表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吸血姫として現実世界を生き抜くために  作者: ふじごがつ
第二章 《守護神》 カーディン(上)
11/38

No.2-5 「聖騎士」

「どうもいらない助言ありがとう。言いたいこと言ったんなら、さっさと目の前から消えてくれる? 下世話はいらないんだ」


 怯えるカエデを隠すように、前へ一歩踏み出し、『血剣』を握る。

 見た目からして、俺の実力だと、この男には傷を負わせることもできない。

 でも、カエデが逃げる時間は稼げる。

 ログアウトできる場所は、町中や各地にあるセーフティエリアだけ。

 カエデが逃げ切れたら、あとはユラに任せたらいい。


「亜人風情が聖騎士たるオレを睨むな。殺すぞ」

「……お前が話しかけてきたんだろ」

「はっはっ、それもそうだ、すまんすまん。ちょっと確かめたいことがあってな」


 男は大剣を地面に突き刺すと、その場所から透明の液体が溢れ出した。

 その液体が俺とカエデに触れると、『彷徨いの森』ではない、どこかに転移させられた。

 体育館ほどの大きさ。前面真っ白で、出口なんて見当たらない。

 中には俺とカエデと聖騎士の男だけ。

 戦いは避けられそうにないな。


「マジかっ! お前、獣魔種か。……三日目にして、オレって運よ!」


 言い終わると同時に、聖騎士の男は地面に刺さっている大剣を抜き、カエデに向かって大剣を天から振る――――が、カエデから甘い匂いはしなかった。


「あぁ? 邪魔してんじゃねーよ、害虫が」


 俺の動体視力で、聖騎士の軌道を捉えることはできなかった。

 しかし、聖騎士が動いた瞬間、反射でカエデの体を突き飛ばしていた。

 真横にある聖騎士の煌めく目から、執念が見える。絶対に逃さないという執念が。


「『眷属召喚』、デゥアル!」


 寝ているデゥアルを呼び出すのは気が進まないが、選べる選択肢がこれしかない。

 聖騎士に殺されるよりも、デゥアルに怒られる方が何倍もいい。


【血液量が不足しています】


 なっ、そんなの、そんなのって……酷いよ。


『ゴッ!』


 顎に骨が激突する。

 口の中が甘味の海になる。

 意識が、纏まらない。視界がくらくらする。


 殴られた、のか。

 揺らぐ視界に、前蹴りの体制をした聖騎士と、泣き喚くカエデが映る。

 このままだと、カエデも。

 ……俺は全力で抵抗するぞ!


 腹に踵が触れたとき、『血の糸』を聖騎士の足に巻き付ける。

 俺の体は宙を舞うが、その勢いを乗せて『血の糸』を引っ張り、聖騎士の体をカエデから離れさすことに成功した。


 ユラ、起きてるか? 起きてるなら、カエデを逃す方法を教えてくれ。


 …………そんなものはない、この場所、《聖域》に入ってしまった時点で、主様の負けじゃ。


 せい、いき?


 聖騎士の役職スキルじゃ。魔の特性を持つ生物を閉じ込め、半分ほどしか力が出せんようになる。


 確か、俺も役職スキルがあったはずだよな。


 あるにはあるが、練度が違いすぎて話にならん。


 辛辣だな、ユラは。デゥアルと戦ったみたいに俺の体を成長させることはできないか?


 《聖域》内では無理じゃ。ここから脱出すれば、可能じゃが、その頃には全てが終わっておるのぅ。


 そうか、わかったよ。

 俺はできることをやってみる。


 ……健闘を祈っておくとするかのぅ。


 ユラとの相談を終えて、改めて状況を確認する。

 何本かあばらが折れている俺。

 壁に背を付けて項垂うなだれている聖騎士。

 聖騎士が動かない間に、折れたあばらで内臓を傷つけながらも、カエデの元に駆け寄る。

 腰が抜けたのか、女の子座りのまま、震える手で俺のスカートの裾をわしずかむ。


「なんで、うちが……あんな、剣で……ころっ、殺され、殺されるなんて」


 聖騎士に勝てない俺に、カエデの震えを止まらせる言葉は言えない。


「ねぇ、カエデ。……戦える?」

「ヤナちゃん……、無理や。うち、怖くて……立てないんやで」

「だったらさ、俺、頑張るから応援してよ。あいつに勝てるように」


 だから、カエデが俺の震えを止める言葉を言ってくれ。


「……ヤナちゃんは強いから、強いから、……強いから」

「うん、知ってる! じゃ、行ってくるよ」


 ああ、俺は強いんだ。

 人から鼓舞されるだけ、実感が強まる。

 実力の差なんて、意識の差で埋めることは不可能じゃないんだ。


 聖騎士は起き上がり、不機嫌を露わにした声で叫ぶ。


「やりやがったな、亜人如きが、このオレを……手加減しねーからな!」


 くる――――、突っ込んでくる聖騎士に、バンドのように『血剣』を握り、捨て身でダメージを与えるようにした。

 しかし、微かな希望は『血剣』と共に砕け散る。

 体を横に一閃。縦に一閃。

 真っ白な空間に花が咲く。


 ――今だ!

