地下室の秘密 その8
「ところで、貴方は人体生成の魔法を習得しようとは思わなかったの? 必要な魔法の書は全てあるんでしょ?」
「……前にも話さなかったか? 私は風以外の魔法を覚える事ができなかったのだ」
そんな事話してたっけ……?
ああ、俺がシャーマナイトに風の上級魔法と交換に火の魔法を教えようとした時か。
遠慮とか警戒じゃなくて、本当に駄目だったのかよ。
「父の死期が近いと分かった時の事だ。父は何故か人体生成の魔法を使わなかった。だから、私が習得して使おうと思ったのだが……」
「できなかったの?」
「そうだ。だが、私でなくとも父が新たな体さえ作れば済んだ話である。なのに、それをやらなかったのが不思議でならないのだ」
もしかすると、何か条件が足りなくて行えなかったのかもしれない。
しかし、俺は別の理由だと思う。
単純に、これ以上生きたくなかっただけだと。
世の中には不老長寿を求める者は確かにいる。
だが、そういう類の人間は必ず人の一生程度では時間が足りない野心をもっているもの。
そういうものを持ち合わせていなければ、家で安らかに眠れる時に眠っておきたいだろうしな。
要は人生に飽きるのだ。
そして、長く生きてきた者ならば、新たな人生を歩む苦労も理解できる。
別の体になってまで、もう一度生き返りたいと願うには、何か未練でもなければな。
そういう意味では、シャーマナイトの父は満足して死んだのだろう。
娘を失う恐怖には抗っても、自分は死に逃げする。
身勝手な野郎だ。
とまあ、俺なりに思うところはあるが……。
これをシャーマナイトに伝えたところで、若さ故に理解できないだろうな。
「私には習得できなかったが、貴様ならば習得できるのではないか?」
不意にシャーマナイトが問いかけてきた。
俺に人体生成の魔法を覚えさせようというのか……?
その存在を教えるかどうかを散々悩んでいたくせに。
「私に人体生成の魔法を覚えさせて、どうするつもり?」
「何か目的があるわけではない。ただ、現状誰にも習得できない魔法だ。だから、それを使える人間が一人くらい存在してもいいと思ってな」
どうにも怪しんでしまうなあ。
万が一のための使用者としてキープするつもりか?
「実を言うと、折角父が集めた魔法の書が無駄になるのが悔しくてな」
「た、確かに水と土の魔法には興味あるけど……」
「まあ、無理にとは言わない」
「東軍が動き出すまでの時間潰しでなら……」
人体生成そのものには興味はない。
しかし、この機を逃せば水や土の魔法を習得するチャンスはもうないだろう。
逃すには惜しい。
「そうか。やりたいなら好きにしろ」
「水と土の魔法を習得すれば、貴方の妹を連れ帰るのにも役立つかもしれないから」
ああ、何か悔しい気もするが好きにやるさ。




