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吸血姫として現実世界を生き抜くために  作者: ふじごがつ
第二章 《守護神》 カーディン(上)
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No.2-7 「吸血鬼の恩返し-2」

 デゥアルの眠っている赤い箱の近くで目を覚ます。

 ずきずきと響く頭痛と耳鳴りが止まないし、装備していた服もズタボロのままで、二人に会いにいける格好でもない。



「ユラ、体調めっちゃ悪いんだけど」

「当たり前じゃ。まだ体を修復し終わってないからのぅ。見える範囲は治しておいたが、中身はぐちゃぐちゃのスクランブルエッグ状態じゃ」

「なんとかできないの?」

「ふむ、ひとまずファーの血液を摂取し、あの岩に被さっているローブでも着るが良い。ここから出る方法は我に任せておけ」


 俺は言われた通りに、デゥアルから受け取っていた血の入った試験管を二本口に流し込む。

 服とは呼べないボロボロの布きれを脱いで、血液を節約するためにカエデの装備を『複製』して、その上から茶色のローブを羽織る。

 万全とまではいかないが、地上に出る準備は整った。


「ユラ、地上に戻して」

「了解じゃ。こほんっ、あっあ、『接続』――ファー・ブリザード」


 ユラが唱えた次の瞬間、身を包む光と共に、重力がなくなった。

 というか、宙に浮かんでいた。

 そして、真っ逆さまに落下する。


「ユラ! 任せてよかったんじゃないの!?」

「はぁ、ファーのやつめ、勝手に動きよって」


 上には青、下には緑が広がっている。

 自由落下を続ける体。

 勢いを弱める術なんて俺にはない。

 それに……垂直落下が怖すぎて何も考えれない。

 バンジージャンプの命綱なしバージョン。

 もうまぢむり。


「主人様や、諦めるでない。少しでも衝撃を抑えなければギルドへ行けんぞ」

「だってぇ、無理じゃん! 風で目なんて開けれないし、どのスキル使っても無駄だってば」

「弱気になりおって……ファー! 早く助けにこい!」


 ユラの声に応じたかのように、ファーが森の中から飛び跳ねて出てきた。

 バッタのような軌道で俺の体をキャッチして、近くの木のてっぺんに着地する。


 もうちょっとで漏れるところだった。

 乾いた目を潤すように何度も瞬きをして、自分の股関節に手を当てる。


 ……濡れてないな。

 ほっと安心するが、この体になってから一度もトイレをしていないことに気がついた。

 もしかして、吸血鬼はトイレをしないのか?

 そんな昭和のアイドルみたいな存在がいたなんて。


「こら、動くなと言っておったじゃろうに、ファーのせいで主人様がお漏らしをしてしまいそうになってしまったのぅ。可哀想に」

「そーなの!? ごめんね! ファー、暇つぶしに空に浮いてて」

「だ、だいじょうぶ。ちょっと危なかっただけで、漏らしてないから。……でも、腰抜けたからギルドの近くまで運んでね」

「りょーかい!」


 顎を出し、目をキュッと閉じて敬礼するファー。

 うん、とってもかわいいよ。

 でもね、人を抱っこしている時に手を離したら落ちるってことを知っておいてほしかった。

 と、地面に背をつけて思う俺であった。


 そのあと、軽くお説教をくらったファーに抱っこされて、ギルドまであと少しのところまで連れてってもらった。

 ファーとは路地裏で別れ、俺はフードを深く被って大通りに出る。


 素早くギルドの中に入り、フレンドチャットで送られてきた席を探す。

 掲示板の近くで、全身鎧を装備している人の近く。


 ……あれだ!

 全身銀色の鎧を見つけるのは簡単。というか、注目を浴びていたのですぐに見つかった。

 その鎧の人が座っている席には、楽しげに口を動かしているルミナがいた。

 鎧の人は無視して、ルミナに声をかける。


「道に迷って遅れちゃった。ところで、紅葉は一緒じゃないの?」


 そう聞くと、ルミナと鎧の人が顔を合わせ、ルミナは台を叩きながら笑い、鎧の人は面の上からでもわかるほど落胆した。


「もしかして、この鎧の中身って……紅葉?」

「そうです。紅葉です」


 ギルド内の喧騒で聴こえないほどの声量。

 気づかれなかっただけで悲しむなら、せめて甲冑だけは外しておいてほしい。

 もう一人がルミナと分かったから声をかけたけど、一人で待っていたら絶対にスルーする外見なんだから。


「やっぱ、全身鎧はないって。もみじんがいくら鎧フェチだろうと、世の中の女子の大半は鎧なんかに興味あるわけないし。時代はあたしのようなきゃわいい顔が見れて、コンパクトでちらっと肌が見える方が需要高いんだよ!! ね、ヤナきゅん」


