恋する分家の令嬢 その6
イリーヴァを説得してからの次の日。
東軍を撃退した翌日の事だ。
俺は、未だ攻めのムーブに入らないシャーマナイトを相手に苦戦していた。
「お兄様、今こそ攻める時です」
「しかしなあ、連日の戦いからの昨日の今日だし」
「何を悠長な事を言っているのですか! 東軍は攻めるのを待ってはくれません。今動かないと」
「そうは言っても……」
「そうやって、もたもたしている内に砦が襲われたのが昨日、一昨日じゃないですか!」
──何で俺が西軍の行末を案じなきゃいけないんだ。
現状が続けば、今後もハイサムス魔法第一旅団長が攻めてくるだろう。
しかし、それでは俺が困るのだ。
ハイサムスを失脚させて、アメイガス魔法第二旅団長を引っ張り出さないと。
そして、例えアメイガスともう一度出会う事ができたとしてもだ。
その場で元の体に戻る事ができる保証は何処にもない。
アメイガスを捕虜として捕らえ、方法はまた別に探る必要がある。
どの道、西軍がこのままやられると俺も一緒に心中する事になってしまう。
それは御免だ。
だからこそ、元の体に戻れるまでは、俺はこいつらを全力でサポートするしかない。
「仕方ない。オリッシュがそこまで言うなら二人の旅団長に聞いてみようではないか」
「? と、言いますと?」
「イリーヴァとサーフェスの二人が乗り気なら攻める。一人でも反対すれば引き続き守りを固める。それでいいな?」
「……はい」
──そう来たか。
だが、これは良い結果が出るかもしれない。
サーフェスはオリッシュはいいところを見せたがる。
だから、怖気づかない限りは賛成するだろう。
昨日、無謀にもオリッシュを救出に来る程のアホだし、間違いないだろうな。
そして、イリーヴァだが……。
こいつはサーフェスが賛成すれば追従するだろう。
「それにしても、イリーヴァにサーフェス様。お似合いのカップルだとは思いませんか、お兄様?」
「魔法と戦士の旅団長の二人がか?」
「そうです。御二人が仲良くなれるように、私たちも協力しましょう」
「そうか。ふッ、ふははははッ」
突然、シャーマナイトが笑い出した。
俺、そんなに変な事を言ったか?
……あるいは、何かに感づかれていなければいいが。
「あ、あの……お兄様?」
「いや、オリッシュが戦い以外に興味を持っていると知って安心したのだ」
「えっ……?」
「あの日、オリッシュが記憶を無くしてからだ。ずっと、口を開けば戦いの話題ばかりだったからな」
「そ、そんな事ないです!!」
やばいな。
そうだったかも……。
昨夜、イリーヴァにも「戦場に取り憑かれている」とか言われたなあ。
難しいが、少しは歳相応の女っぽい振る舞いを頑張るか。




