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吸血姫として現実世界を生き抜くために  作者: ふじごがつ
第二章 《守護神》 カーディン(上)
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No.2-4 「初めてのフレンド」

 獣人の女の子。

 みかん色の髪。くるくるしてゆったり目のセミロング。チワワみたいにぴしっとして柔らかそうなケモ耳。服は布製でできている初心者装備。右手には髪と同じ色のスキルリングを二つ身につけている。


「うわぁ、きれ~~~」


 獣人の女の子が目を輝かせながら言葉を零す。

 姉以外から面と向かって外見を褒められることなんて初めてだ。

 姉は適当にあしらえばいいけど、女の子相手にどう返事をすればいいか分からない。


「ええっと、ありがと?」


 疑問形で感謝するが、獣人の女の子は聴こえていなかったのか、ぼーっと口を開けて、俺の体を下から上に向かって吟味していた。

 上がってきた目と俺の目が合うと、獣人の女の子は「あわわわ」とバランスを崩して倒れそうになる。

 俺はすぐさま近づいて腰に手を回す。


「大丈夫!?」

「はい! 大丈夫です!!」


 漫画みたいに目をぐるぐる回してテンパる獣人の女の子。

 ひとまず立たせようと腕に力を入れるも、体が持ち上がらない。この子が重いわけじゃない。俺の筋力がないだけだ。


「ごめん、……限界」


 力のある限り耐えてはいたが、もう無理だ。

 痛みはないから、怒らないでね。

 パッと手を離すも、獣人の女の子が俺の腕を握っていたせいで、俺の体も引っ張られ、獣人の女の子に覆い被さるように地面に倒れる。


「……めっさ良い匂ぃ」


 すーはすーはーと、鼻で呼吸する音が耳に入る。

 ……聞かなかったことにしよう。

 俺はすぐに立ち上がり、獣人の女の子の手を握って引っ張り上げる。

 獣人の女の子はぱっぱと服の汚れを払い、一息吸ってからお辞儀をした。


「邪魔しちゃってすんません!! うちの名前はカエデって言います」

「俺はヤナ、なんか、ごめんね」

「……俺っこなんだ」


 なんだかこの子から姉と一緒の匂いがプンプン匂ってくる。かわいいけど面倒くさいから、さっさとここから離れよう。


 俺はぺこりと一礼して、クエストの紙を取ろうとクエストボードに目をやると、討伐クエストの紙が無くなっていた。


「ヤナちゃん! 報酬いらないんで一緒にこのクエストやりましょ!」


 そう言って、カエデが討伐クエストの紙を見せびらかしてきた。

 あの一瞬で取っていたなんて、恐ろしい子!

 でも、報酬くれるんだったら問題ないけど、カエデにメリットがないじゃんか。


「ヤナちゃんと一緒に遊びたいだけ!」


 初対面の女の子にすら心が読まれるだなんて……そんなに顔に出やすいのかな? 帰ったら鏡で見てみよっと。いっけね、俺、鏡に映らないんだった。てへ。……笑えない。


「いいよ、元々一人でする予定だったし」

「やったぁ!」

「なんで俺とやりたかったの?」

「なんでって、ヤナちゃんって上位プレイヤーの一人ですし、こんなに可愛いんだよ!? どんな風に戦うんか興味があって」


 なぬ!? いつの間に俺が上位プレイヤーになっていたのだ? 俺がアザクラでしたことと言えば……何も思いつかないんだが!!


「俺って上位プレイヤーなの?」


 カエデは首を傾げ、俺の右手を指差して答える。


「このゲーム? が始まってまだ数日やのに、スキルリングが5つもあるから、普通は一つ増やすのに一日は必要やからよ」


 なるほど、俺はかなり特殊なケースなのか。

 まぁ当然っちゃ当然だが、和也と姉とアザクラの話をするのが難しいな。

 俺だけに当てはまる能力とかもありそうだし、会話しているとボロが出そうだ。


 まっ、そんなこと今は考えなくてもいいか。

 今日は目の前でケモ耳をぺこぺこ動かしているカエデと遊んでメンタル回復だ。

 そんなに長い付き合いになると思わないし、上位プレイヤーって誤解されたままでもいいや。


「クエストって一緒にできるの?」

「できるよ〜、クエスト受注するときに、一緒に受付に行ったらいいだけやから」


 カエデは鼻歌混じりに受付へ向かう。

 受付では事務的な作業をカエデがしてくれたので、俺は隣でその作業を眺めるだけだった。

 クエストを受注すると、カエデが置物と化していたおれの手を握って、スライムが生息している地域まで歩き始めた。


「ヤナちゃんの役職ってなんなの?」

「う〜ん、秘密。あんまし教えない方がいいって言われたから」

「そうなんや、ちなみにやけど、うちの役職は弓使い。スキルは『弓術』と『身体強化』でバンバン敵を打つの!」


 カエデは左手からオブジェクト・リングを取り出すと、木でできた弓と数本の矢に変化した。

 この子、まったく隠す気ないんだけど。

 でも、弓使いだったら戦いになるとすぐに分かるし、隠す必要もないのか。

 カエデに言われたら、俺も言わないとって思うけど、デゥアルから口止めされてるんだよな。

 スキルは特に言われなかったけど『吸血』とか『血剣』を使うと、絶対吸血種(ヴァンピール)とか、血を扱う系の種族ってバレちゃう。


 種族を言おうか迷っていると、カエデがくいっと俺の袖を引っ張り小声で、


「馬鹿にしないん?」


 と、耳元で囁いた。

 ずっと元気いっぱいだったカエデが、しおらしくなっちゃって、どうしたんだろ?


