お兄様は甘くなかった その1
ルガウ・ソード率いる東軍の連中を倒した西軍は、一旦キャンプへと引き上げた。
西軍の連中は、オリッシュが敵のリーダーを倒してくれたと大はしゃぎだ。
しかし、俺は火の魔法を使ってしまった失態を含め、落胆気味である。
原因は単純に扱える魔法の不足。
次回以降の戦いでは風の上級魔法が必要となる。
いや、今回の戦いでも本当は必要だった。
上級魔法の書……か……。
前々から思ってはいたが、やはりシャーマナイトに頼む他ない。
今なら今後の戦に必要だと言えば快く見せてくれるだろう。
それがある場所が問題だが、移動も含めてシャーマナイトならば日帰りは容易い。
オリッシュが頼めば十中八九同行すると言い出すだろうしな。
本の閲覧さえ許可してもらえばクリアできる。
そして、戦場から一時離脱しなければならないのが一番の懸念事項だが。
これはイリーヴァを信じる他ない。
東軍側は相も変わらずハイサムスを中心とした魔法第一旅団で攻めてくるはず。
だが、奴らはアメイガスが率いる魔法第二旅団に比べれば大した事はない。
イリーヴァを含めた今の西軍の戦力ならば持ちこたえられると思う。
ならば、迷う余地はないか。
また火の魔法を使わざるを得ない状況になっても困る。
そうなる前に素早く行動しよう。
キャンプに戻ると、何時もの会議の時間前にシャーマナイトが来ていた。
だが好都合。
早速頼んでみるか。
「あの……お兄様?」
「どうしたオリッシュ。東軍のリーダー格を倒したと聞いたが」
耳が早いな。
ならば単刀直入に。
「実は……その事でお兄様にご相談が……」
「相談……か……。この上で一体何を望む?」
「風の上級魔法を覚えたいのです。今日の戦いで、その、限界を感じました」
「だが、今日は勝てたじゃないか」
「ですが、あれより強い相手が来たら負けます」
「ふうむ……」
シャーマナイトは額に手を当て、何やら考えている様子だ。
今になって悩む程の事か?
まさか、上級魔法の書を見せられないと言い出すのは無しだぞ。
「……丁度、二人きりで話したいと思っていたところだ」
「?」
「上級魔法の書は家にある。今からで大丈夫か?」
「はい! ありがとうございます、お兄様!」
いつもと違い、今回の決断は早くて助かった。
今からというのは急だが、なるべくならば早い方がいいからな。
「では、早速行こうか」
「はい!」
俺はオリッシュの体でシャーマナイトにしがみ付く。
そして、シャーマナイトは風の上級魔法を使って空を飛んだ。
空を高速で移動するこの魔法。
落ちやしないかと怖くて慣れない。
例え俺自身が習得しても使える気がしないな。
だが、今は我慢だ。
一刻も早く風の上級魔法を覚える。
それだけを考えよう。




