マスクを取れない...。なんか事情があるみたいだった。
不思議なことに。
この場の雰囲気にそぐわないひとりの
眼鏡かけてて、黒髪ロングで、重ため前髪の
マスク女は自己紹介しただけで、
全く会話に加わらず、
ただぼけっと座り、飲み物を飲むでもなく、
何かを食べる訳でもなく、
個室、壁際の席にちょこんと可愛らしく腰掛けているだけだった。
俺への罵りに加わることなく。
ただ、存在しているだけ。
これは、ちらっと一緒に連れて来られた高卒で
同じ部署で同期の同僚に聞いて
後で分かったことだが。
「そのカッコでなんでここに?」と
ちらっと聞いたら、
そのマスク女は。
美女達に道で声かけられて、
ひとり急にドタキャンしたとかで、
高級レストランを1人分キャンセルするの、勿体ないからって、「引き立て役」として無理矢理連れて来られたんだと。
ま、通りで、
合コンに来る出立ちじゃないな、と
俺は妙に納得していた。
眼鏡のマスク女はただ、一言だけ。
俺らの前で自己紹介だけしてみせたんだけど。
声はやたらと可愛かった。
「真島マヒロです...歳は、あの、25歳..」
偶然にも俺と同い年。
声がとかく可愛いから気になって。
俺は彼女にサラダをよそってあげたり、
メインの肉料理を分けてあげたりした。
「折角来たんだし、、食べなよ。
美味いよ、、」
「ありがとうございます...でも...」
「私、マスク取れないです...」
「ちょっと事情があって...」
と話してくれた。




