援軍 その8
オリッシュは東軍を陣を突っ切り、その奥まで進む。
──来ていたか。
東軍魔法第一旅団長ハイサムス。
一番ガードが高そうなところに奴の姿が見える。
この戦いを指揮しているのは奴で間違いないはずだ。
そして、奴さえ倒せば東軍も撤退するはず。
「ちっ、ここまで敵の侵入を許すとは……」
「急げ! ハイサムス様を御守りするのだ!」
東軍の連中がハイサムスの周辺に集結していく。
チッ、これではウィンドカッターの魔法がハイサムスに到達しない。
シャーマナイトの様に雷を落とす風の上級魔法が使えれば別なんだが……。
上級魔法無しで立ち向かうには早い相手だったかもなあ。
近づいて攻撃するのが一番だが……ダメだな。
ヘルファイアの魔法の射程に入れば終わりだ。
こいつを喰らえばオリッシュの体が一瞬にして炭へと化してしまう。
エフェクトゲイルで強化した素早さで回避するのも難しそうだ。
ハイサムスは元より、奴の周りには何人もの上級魔法の使い手がいる。
この人数の魔法を全て避けようと考えるのは現実的じゃない。
まったく、この強い魔法兵たちを前衛に割り振れば、西軍はもっと苦戦しただろうに。
ハイサムス旅団長は、自分を守る事が第一で攻めの姿勢が足りないところが難点だな。
だが、そのせいで俺が攻め難くなっているのもまた事実。
仕方ない。
ウィンドカッターの魔法を使って、ちまちまとハイサムスの守りを崩すしかないな。
風の刃で少しずつ壁を削ぎ落さねば。
「くそッ、報告よりも遥かに強いじゃないか、この魔法兵!」
「だからこそ、早々に一斉攻撃で砦を落とすはずだったのに!」
「畜生! 何故、ファイアボールの魔法が当たらないんだ!!」
東軍の兵士共が泣き言を言ってやがる。
全くもって、第一旅団の奴らは情けないなあ。
俺が旅団長なら一発喝を入れてやるところだ。
まさか、最初のあれで本気で砦を落とせると考えていたとはな。
部下たちの様子といい、ハイサムスも何処か抜けている。
俺がアメイガスだった頃、平民でありながら旅団長にまで上がれたのはそういう事か。
「色々と小煩い蠅……さっさと、死になさい!」
オリッシュは風の刃でハイサムスを守る魔法兵を倒していく。
無数に飛んでくる火球も魔法の効果で当たらない。
そして、迫り来る炎の壁も風の刃で斬り割いて抜けてしまう。
こうして、オリッシュは東軍の攻撃を回避しながら、少しずつハイサムスへと迫っていく。
だが、それに観念したのか、ハイサムスが突然攻撃を止めるように宣言した。
「もういい! これ以上守っても無駄だ。道を開けろ」
「し、しかし……」
「ここまま守っていても、一方的にやられるだけだ。そうだろう?」
ハイサムスがこちらに問いかけてきた。
「負けを認めて撤退する気になったのですか、東軍魔法第一旅団長ハイサムス?」
「……少し、話がしたい」
罠な気もするが……一応聞いてみるか。




