叫んで喉痛くなるし、楽しいより疲れるが勝っちゃうんや」

「分かる!

 登ってるときのドキドキ感が良いってよく聞くけど、あれ、俺にしてはああ、これから地獄が始まるんだ、って覚悟を決める苦痛の時間にしか思えないもん」


 うんうんと頷くカエデ。

 やはり、共感できる話題は楽でいい。

 何も考えずに口を動かしても会話が弾む。

 場が和んだところで、何かを思い出したかのように、あっ、と口に出す。


「そういえば、俺にプレゼントがあるって言ってなかった?」


 カエデからの贈り物。

 俺がプールに来た1番の目的と言っても過言ではないそれを、カエデが言い出すまで待っていられるほど俺は我慢強くない。

 カエデはショルダーバックのチャックを指で掴むも、


「……やっぱこれは最後に渡すわ。

 ヤナちゃんにはずっと気になっててほしいし、シチュエーションとかも夜の方がええやんか」


 俺に訊かれても、プレゼントの中身を知らないのだから首をかしげることしかできないが、カエデがまだって言うなら、我慢しないと。


「わかった。……頑張って待つ。

 でも、……その分期待しちゃうよ?」

「もちろん、そのつもりで焦らしとうから」


 か、かっこいい!

 やだ何この子、イケメンすぎじゃない?

 こんなに俺をドキドキさせて楽しいの!?


 心の中で宴会を開くほど盛り上がっているが、感情を表に出すのはまだ早い。

 興味ないよ的な反応をして、カエデの思惑通りにならないと思わせるため、


「ふーん……」


 と、口を尖らす。


 心なしか背景移動が速くなり、握る手に汗が滲む。

 ちらっとカエデの顔を覗き込むと、ピクピクとケモ耳が反応して目が合う。

 すると、カエデは目を細めてニタっと口角を上げた。



 太陽の下を歩き続けて、ようやくプールの入り口に到着した。

 更衣室へ足を伸ばそうとするカエデ。

 その後を追おうとするも、一つの問題が頭に浮かび、足が止まった。


 俺が女子更衣室に入るのって犯罪じゃないか。

 体は女、心は男という、昨今さっこん温泉だとかで話題になったあれではないか。

 その結論は体の性別に従うべきだって聞いた。


 でもなぁ、いや……更衣室に入ったら、絶対に裸を見ちゃうじゃんか。

 田舎の温泉とは違って、若い女の人が多い。

 こんなことを考えてる俺が悪いけど……。

 はぁ、家で水着を着てくればよかった。

 というか、車で着替えれば更衣室問題は発生しなかったのだ。


「どうしたん?

 もしかして水着忘れちゃった?」

「……トイレで着替えたらだめかな」

「更衣室やとあか……えっ、きちゃった? あの日」

「あの、日?」


 ピンと来なかったが、トイレという単語で一瞬にして理解した。


「違う違う!

 その…人の前で着替えるの恥ずかしいな、なんて、てへへ」

「確かに、ヤナちゃんほど可愛かったら視線集めちゃうもんね」

「う、うん!

