恋する分家の令嬢 その9
追いかけ回された東軍の魔法兵たちは、次々とオリッシュに殺されていく。
だが、俺はその数が妙に少ない事に気付いた。
おかしい、これは陽動か……?
にしては、囲まれた感じはしないな。
まあ、囲まれたところで切り抜け方はあるわけだが。
となると、俺一人……オリッシュを西軍の本隊から引き剥がす作戦か?
いや、元より俺は本隊から飛び出して単独で行動していたんだ。
そんなことをしても意味が無い。
だが、それは大きな間違いだった。
サーフェスを中心とした戦士隊が何故かこの近辺にまで来ていたのだ。
恐らくはオリッシュを追いかけていたのだろう。
そして、この機を逃さんとばかりに潜んでいた東軍の魔法兵たちが姿を現す。
成る程、初めからこれを狙った陽動だったのか。
「くそッ! こいつら潜んでいやがったのか!!」
「サーフェス様、ここは一旦引きましょう!」
だが、逃げるにはもう遅い。
東軍の兵たちは、サーフェスたちに一斉攻撃を行った。
「さっき、あそこまで言ったのに……残念ですが、この距離では助けられません」
「そ、そんな……オリッシュ……」
「せめて囮として、華々しく散ってください」
ファイアボールの魔法から繰り出された火球の雨がサーフェスたちに襲い掛かる。
アローガードの魔法をかけていれば助かったが、今からでは間に合わない。
俺の忠告を無視したのが運の尽きだな。
せめてイリーヴァと一緒に行動していれば戦えただろうに。
これでは一方的に殺られるだけだ。
まあ、過ぎた事は仕方ない。
せめて犬死にはならない様に、攻撃の隙を突いて魔法兵たちを倒すくらいはするか。
奇襲攻撃を仕掛けるまでは良かったが、東軍は東軍でまだまだだな。
「破ァ!」
オリッシュは、サーフェスたちを攻撃をする魔法兵たちウィンドカッターの魔法を放つ。
攻撃をした直後の魔法兵たちは、襲い掛かる風の刃に対処できるはずもない。
まともに攻撃を受けてしまい、一撃で殺られてしまう。
犠牲は大きかったが、おかげで潜んでいた敵の兵を倒せた。
そう思いながら前方を確認すると、煙……ではなく霧で見えない。
いや……霧でもない。
これは、火球を水の魔法で防いだ際に生じた湯気だ!
「イリーヴァ……間に合ったんだ」
前方が晴れる。
そこには、やはりイリーヴァが率いる西軍の魔法兵たちが駆けつけていた。
「サーフェス様、ご無事ですか!?」
「た、助かったぁー!」
「よかった……本当に、生きててよかった……」
イリーヴァはサーフェスの前に駆け寄り、嬉しさのあまりに抱き着く。
いや、あれはそう見せかけて狙ってやっているな。
あざとい。
だが、昨日の効果ならば何よりだ。




