援軍 その6
周りがざわめく……。
が、名乗りを上げる者が誰一人いない。
「誰か……いないのですか……?」
──返事はない。
この様子だと、やはりダメか。
そうこう言っている内に、東軍がファイアボールの魔法を撃ってきた。
このままだと砦に直撃だぞ!
俺がフレイムウォールの魔法を使って砦をガードすれば一応は助かる。
しかし、皆の見ている前でオリッシュが火の魔法を使うわけにはいかない。
──仕方ない。
砦は諦め、東軍を倒すことに専念するか。
俺が覚悟した、その時である。
突如として大粒の雨が降り始めたのだ。
勢いよく降り出した雨によって、飛来する火球は次々と消滅していく。
「あ、あれは!」
兵の一人が砦の屋上に注目し、他の兵もそれに続く。
そして俺も、同じ様に屋上の方を振り向いてみる。
そこには、シャーマナイトと水の魔法を使うイリーヴァがいた。
「レインコールの魔法、間に合いました!」
イリーヴァに助けられたか。
成る程。
魔法御三家というのも伊達じゃないようだな。
「では、アイスニードルの魔法で私が反撃しよう」
続いて、シャーマナイトが風の魔法で空の空気を凍らせる。
先程の雨もあってか、砦と東軍の間の空には大量の氷の針が出現した。
「お返しだ!」
氷の針が東軍に向かって一斉に放たれる。
これが直撃すれば間違いなく相手は全滅する量だ。
だが、東軍にこれが当たる事はまず無いだろうな。
東軍はフレイムウォールの魔法を使い、難なくこれを防ぐ。
炎の壁を出現させて、氷の針を溶かして無力化させたのだ。
結局、この程度の魔法の撃ち合いでは勝負を決められない。
だが、このまま撃ち合っていても互いに疲弊するだけ。
持久戦となると、守りをイリーヴァ一人に担わせているのが若干不安だ。
イリーヴァがやられればこの砦は終わる。
砦から進軍して、早々に決着を付けた方が良さそうだが……。
シャーマナイトたちは、どうするつもりだ?
「戦士第一旅団、出撃するぞ!」
馬に乗った戦士第一旅団長のサーフェスが戦士たちを指揮して攻めに出た。
「魔法第一旅団、戦士たちを援護しなさい!」
イリーヴァの命令で、魔法兵たちが戦士たちに補助魔法をかけ始める。
やはり、西軍は出撃して早期決着を求めるか。
確かに人数だけで言えば、戦士たちを含めればこちらが圧倒的に有利だ。
シャーマナイトたちも、それを考えての選択だろう。
だが、東軍の魔法戦術次第ではどうなるか分からない。
ここは、両軍が衝突している隙を突いて、俺が確実に向こうの頭を潰した方が。
オリッシュは、進軍する兵たちに紛れて移動する。
そして、前衛の戦士団からこっそりと横に逸れて、東軍の奥を目指す。
丁度、新しく覚えた風の魔法での移動を試したかったところだ。




