戦闘狂 その10
ルガウの奴には一応勝てたが……。
やってしまった……。
火の魔法を使ってしまったのは大失態だ。
誰かに見られただろうか?
幸いにして近くには誰もいない。
邪魔が入らない一対一の環境を作っていたからな。
見られていれば、その異変に気付いたものが騒ぎ立てるはず。
……いや、今はそう信じるしかない。
西軍も東軍も他の連中は離れたところで戦っている。
だから、偶然にも今俺がいる場所の近くに誰かいれば分かる筈だ。
大丈夫、バレてはいない。
何より、東軍側のリーダーが殺られたのだ。
東軍の連中が気付いたのならば撤退するはず。
ならば、今俺がやるべき事は残党の掃除。
西軍のイリーヴァたちが対処している東軍を、オリッシュで挟み撃ちにする。
それで終わりだ。
とにかく、今はやってしまった事の反省より先に、戦を終わらせよう。
「大変だ! 後方から、ヤツが迫っている!」
「あの野郎! 『俺に任せろ!』とか大口叩いていたのに、逃がしたのか畜生!」
「いや、そうじゃない。ルガウ様が殺られたんだ!」
「まさか……そんな……」
オリッシュが現れた事により、東軍の連中はようやくリーダーが殺られた事に気付いたようだ。
その様子に俺は、とりあえず火の魔法を使った事がバレていないと安堵した。
「駄目だ、逃げるぞ! ヤツには……西軍の鮮血の魔女には勝てる筈がない!」
「逃げるって言っても、前も後ろも囲まれているぞ!」
「万事休す……か」
観念したのか、残った東軍の連中は白旗を上げて降参する。
これ以上戦いたくないというのならば、それを受け入れるべきだと思う。
そう、俺はあいつみたいな戦闘狂ではないのだから。
しかし、鮮血の魔女とかいう酷い通り名。
東軍の連中まで使っているのか。
まあ、見たまんまだし誰もが思い浮かべる共通認識みたいで分かりやすいのかもな。
「戦士一同攻撃止め! 降参すると言うならば素直に受け入れよう」
「武器をその場に捨てなさい! 少しでも魔法を使う素振りを見せれば全員を処分します!」
サーフェスとイリーヴァが東軍側の降伏を受け入れる。
そして、戦意を失った東軍側の魔法兵たちも、その指示に従った。
これにて、一先ずは戦闘終了でいいだろう。
今回の戦いも勝てはした。
だが、オリッシュの体で火の魔法を使うという大失態を俺は犯してしまったのだ。
幸いにして誰にも気づかれなかったが、大きな反省点である。
俺が、相手の捨て身の攻撃を想定できなったのも悪い。
だが何より、今の俺に一番足りないのは手持ちの攻撃手段の数。
あの時、攻撃を察知できても風の魔法で対処し切れなかった可能性もある。
やはり、風の基礎魔法だけでは限界だ。
次の戦いの事も考えると、上級魔法の会得が必要。
何とかしなければ。