 咲き誇る花が、聖騎士をボンレスハムのように包み込む。

 ぶちぶちと千切れるが、俺は力一杯引き寄せる。

 大剣を使う距離感ではなくなった。

 聖騎士はノンモーションで拳を。

 俺は真っ直ぐ進む拳を難なく避けて、聖騎士の頭を掴み、歯を突き立てる。


「『吸血』……不味いな、お前の血。ちゃんと肉食えよ」

「このっ、殺す!」

「物騒だな、殺す殺すって」


 不快な味わいのお陰で、細工はできた。

 あとは上手く機能すれば……。


『血剣』


 聖騎士の頭から『吸血』した時に、俺の血を中に入れておいた。

 スキルさえ発動すれば、聖騎士の頭から『血剣』が生まれる。

 スキルリングは発光した。

 だが、聖騎士が倒れる気配はない。


 ……なんで、なんで。


 俺には戸惑う間も与えられず、聖騎士が俺の右手を切断し、足蹴りしてスキルを放つ。


「『聖なる鎖』、亜人を拘束しろ」


 聖騎士の体から生まれる無数の鎖が俺の四肢を貫通する。

 じゃらじゃらと音を鳴らして、俺の体を完全に動けないよう拘束した。

 地面に横たわる俺に、聖騎士は悪魔のように微笑んだ。


 そして、聖騎士は俺の身体を踏みつけてカエデの元に歩み寄る。

 カエデは『身体強化』を使って逃げようとするが、よちよち歩きで逃げられるわけもなく、聖騎士は無惨にも大剣でカエデの両足を使い物にならなくした。


「いやぁあああああ!!!! うちの足が――――――!!」


 不敵な笑みで見下ろす聖騎士。

 地獄のようだった、いや、地獄そのものだ。


 無音の空間に、人ならざる悲鳴が響き渡る。

 なくなった足をジタバタさせるカエデ。

 それをうざったく感じた聖騎士は、ため息と共にヘソの位置に大剣を突き刺した。

 ばちゃばちゃと血液が音を奏でる。

 男はカエデの衣服を引き千切り、中身を見て、さらなる笑みを深くする。

 カエデの胸には、紅の宝石が埋め込まれていた。

 男は宝石が傷つかないように、暴れている少女の腕を足で踏み、左手を少女の開きっぱなしの口に手首が見えなくなるまで入れる。

 果物ナイフほどのもので、宝石周りの肉を削ぎ落とす。

 俺はそれを傍観することしかできなかった。

 男は宝石周りの肉と血を拭きとると、宝石を天に掲げうっとりした声で、


「これでもう一段階、オレは強くなれる」


 宝石をオブジェクト・リングで保管して、動かなくなったカエデから大剣を抜き取り、姿を消した。

 すると、俺たちの体だけは『彷徨いの森』に戻っていた。


 小鳥のさえずり、小川の流れる音がいつもより大きく聞こえる。

 俺は何度もカエデに言葉を投げかけるが、返答はない。

 どうして……どうしてカエデなんだよ……俺じゃなくて。

 こんなに苦しいんだ――――何もできずに傍観することが。

 俺は飛ばされた右腕を見て、己に問いかける。


「なんで……なんで……なんで」


 俺の問いに答える人はいない。

 俺の苦しみを分かち合える人なんていない。

 俺に答えを教えてくれる人なんていない。


 だけど、人じゃないなら俺の中にいる。



「『影化シャドウ』」



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 影に入るのは二回目だ。

 それにしては、この空間に慣れてしまった。

 吸血姫が拘束されているこの空間に。


「主人様はその言葉が好きじゃのぅ。なんでなんでなんで……我がその言葉を何回聞いたことやら、両手で数えられんのぅ」

「御託はいいから、分かってるだろ?」

「事情は知っておるのぅ。じゃが、主人様は何がしたいんじゃ?」

「何って、」

「ほら、言葉が詰まっておる。言語化できない思考なんぞ、なくてもいいんじゃよ」


 ユラの言葉が胸に刺さる。

 俺は……何がしたい、のか。

 聖騎士を殺したい? 

 カエデを助けたい? 

 何がしたいかなんて、一つに決まっている。


「俺に力がなかったから……何もできずに、見るだけだった。俺は、あの聖騎士を――――――いや、俺はカエデを助けたかった」


 嗚咽交じりに全てを吐き出すと、ユラは表情を変えずに淡々と、


「いいじゃろう。もう時間じゃ。ひとまず、早急に獣魔種の魔石を取り返す必要がある。獣魔石は獣魔種にとって命そのものじゃからのぅ。主人様の現実でも、カエデはいわゆる、植物状態になっておるはずじゃ。……時間は有限。すぐに出よう」



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



『影化』が強制解除され、『彷徨いの森』に帰ってきた。

 俺の体に巻きついていた鎖が、肉塊となっていたカエデがいなくなっていた。


「さて主人様よ、これからは我らのターンじゃ」

「……俺には力がない。だから今だけは、ユラ、お前に全部任しても良いか?」

「ああ、我に任せておけば、万事解決じゃのぅ」


 鳥の羽ばたく音が、生き物が草木を分けて走る音が次第に増長する。

 体に流れる血液が熱を帯びる。

 思考がクリアに、視界がクリアに。

 肉体が成長する。


【精神の主の権限を確認。『同期シンクロ』を発動します。】


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