援軍 その1
砦を攻めてきた東軍を追い返した翌日。
新たな敵軍の前に思わぬものがやって来た。
味方の援軍である。
一つは物理攻撃を主体とする戦士の旅団。
これはまあ、東軍の魔法兵相手に何処まで戦えるか分からない。
しかし、いないよりかはマシだし、魔法のサポート次第では化ける可能性もある。
そして、もう一つ……いや、もう一人がやって来た。
イリーヴァ・ミラーという名前の貴族の女。
何処かで聞いた家の名前が入っている気がするのだが……。
その答えは、西軍の魔法師団長シャーマナイトがすんなりと出してくれた。
「やっと、ハーモレイクの後任が来てくれた。これで一安心といけばいいのだが」
俺が早々に殺さざるを得なかった魔法御三家の男。
奴の正式な名前はハーモレイク・ミラー。
つまり、彼女もまた魔法御三家の人間というわけだ。
ハーモレイクの後任という事は、新しい魔法第一旅団の団長か。
今まではオリッシュの兄であるシャーマナイトの下で色々と甘かったが……。
今日からは、今まで通りには行かなくなるかもな。
「ところで、オリッシュ。まだ記憶は戻らないのか?」
不意にシャーマナイトが聞いてきた。
やはり、妹の事が心配なのだろう。
「はい……残念ながら」
俺は、オリッシュの体でそう答えるしかない。
記憶が戻るとしたら、オリッシュとアメイガスの二人が元の体に戻れた時だからな。
「そうか……」
いつもとは違い、シャーマナイトは何か思うところがある感じだった。
元より、妹の記憶が戻らなくて困っている素振りは常に見せてはいたが……。
今日の場合は、それとはまた違う感じがした。
──何かあるのか?
「オリッシュよ、記憶が戻らないのは仕方がない。だが、貴族同士のやりとりでそれは命に関わるかもしれない」
「それは……私が記憶喪失だと打ち明けてはダメなのでしょうか?」
「ダメだ。できるだけ記憶があるフリをするのだ」
シャーマナイトが妹を思って言っているのだ。
これは本当の事であろう。
しかし、記憶があるフリと言われてもなあ。
「お兄様、私……」
「大丈夫だ、オリッシュ。この兄やメイドのレゾナの様に親しい間柄ならば違和感にも気づく。しかし、そうでない間柄、他家の貴族相手ならばバレる心配もない」
成る程、単純に堂々としていればいいだけか。
要は都合の悪い質問に「分からない」と答える手段が封じられただけ。
これなら、年の功で何とか切り抜けられるかもしれない。
「分かりました、お兄様。私、頑張ってみます!」
やれやれ。
戦場の戦いならば腕っぷしで解決できるのにな。
それができない貴族同士の争い、こっちの方が大変そうだ。