 俺の裸って価値あるから!」


 更衣室に入らない選択肢を生もうと、カエデの言葉に強く賛同する。


「それに、水着の着方もわかんないから、デゥアルに手伝ってほしいし」

「着方もわかんな……、なんでデゥアルさんが出てくるん?」

「なんでって、前に試着した時もデゥアルに着させてもらったから。

 ビキニなんて一回も着たことなかったもん」

「……今日はうちが着せたげる」

「そこまで迷惑かけれないよ。

 どうせデゥアルも俺たちの後を追ってるはずだし、探してくる」


 そう言って、体の向きを変えるも、カエデは手を離そうとしなかった。

 手の力を抜いても離れなかったのでぶんぶんと振るも、繋がれた手は接着剤でくっつけられたように微動だにしなかった。


「今日はうちが着せたげるから、さっさと行こ」

「……怒ってる?」

「怒ってない!」


 怒号を飛ばすカエデ。

 どんどんと足音を立てて歩き、むすっと口を膨らましている。

 どうみても怒ってるようにしか見えないが、その原因がわからず、俺には大人しくカエデの言う通りにするしかなかった。


 夏休み真っ只中、混むのは当然。

 先導はカエデに任せ、視線を下げて進む。

 二つ並びで空いてあるロッカーを見つけ、その近くの椅子に鞄を置く。


「じゃ、先にヤナちゃんの着替え済まそっか」


 カエデが、ちょーだいと、手のひらを差し出してきたので、鞄から上下入ったビキニの入った袋を取ってそこに置く。

 カエデがゴソゴソと袋を漁っている間に、トップスとスカートを脱いで下着状態になる。

 着替える直前までは下着でもいいだろ。


 カエデはトップスを手に取り、んっ、と上を脱ぐよう指示してきた。

 慣れない手つきでホックを外し、腕を畳んで肩紐をとる。

 腕で乳首を隠しながら、もう一つの手で脱いだブラジャーをロッカーに入れる。

 カエデに背中を向けて腕をばんざいするも、身長的にカエデは届かず、俺の肩をぐっと押した。

 俺は膝を曲げて目を閉じる。


 手の先からすっと紐が降りてきて肩に乗っかる。

 胸の位置とカップの位置を合わせてぎゅっと背中の紐を引っ張る。

 紐を固く結ぶのに手こずっているのか、背後からう〜ん、と悩む声が聞こえる。

 試行錯誤の上うまくいったのか、


「ふふっ、我ながら完璧」

「できたの? ありがと。

 下は自分で履くから……こっち見ないで」

「ええけど、これも紐結ぶやつやで」


 まさかそんな。

 試着室で着たときは紐なんてなかったぞ。

 確認のため、カエデからボトムを受け取る。


「……紐なんてないけど」

「あっ、あれぇ。

 おかしいな、うちが見たときはあったんやけどなぁ」


 カエデはひゅーひゅーと息だけが出る口笛を吹く。


 カエデったら、俺に着せたいがために嘘を吐いたな!

 このっ、可愛いやつめ!

 家とかだったら許してたけど、公共の場では素直に諦めてくれ。


 カエデは自分の着替えに取り組み始めたので、俺は素早くパンツを脱ぎ、ボトムのタグの位置をお尻側にして足に通す。


 下着同然の姿だが、試着室と更衣室でこんなにも心持ちが違うのか。

 周りの格好が同じように肌を露出してるってのが1番の要因だろうな。


 カエデを待っている間に、鞄から日焼け止めを取り出して体に塗りたくる。

 これだけはしておかないと死に直結すると、デゥアルに念を押されたからだ。

 吸血鬼の特性がある以上、デゥアルの警告は聞いておかないと本当に死んでしまうかもしれない。


「トイレは行かんでええ?」

「大丈夫。

 カエデは?」

「うちもええかな。

 てか、このラッシュガード入っとたで」


 着替えを終えたカエデはビキニの入っていた袋と、ラッシュガードを渡してきた。

 受け取ろうとするも、カエデの水着姿が視界に入って釘付けになってしまう。


 トップスはみかん色の髪が映えるような水色一色の胸元を隠すフリル、オフショルダーで胸の中心には大きな蝶々結び。

 ボトムは少し濃い青色のショートパンツで、ひょっこり出ている尻尾との相性がいい。


「……水着、カエデに似合ってる」

「かわええ?」

「すっごいかわええ」

「はぁ〜、よかった。

 結構悩んで買ったからもっと褒めてもええんかんね」


 カエデはふふんと息を鳴らし、腰に手を当てて胸を張る。

 そこで、俺は意地悪なのを分かった上で掛け声をする。


「世界一可愛い!

 尻尾食べちゃいたい!

