戦闘狂 その2
イリーヴァの心配発言に対し、俺がオリッシュとしてフォローを入れる事にした。
「そうなのです。東軍もそろそろ魔法旅団長のハイサムスやアメイガスを出してくるかと」
「確かにそれは妙だな。この前までアメイガスに散々押されていたのに。今は、アメイガスどころかハイサムスもいないのか」
「はい。ここ二週間は全く姿を見ていません」
「うーん、東オリーバ国に何かあったとも聞かないし、何かの準備最中でなければいいのだが」
東オリーバ国そのものに異変があれば、シャーマナイトの耳に入る……か。
そうなると、今のところ俺の元の体は無事だと信じてよさそうだ。
しかし、何かの準備とな……。
シャーマナイトが言う通り、杞憂であればいいのだが。
念のため、覚悟しておいた方がいいかもしれないな。
「懸念事項もあるが、今悩んだところで仕方がないか。とにかく、リーダー格のいない今は好機。できるだけ現状を生かそうではないか」
「はい、シャーマナイト様。警戒を怠らないようにしつつ、明日も引き続き進軍を進めます」
「頼んだぞ、サーフェス、そしてイリーヴァ」
「はっ!」
かくして、今日の定時報告と明日に向けての作戦会議が終わる。
サーフェスとイリーヴァは解散して、オリッシュとシャーマナイトの二人が残った。
今、西軍は砦から前線を押し返してキャンプを張っている。
旅団長のイリーヴァとサーフェスがこの前線キャンプを守っている状態だ。
そして、師団長のシャーマナイトが砦の方を守っている。
……その筈だった。
妹に過保護なシャーマナイトは、この前線キャンプにも顔を出しているのだ。
あいつ、魔法で空を飛んで移動できるのをいい事に、上手く利用しやがる。
こうやって、少なくとも一日に一度の会議には必ず顔を見せやがってからに。
「オリッシュ、やはりこの兄は心配だぞ」
「お兄様……今更ですか?」
「サーフェスやイリーヴァの手前では気丈に振舞ってはいるが、本音は別だ。リーダー格相手にオリッシュが何時殺されるんじゃないかとヒヤヒヤしているのだ」
これだから、もう……。
オリッシュが幾ら強いところを見せようと、この心配症は早々変わらないか。
「もしかして、何時でも助けに行けるように毎日ここに来ているのですか?」
「そうしたいが、流石にそこまではできない」
ここで、肯定されたらどうしようかと思ったぞ。
「だが、ここ最近は事が怖いくらいに上手く行き過ぎているのだ。それ故に色々と気になってな」
「東軍が何かを準備しているという事ですか?」
「そういう事だ。だからオリッシュ、調子に乗って無茶だけはしないでくれ」
「……分かりました、お兄様」
俺が俺のために事が上手く運ぶように必死なだけなんだけどな。
疑心暗鬼になるのは仕方ない。
だが、今しばらくは西軍にいい目を見てもらうぞ。
全ては俺が元の体に戻るためだ。




