決戦!ハイサムス その9
あれから結構な時間が経過したと思う。
結果、東軍の両翼に分かれた部隊を西軍が撃破して勝利を収めた。
イリーヴァたちも火の魔法兵の精鋭たちを倒し、オリッシュのところへと駆け付ける。
敵のリーダーの最期とオリッシュの勝利を確認するために。
結局、俺はハイサムスを倒したまま、死体付近から動けなかった。
理屈では分かっていても、奴がまた起き上がるかもという不安からである。
「オリッシュ! 大丈夫なの?」
心配したイリーヴァがオリッシュに声をかける。
「ええ、大丈夫」
「それで、ハイサムスは?」
「死体なら、あそこに」
オリッシュがハイサムスの死体がある方を指差し、イリーヴァは死体を確認しにその場所へと向かう。
そして、顔色を悪くしながらオリッシュの方へと戻ってきた。
貴族のお嬢様には、バラバラになった死体から受ける刺激は強すぎたかな?
「大丈夫、イリーヴァ?」
「何なの……あれ? バラバラになっている干乾びた何かがあったけど……」
成る程。
ソウルバーニングの魔法で寿命が尽きた結果がそれか。
体が干乾びて、もはや人間であったかどうかすら分からない……と。
「うん。それが、ハイサムスの死体」
「い、一体、どんな魔法を使えばあんな事になるの!?」
イリーヴァは取り乱した。
オリッシュが自分たちの知らない、何か恐ろしい力でハイサムスを殺したのではないかと思ったのだろう。
無理もないが、誤解されたままでは困る。
「落ち着いて、イリーヴァ。あれはハイサムスが自分の魔法で自滅した結果だと思う」
「自滅?! 一体何があったの!?」
「説明するから」
とりあえずは、ハイサムスが再生したところからだな。
ただし、ソウルバーニングという魔法の名前や具体的な効果については話せない。
オリッシュがあまりに火の魔法に詳しいと変だ。
「ハイサムスの奴、死んだと思ったら再生して完全復活して、それでまた倒して……」
「生き返る? そんな方法があるの?!」
「うーん、確かハイサムスは火の魔法の一種だって言ってたかな」
こんな感じの説明でいいだろうか?
「水の魔法にも回復の魔法はあるけど、そんなに短時間には回復できない。ましてや死んだ人間を蘇生させるなんて……」
「きっと、凄い魔法だと思うから、それ相応の対価か副作用があったのかも?」
「それって、禁断の魔法かなあ? 危な過ぎて封印された魔法があるって話は聞いた事があるけど、そういう理由なら分かる」
禁断の魔法か。
俺も噂程度にしか知らないが、魔法御三家が管理している門外不出の魔法があるのかもしれない。
イリーヴァは分家の出だから知らなくても、本家の当主であるシャーマナイトなら……。
いかん。
純粋に魔法の研究者としての血が騒いでしまった。
今はまず、引き上げて勝利の報告をしなければ。