 ルミナが声高らかに言い、台の上に無い胸を張って立つ。

 黒の胸当て、銀の籠手、足先から太ももまで守っている銀の足当て。

 片や紅葉は、全身銀一色。

 勝敗は目に見えているが、それを口にするほどのファッションセンスを俺は持ち合わせていない。


「俺はどっちもかっこいいと思うよ。紅葉の鎧だって実用性がすごいし」


 適当にフォローを入れるが、紅葉の欲した言葉ではなかったらしく、頭が下を向いたまま動かない。


「もー、いつまで拗ねてんの? ごつい鎧をきゃわいいって思うのは紅葉だけだから」

「でもぉ、でもおぉ」

「でもじゃない! さっ、ヤナきゅんを待ってる間に、クエストは受注したから行こっか」

「それって俺も受けたことになってるの?」

「ちょっと待ってねっと。……今から表示されるクエスト受注してちょーだい」


 俺は目の前に表示された、


【『枯れた再生樹』を受けますか。 YES/NO】


 のYESを押す。


「あんがとね、さっ、準備もできたし今度こそ出発!」


 ルミナが台の上から飛び降りて、紅葉の背中を軽く叩く。

 籠手と甲冑がぶつかった金属音が響く。


「ああ、この高音……かわいいなぁ」


 紅葉はうつ伏せになり、独り言のように呟く。

 耳を反響する高音にかわいさを見出せる紅葉に対し、俺は謎の憧れを抱くと同時に、変人だと認定した。


 そんなうっとりしている変人を放ってギルドから出るルミナ。

 俺は二人を交互に見てから、ルミナの後ろをついていくことにした。


 街を抜けて『彷徨いの森』に足を踏み入れる。

 その時には紅葉と合流して、三人がそれぞれ手に武器を装備していた。

 紅葉は2mほどの長さで、槍先が尖っているだけのシンプルな槍。

 片やルミナは赤、青、黄の三色の札を握りしめている。


「再生樹は私とルミナで倒せるけど、何かあったら手助けお願いね」

「うん! ちなみに再生樹ってどんななの? 流石にただの木じゃないよね」

「んー、ただの木……かなぁ。まっ、強くはないから安心して」


 強くないと言われても、俺よりは強いはずだ。

 最低限動けるようにしないと、二人の足をひっぱってしまうかもしれない。

 俺はローブをオブジェクト・リングに戻して、『血剣』を一本作っておく。

 右手に開いた無数の切り口が出血して、それが剣となる。

 その光景をみた紅葉が、


「待って、ヤナちゃんそれどんなスキル? 剣を作るスキルなんて見たことも聞いたこともない」

「ええっと、……お、オブジェクト・リングから出しただけだよ」

「だよだよ、もみじん。そんな真っ赤な剣。スキルで作れるわけないし」

「見間違え、かなぁ」


 俺の右手を凝視して首を傾げる紅葉。

 吸血鬼の要素が多すぎて、このままだといつかバレてしまうだろうな。

 種族を隠し通すって、俺が思っていたよりも難易度が高いのかもしれない。


 雑談混じりに森を進んでいると、前を歩いていたルミナが立ち止まって、手に握っていた札を俺と紅葉に配る。


「その札はあたしが作った『付与の札』。三種類あって、赤いのが攻撃力アップ。青いのが防御力アップ。黄色は回復。使うときはびりびり破いたらいいかんね」


 貰ってばっかりで気が引けるが、ルミナが「捨てたかったら捨ててもいいから」と、強引に手に握らせた。

 俺はルミナの熱がこもった札をオブジェクト・リングに変換する。


「ヤナきゅん、再生樹がめんどくさい理由はね、再生するだけじゃない。女性しかいないパーティーじゃないと姿を見せないからなの」

「そうそう、それに、途中からでも男の姿が見えると、すぐに隠れちゃう困った性格の持ち主。付いたあだ名は百合に挟まる男絶対許さない木、訳して百合男!」


 樹木要素一切ないじゃん!!

 安直すぎで、小学生が付けるあだ名よりひどい。


 変なあだ名をつけられた再生樹を哀れに思っていると、地面から何本もの根っこが伸びてきた。

 ずぼぼぼぼと、地面から伸びてくる太さ1mほどの、現実だと樹齢1000年ほどの立派な大木。

 その場で武器を構えると、


『やったぁぁぁ、百合だぁぁぁぁ』


 ん? まさか、聞き間違いに違いない。そもそも魔物(?)が言葉を話すわけが……。


『ねぇねぇ、もしかして君たち三角関係という、ぐふふ、拙者的には槍の方がベッドで低身長に責められて、顔を赤らめるのがいいでふね』


 なるほど、確かにこいつは百合男だ。

 どこから声を出しているのか分からないが、こいつのあだ名には納得した。


「こいつの話し方もいちいち気に触るし、だるすぎ」

「さてとっ、ヤナちゃんのために一肌脱ぎますか。それに私はああああああああああああ、こんな低身長よもぉおおおおおお、イケメンの方が好きだ――――――!!!!!」


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