お兄様は甘くなかった その2
シャーマナイトと一緒に飛んで、どれくらいの時間が経過しただろうか?
オリッシュとシャーマナイトは大きな館へと到着した。
流石は貴族の家といった規模だな。
「着いたぞ」
「はい……」
「どうした? 怖いのか?」
「はい……まだ、少し震えています」
やはり、慣れない事はしたくないな。
空を飛んだ恐怖に震えているわけではないが、どうしても緊張してしまう。
戦場と違い、力づくで解決できない不安から余計にだ。
だが、ここまで来て逃げるわけにもいかない。
さっさと用事を済ませよう。
「ご主人様、それにオリッシュ様。お帰りなさいませ」
館の使用人たちが出迎える。
にしても、ご主人様……ねえ。
シャーマナイトの奴、てっきり次期当主くらいの位置だとばかりに思っていた。
まさか、この若さで現当主だとはな。
西軍の魔法師団長に魔法御三家の当主。
理由は知らんが、苦労はしていそうだよなあ。
「すまないが、あまり長居はしないつもりだ」
「では、今日は?」
「オリッシュと一緒に暫く地下室に籠る」
「調べものでしょうか?」
「そうだ。暫くは誰も入れないでくれ」
地下室ねえ。
そこに厳重に保管されているのか、あまり使わないから物置にあるのか?
何れにせよ、そこにあるのだな。
「では、行こうか。オリッシュ」
シャーマナイトに連れられ、俺たちは館の奥へと入った。
広い館の中を歩く。
万が一の事に備え、来た道を覚えながら一歩一歩進む。
ここに閉じ込められるなんて事にならないと信じたい。
そうして、階段を下りて地下室の入り口にまで到着した。
シャーマナイトが扉の鍵を開ける。
「この部屋に上級魔法の書があるはずだ」
「ありがとうございます」
「最後に私が読んでから長い間放置してあるからな。すぐに見つかればいいが」
二人で一緒に地下室へと入った。
部屋の中は暗かったが、シャーマナイトが明かりを点ける。
持っていたランタンの火を照明器具へと移したのだ。
こういう時に火の魔法が使えないのは不便だなと思った。
中はある程度整理はされているが物置状態。
すぐに見つからなければ探すのが大変そうである。
そう思いながら、俺は地下室内を見回していた。
「これで、二人だけでじっくり話せる」
そう言って、シャーマナイトは入り口の扉を閉める。
「……お兄様? 魔法の書を探すのでは?」
「そうだな。お探しの風の上級魔法の書も確かにここにある。だが、少しばかり二人だけで話をしないか?」
会話だけなら、何もここでやる事は無いと思うが……。
二人だけと強調したのが気になる。
何か、嫌な予感がした。




