援軍 その9
戦闘の真っ最中、突然の事である。
東軍のハイサムス旅団長は、オリッシュに交渉を持ち掛けてきた。
「それで、話というのは?」
話なんてものは最初から無い事くらい分かっている。
大方、隙を見て魔法兵を近づかせてヘルファイアの魔法を使うつもりだろう。
「魔法御三家の一つ、ジュエル家の人間だというのは本当か?」
「オリッシュ・ジュエルです。それが、どうかしましたか?」
「ならば、何故一般兵に紛れて戦争に参加している?」
「その方が動きやすいですし、勝つための手段として手っ取り早いと思ったからです」
本当の事だし、隠す事でもない。
隠さなければいけないのは、アメイガスとオリッシュの中身が入れ替わっている事くらいだ。
……だが、それにしても東軍が動く気配が一向にない。
前衛の兵たちも西軍の戦士団の相手が忙しく、こっちにまで手が回らずだ。
「そうか。実力といい、本物のようだな。部下たちが手も足も出ない筈だ」
中身は偽物なんだけどな。
まあ、実際のところ偽物だからこそ強いというのが何とも皮肉である。
ところで、まさか本当に話がしたいだけなのか?
次の攻撃を仕掛けるための時間稼ぎとばかり思っていたが……。
動く気配が全くないのが逆に怖い。
「最後に一つだけ聞く。貴族として恥ずかしくは無いのか?」
……何を言っていやがる?
もしかすると、貴族ならではの体裁的な問題があるのかもな。
俺からすれば知ったこっちゃないが。
「いいえ、全然。話はそれだけですか?」
「ああ、そうだ。では、行くぞ!」
ハイサムスが、単騎でこちらに向かってくる。
最初、勢いよく飛び上がった時はこちらに向かって走って来るのかと思ったが……違う!
奴はそのまま高速でこちらに移動しているではないか!!
奴の足元を見ると、燃えているというか火を噴き出している様子だ。
詳細は何とも言えないが、これも火の魔法を応用した移動魔法だと推測する。
──このままだとオリッシュがヘルファイアの射程圏内に入ってしまい危ない。
オリッシュは慌てて移動してハイサムスと距離を取る。
そして、そうしながらもウィンドカッターの魔法で風の刃を飛ばし、攻撃を試みた。
しかし、ギリギリのところで回避されてしまう。
──やはり、一筋縄ではいかないか。
チッ……!
ここからは、オリッシュがウィンドカッターでハイサムスを斬り殺すか。
あるいは、ハイサムスがオリッシュをヘルファイアで焼き殺すかの勝負だ。
「どうした? 近づかなければ私は倒せないぞ、オリッシュ・ジュエル!」
貴族様にしては安い挑発だ。
だが、あえて乗って油断したところを逆に斬るのも悪くないかもしれない。
距離を詰め過ぎれば、ハイサムスはオリッシュを守る方の風の刃で瞬殺だからな。
だが、その時思いがけない邪魔が入ってしまった。
「大丈夫かオリッシュ! 今、助けるぞ!!」