 ぎゅーって抱きしめたい!」


 などと言っていると、カエデはよいしょと俺の体を抱きしめて宙に浮かす。

 肌と肌が直接触れるせいでくすぐったいし、体温が余計に上がる。

 俺の周りの女の子、全員が全員力が強いせいでまったく抵抗できない。


「それ、ほんまに思っとう?」

「お、思ってる!

 じゃなきゃこんな恥ずかしいこと言わないよ」

「……ヤナちゃんッ」


 カエデはぱあっと顔を明るくするも、周りの視線を集めていたことに気づき、スマホやら数千円を防水ケースに入れてそそくさと更衣室から脱出した。



 ラッシュガードを羽織り、サンダルでペタペタと効果音を鳴らして歩く。

 地図の前まで行き、どこへ向かうか相談する。


「まずはウォータースライダーやない?

 プールん中で一番人気らしいし」

「賛成。

 並ぶんだったら最初の方がいい」


 即決、即断、即移動。

 目的地が決まったのならすぐさま移動する。

 ていうか、同じ場所にずっとたたずんでいるとナンパが怖い。

 立場的には俺がカエデを守るのが理想だが、自分よりも頭二個分大きい男と対峙することは俺にはできない。

 そんな情けないところは見せられないので、話しかけられない程度の速度で足を動かす。


 ヒラパー名物のキャニオンスライダー。

 全長185m、高さ17m、山をイメージした色と構造をしている。

 開園して一時間すら経ってはいないが、すでに二十人ほど並んでいた。

 このスライダーは一つの浮き輪に二人乗りができるので、どちらが下になるかじゃんけんで決めることにした。

 負けた方が下になる。


「「じゃんけん……ポン!」」


 結果、俺がパーで勝ち、浮き輪における上座を勝ち取った。

 滑る時間は1分もかからないので、すぐに俺たちの番となった。

 従業員の話を聞いてから浮き輪にカエデが乗って、開いたカエデの足の間にお尻を置く。

 あまり体重をかけないように背中を浮かせて、ぎゅっと持ち手を握る。


「いってらっしゃーい!」


 従業員の元気な声と共に浮き輪を押されて、勢いよく水飛沫を浴びながらくだっていく。

 かなり斜面があるのか、背中を浮かす余裕なんてすぐになくなり、落ちないよう必死に持ち手を握る手に力を加える。

 濡れた肌に風が当たって程よい寒さが体を包む。

 右や左に振られながらも、頭上から流れる滝や、真っ暗なトンネルが気分を高揚させる。


「ハハッ、ハハハハッ!」


 背後から楽しそうな声が聞こえる。

 俺も叫びたい気分ではあるが、別のことで頭が一杯になっていた。


 ――おしっこがしたい!!


 溜まった尿を出せ! と、膀胱から懇願されている。

 さっきまでは尿意なんて全くなかったのに、体が冷えたからか、限界がきてしまったのか、お腹に力を入れていないとぴゅっとでちゃいそうになっている。


 くそっ、今朝の一杯のせいだ。

 おしっこ要求なんて、飲んだ後にすぐきてくれよ。

 タイムラグなんて起こさずにさぁ。

 スライダーが終わったら、いち早くトイレに駆け込まなければ。


 外の景色を見ても、まだ半分程度。

 あと数十秒耐えれば尿意からは解放される。

 効果があるのかは知らないが、開いていた足を閉じて内腿を擦り合わせる。

 浮き輪が壁に当たる衝撃は体全体で受け流し、頭上を流れる滝がお腹に命中しないよう、その時だけ腕でへそあたりをガードする。


 守りに徹した甲斐があり、漏れることなく最後のトンネルを抜けてプールに解き放たれた。

 犬掻いぬかきのように手足をばたつかせて、なんとかプールサイドに到着。

 近くにあった鉄の梯子はしごでプールから脱出する。

 カエデは横転した浮き輪を回収してプールサイドを上り、浮き輪を従業員に渡す。こっちに前屈みで歩きながら、自分の髪を絞って水気を切る。


「やっぱりスライダーって気持ちええね。

 時間が短いんがネックやけど、夏にしか味わえんから何回でも乗れるわ」

「感想とかは後にして、トイレ行ってくる」

「ええけど……めっちゃ並んでんで」


 カエデの視線の先には行列のできている女性用トイレがあった。

 男性用にも列はあるが、進みは早い。


 前の俺なら、男性用に入れたのに!

