恋する分家の令嬢 その8
結局、サーフェスの事は無視して俺は一人で進軍する事にした。
どの道、相手の様子も見ずに隊を成して行動するのは危険だ。
まずは先行して様子を見てくる者が必要である。
だから、それを俺がやればいいだけの話。
──とまあ理由は幾らでも考えられるのだが。
要は、俺一人で好きに行動したいのと、さっさと戦況を進めたいだけだ。
シャーマナイトのあの優柔不断では勝てる戦も勝てないからな。
西軍に足りない決断力と行動力を俺が補うしかない。
そんなわけで、単身行動していたところ東軍のキャンプを見つける。
ここは、仲間を呼ぶべきだろうか?
いや、昨日みたいにサーフェスに邪魔されても困る。
それに、いざとなれば一人で逃げ出せばいいか。
俺は、オリッシュの体で東軍のキャンプへと突撃した。
「敵襲だ!」
「昨日のあいつが来やがったぞ!」
「俺たちでは勝てない相手だ! 逃げるしかない!!」
オリッシュの姿を見た魔法兵たちは、早々に次々と逃げていく。
情けない奴らだ。
だが同時に、生き残る事を第一とした賢明な判断だとも思う。
しかし、妙だな。
ハイサムスの姿が見えない。
昨日のあれで死んだとは思えないが……ここにはいなさそうだ。
俺が気付かなかっただけで真っ先に逃げたのか、それとも……?
実は結構なダメージを受けていたとかなら好都合なんだけどなあ。
ハイサムスがそれで帰還したのならば、魔法第一旅団に代わって第二旅団が来る。
そうすりゃ、アメイガス……俺の元の体を戦場に引っ張り出せるわけだ。
それならば、今のうちに少しでも東軍の魔法第一旅団を壊滅させるのも手だ。
どちらにせよ、自分の旅団そのものが無くなればハイサムスは失脚する。
そうと決まれば、こいつらを追い立てて少しでも数を減らしておくか。
俺は、オリッシュの体で逃げる魔法兵たちを追いかけた。
そして、手に持つバトルサイズを横に一振りしてウィンドカッターの魔法を使う。
魔法で生み出された風の刃が、逃げ遅れた魔法兵たちを斬る。
「い、痛てええええぇ!」
「くそっ! 脚をやられた、もう走れねえ!」
「やるしか……ないのか……!?」
手負いになった東軍の魔法兵たちがファイアボールの魔法を撃ってくる。
だが、飛んでくる火球はアローガードの魔法効果でオリッシュには当たらない。
半ばやけくそで火の魔法を連発する彼らに、オリッシュは止めを刺す。
「死になさい! 己の弱さを恨みながら」
俺は、死に逝く東軍の魔法兵に慈悲無き言葉をかけた。
殺す事に後悔は無い。
ここは戦場なのだ。
それに、俺は西軍の風の魔法しか使っていない。
この程度で殺られるようでは、どの道西軍の他の魔法兵にやられていただろう。
例え俺がオリッシュと体と入れ替わっていなくても、運命は変わらないのである。




