お兄様は甘くなかった その3
「それで、お話というのは?」
俺は、オリッシュの体でシャーマナイトに問いかける。
何か用事があるなら、さっさと済ませよう。
早く魔法の書を読みたいからな。
「そうだな……病室で目覚めたオリッシュの言葉遣いがおかしかったのは、記憶喪失のせいだと思うようにしていた」
は?
何をいきなり??
「ハーモレイクが殺された現場の近くにいた時は、私が近づく気配に気づいた犯人が逃げ、オリッシュを殺し損ねたのだと、可能性を巡らせた」
おい、冗談だろ?
今になって、疑われ始めているのか?
「オリッシュが犯人ならば、私も殺す筈だと二人っきりになる機会を作ってみたが、何も起こらず杞憂だと少しだけ安心した」
ん?
もしかして妹を少しでも疑った事への懺悔か何かか?
「私に向かって攻撃魔法を使わせるという、火の魔法で暗殺を行う絶好の機会を作った事もあったな。その時は、私の期待を斜め上で裏切って見事な風の魔法を披露してくれた」
あの時か。
正直、こいつ頭おかしいのかと思っていたが。
まさか、考えていた上で構えていたとはな。
「その後も、身を挺してハイネ砦を守り、その姿で兵たちを勇気づけてくれたな」
そんな事もあったかな?
俺としては、今もハイサムスを失脚させてアメイガスを出撃させるのが本来の目的。
そこまでの事をしたつもりはない。
「本当に今までよくやってくれた」
「そんな……改めて言われると照れてしまいます」
結局、妹に対して過保護なお兄様が、回りくどく褒めたかっただけなのか?
いきなり二人きりで話したいとか脅かしやがって。
「本当に、本当に、妹が魔法の才能に目覚めて今までの分を取り返そうと頑張っている。そう信じていたのが現実味を増してきて、最近は安心していた」
まあ、無理もない。
俺も急ぎ過ぎていた自覚はあるからな。
シャーマナイトも妹の変わり様を中々受け入れられず、悩んでいたのか。
「私が自分の手で連れ帰った妹が偽物だなんて信じたくはなかったからな。だから、今まで決断を引っ張ってしまったのだ」
……は?
「後に判明したのだが、ハーモレイクは裏切りを計画していたのだ。だから、あの時暗殺されて得をしたのは東軍ではなく西軍」
結局、ハーモレイクの裏切りの事、バレていたのかよ。
「だからこそ、色々と解せなかったのだ。東軍の何者かが侵入して色々と工作しているはずなのに、何故か西軍の益となっている」
何が言いたい?
「だが、今日の戦闘で火の魔法を使うその姿を見て確信した」
「お兄様?」
「我が妹オリッシュは、私の事を『兄上』と呼ぶ!」
なッ!
「貴様、何者だ!?」