 この格好で男性用に入ろうとすると、確実に止められる。

 かと言って、あの行列を待っていると漏れるのは確実。


「そっ、そういえば、更衣室にもトイレってなかったっけ?」

「あったね。

 もしかしたら空いてるかもしれんし、そっち行こっか」

「うん、でも……ゆっくり行こ」

「結構ピンチなんか。

 漏れないよう気張りや」


 俺は股を閉じて股間に手を添え、涙目で訴える。

 カエデは俺の限界が近いと察して、無言のまま手を繋いで先導してくれる。

 キャニオンスライダーから更衣室までは5分の距離。

 今の歩く速度で考えても7、8分ほど。


 いける。


 ほのかに希望を持ってしまった。

 その緩みが、股にも影響してしまった。


 つーっと、内腿からくるぶしにかけて生暖かい液体が伝った。

 ネットか何かで聞いたことがある。

 男性と女性では尿意を我慢できるレベルが分かれている。

 尿道の長さが違うから男性の方が我慢できるって。

 とめどなく溢れるおしっこを何とかしようにも、出し尽くすまでできることはない。


 嘘だろっ。

 もらした……もらした、もらした!

 高校生なのに、子供じゃないのに。

 お腹に力入れても全然止まんない。

 ぽたぽたと落ちていくおしっこが足元に広がり、じんわりとした熱が体全体に広がった。


 このまま歩くなんて無理だ。

 膝が震えて足が動かない。


 もらしてしまったショックで、その場にペタンとしゃがみ込んでしまう。

 カエデは俺が静止してしまったことに気づき、こっちを向いて、もしかしてと声を零す。


「カエデ……とまんないよぉ」

「あちゃ〜、でちゃったんか。しゃーない……うちに任せて」

「へ? ええっ!?」


 カエデはよいしょ、と俺の体をお姫様抱っこした。

 お尻から垂れるおしっこはカエデの腕を流れ、地面に跡を残す。

 汚いからとカエデの胸を押すも、


「ヤナちゃんから出るもんに汚いもんなんかないんやから、安心して」

「でも、でも……ほんと、最悪」

「お漏らしぐらい誰でもしたことはあるもんや。

 ……泣かんでもええ」


 カエデはそう言って、監視員に走らないでと注意されながらも更衣室まで俺を運んでくれた。

 運良く空いていたシャワー室に二人で入り、カエデがシャワーの温度を確かめている間に俺はボトムを脱ぐ。

 裸は見られているし、目の前でおもらししたんだから隠す気なんてなくなった。


「うちが洗ったげるわ」


 こくんと頷くと、カエデは俺の腰にシャワーヘッドを向ける。

 石鹸を持って入ってきていないので、カエデはごしごしと手のひらで内腿、お尻を擦る。

 お漏らしの後始末を全てカエデにさせた。

 今日ぐらいは、格好つけたかったのに。

 デゥアルのせい……じゃないけど、デゥアルのせいにしないと情けなさすぎて涙が止まんない。


「も〜、気にしてないから泣き止んでや〜」

「だって……今日ぐらいは普通に楽しく遊ぶつもりだったのに。

 いきなりこんなっ、気持ち悪いことしちゃった。

 カエデに、俺のおしっこかけちゃった。

 うっ、うぇ……ええぇん」

「幼稚園ぶりくらいかな? おしっこのタイミングがミスるのはたまにあるからだいじょうぶやって」

「ごめんなさ……ひゃあっ!」


 今度は目から溢れる液体を止めようと目元を抑えていると、弱かった水圧が一気に上昇し、ぐにっと片方の尻を握られた。


「謝った罰や。

 えっちなことはせえへんけど、こっちもうちが洗ったげる」


 さっきまでは股間の周りにしかシャワーを当てていなかったのに、カエデは直接割れ目に手を添えて、その上目掛けてシャワーを当てた。