「どこに馬鹿の要素があったの?」


 質問を質問で返した結果、カエデは足を止めて理由を答える。


「やって獣人が弓を使うんよ。普通、身体強化が得意な獣人種は剣士とか近接系の役職のはずなのに弓やで? それで友達のパーティーから外されて、みんないっぱいいっぱいなのは分かってるけど、あんなに仲が良かったのに。やから今はレベル上げを頑張って、いつか戻れる力をつけよって」


 獣人種が適正のない弓使いになったから馬鹿にされてパーティーから外されちゃったと。捨てられちゃったと。

 俯き、自分を卑下する言葉を言うカエデ。

 可哀想だけど、弱い人はいらないってのは当然の思考だ。

 だが、俺に言わせてみればこんな考え、


「甘い!! 苺の先端よりも甘い!」

「ひぃえ!?」

「捨てられたのなら、捨てられて良かったと思う環境を作り上げるのだ!! 戻ったって昔のように仲良くできるわけがない。鍛えろ! 鍛えるのだ!! いつだって信じられるのは己のみ!!」


 俺は裏切られた経験なんてない、というか裏切られる相手がいない。

 だけど、一人の辛さは痛いほど理解できる。

 クラスで二人組を作れと言われた日、……それ以外はなんとかなったが、いつも自分の机で周りの楽しそうな声を聞くときに、心がきゅっと縮むんだ。


 過去の悲しみで胸がいっぱいになり、俺の瞳が潤ってしまう。

 カエデは俺の目元を指でなぞる。

 何かを決心したようにカエデは俺の手を掴み、天に掲げて声高らかに宣言する。


「……フレンドになろ!! そんでうちらを捨てたやつらを見返してやるんや!! えいえいおー!」


 俺も捨てられたと勘違いしてる?

 まあいいか、会って数分しか経っていないが、カエデにしおらしさは似合わない。それに、さっきみたいに俺のことを褒めてもらわないと。


 るんるんで歩くカエデ。

 ようやく町を抜けて『彷徨いの森』に到着した。

 太陽が頭のてっぺんにある時間、森の中は草木が生い茂り、枝や葉がざわめいている。


「着いたよ」


 何かに気づかれないようボソッと話すカエデ。

 俺はカエデの目線の先に顔を向ける。

 そこには、RPGでよく見るビジュアルのスライムが木や草を食べている光景が目に入った。


「ほんとにスライムだ」

「あれが今回のターゲットやね。だいたい10匹ぐらいかな。うちは後ろから弓打つけど、前は任せれる?」


 この世界に来てからは、攻撃してこないコウモリやサソリとしか戦っていないが、最弱のスライムに負ける未来は見えないので、自信満々に身を乗り出す。


「もちろん、『血剣』」


 手に『血剣』を握りしめ、草を食べるのに夢中になっているスライムに向けて一閃。結果はもちろん圧勝である。

 流儀? そうですね、名付けるならば梁川流にでもしましょうか。


 切っては溶けていくスライムを横目に、カエデの状況を確認する。

 カエデは一点を静かに見つめ、力強く弓矢を引き放った。

 弓矢は綺麗な軌道を描き、スライムの中心を打ちぬいた。

 打ちぬかれたスライムは俺が『血剣』で切ったときと同様にどろっと溶けた。

 これが弓術のスキルの力。弱くはないと思うんだけど。


 流れ作業でスライムを合計10匹倒すと、クエスト完了と表示されて報酬を受け取ることができた。

 会員証のゲージは全くたまらなかったが、お金が1000ベクと表示された。ベクがお金の単位で、1000ベクは日本円に換算すると1000円相当だと、ユラから聞いた。


「クエストも終わったことやし、フレンド登録せえへん?」


 カエデが手元で指を動かすとヤナの目の前に、


【カエデからのフレンド登録を認証しますか  YES/NO】


「どうやって操作したの?」

「どうって、視界の右下にオプションマークがあるやん。そこでいろんなことできるんよ。もしかして知らんかった?」


 右下に視線を落とすと、小さいギアが存在していた。

 そのギアを押してみると、そのギアから回路みたいにフレンド/ストレージ/ステータスと丸のアイコンで表示された。


 こんな機能あったのかよ……。説明なしで気づけるわけないじゃん。

 もー、新しい知識が増えてよかった! 


「このまま『彷徨いの森』を冒険せえへん? なんか用があったら断ってくれてもええけど」

「ううん、暇だから遊ぼ」

「やったやった! やったら採取クエストでも受注しよ〜」


 カエデが腕にぎゅっと抱きついてきた。

 この子はファーやデゥアルと違って、日本のどこかにいる女の子だ。

 あまり体を密着させたくはない。

 緊張して動きにくくなるし、片言になってしまう。

 来たときよりも遅いスピードで歩いていると、突如としてカエデの耳がピンと立ち、ぶるぶる震え始めた。


 顔を覗くと、茄子もびっくりな真っ青になっていた。具合でも悪くなったのかと訊こうとしたとき、背中から威圧感を感じた。


 口に溜まった唾を飲み込み、振り向く。

 そこには、光り輝く鎧を身に着けた男が、木に腕をかけてこちらを睨んでいる男がいた。


 背中に装飾の施された大剣を背負い、全身光り輝く装備に包まれていて顔が隠れている。

 そんな見えない顔から殺気を放つ眼光が身に降り注いぐ。

 その男はカエデの弓を見て嘲笑う。


「ははっ、獣人種の癖に弓使うなんて正気か。いったん死んでからやりなせば」


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