 俺の失敗でカエデに嫌な思いをさせたんだ。

 これぐらいの罰、割り切ることはできるが……カエデの指先から感じる刺激が昨夜のデゥアルを脳裏にちらつかせてしまう。

 頭を振って必死に忘れようとしても、髪を頬に張り付かせて、熱のこもった息をするデゥアルが離れてくれない。

 たった一夜にして頭が支配されてしまっている。


 記憶の上書きをしてくれないかな、なんて期待をするも、カエデはそっと埃を落とすように何度か撫でるだけで、シャワーの水圧を0にした。


「まっ、洗うだけやから一瞬やね。

 ある程度落としたとはいえ、一度おしっこまみれになったの履きたくないやろ」


 カエデは俺の漏らした水着を絞りながら言う。

 そもそもカエデはデゥアルとの一件を知らないし、今ここで襲ったら嫌われると思っていそうだ。

 常識的に、公共の場で求めるってものおかしな話。

 ここで残念がるのは違うだろ、俺。

 まだ今日は始まったばかり。

 カエデにしてもらうんじゃなくて、おれがカエデに何かするんだ。

 おもらしを挽回できるとは思えないが、マイナスの評価をプラマイゼロに近づけるように頑張るんだ。

 そう思わないと、カエデに向ける顔がない。


「……替えの水着なんて持ってきてないよ」

「それは売店で買ったらええやんか。

 ひとまず今はうちの履き」


 カエデがロッカーに水着を取りに行くと思いきや、その場でショートパンツを脱いで俺に足を上げるように指示をしてきた。

 カエデも下半身が裸になるんじゃ、と不安になったが、カエデはショートパンツの下に一枚、逆三角の水着を着ていた。


 ならいいか、と思いカエデのショートパンツに足を通す。

 重ね着を想定しているものだったのか、下から覗かれでもしたら防御は貫通されるほどぶかぶかだった。


「うちがかわええ水着かってくるから、ヤナちゃんは更衣室のどっかで待っといて」

「俺のサイズって知ってたっけ?」

「知らんけど、これと一緒のサイズでええんやろ?

 かなりちっちゃいけど、プールの売店やしあるはずや」

「……ありがと。

 後でお金払うね」

「そんなんうちが払いたいぐらいやわ。

 ほな、行ってくるわ」


 カエデは俺のボトムを握りしめたまま、シャワー室のカーテンを開けた。

 出るタイミングはずらしたほうがいいのか考えるも、カエデがカーテンを開けたまま一向に足を動かす気配がなく、ちょんと背中に触れてみるも反応はなかった。

 何かがシャワー室の前にいるのかと、ゆっくりとカエデの背から頭をひょっこりさせると、そこには黄色のケモ耳を携え、ワンピースタイプの水着から狐のような尻尾を生やしている少女が立っていた。


 知り合いだとしても、ここまでカエデが動揺するって何者だ?

 ――もしかして、


「なんでみほちゃんがここにおるん!?」


 ……やはり、カエデをいじめていた九条みほ。

 彼女は威嚇するカエデに対して小さな胸を張る。


「それはこっちのセリフ。

 かえちゃんってあたしのストーカーになっちゃたの?

 だめよ、犯罪は。

(うわぁ、かえちゃんだ〜、ずっとずっと会いたかったの〜。もしかして神様があたしたちを会わせてくれたの? でもでも、素直に会いたかったっていえないよぉ〜。お願いだから神様、この素直になれない性格を治して〜)」


 朗らかな口調のうちに高飛車な感じを含むその言い方にカエデは皺を寄せる。

 しかし、理由は分からないが、俺は九条みほに対して怖いという感情を抱かなかった。


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