初陣 その7
西軍でオリッシュが配属された部隊の女隊長、そして所属する魔法兵たちが到着した。
道中に残してきた切断された死体を見てきたのだろう。
中には顔色が良くない者もいる。
「一体何があったのですか!? ローブも血まみれではないですか」
「これは敵の血ですから大丈夫です」
「えっ……。あっ、あの、東軍が撤退したと言うのは?」
「ここに来るまでに転がる死体を見たのでしょう? 私一人で数十人を殺したら怖気着いて逃げてしまいました」
「そっ、そうですか……。混乱して逃げる東軍の兵を何人か倒したのは、それで……」
女隊長もまた、オリッシュからの報告を聞きつつも、動揺を隠しきれないようだ。
戦場では殺し合いなど日常茶飯事ではある。
しかし、たった一人に一方的に虐殺された現場を見たのは初めてなのだろう。
最も、俺もこういった戦い方をする奴は一人しか知らない。
東軍のアメイガス魔法第二旅団長。
つまり、元の俺の体だ。
アメイガスの体には今、かつてオリッシュ・ジュエルだった者が入っているのだろうが……。
はぁ……どうなっているんだ、俺の元の体は?
「ところで、逃げた敵は追いかけなかったのですか?」
「砦に敵軍が到達しないように食い止める、そういう作戦では?」
「はっ、はい。そうです」
「それに、深追いするのは危険です。もしかしたら、陽動かもしれませんので」
「そう言われると……」
「何れにせよ、目下の危機は去りました。砦に帰還して次に備えましょう」
オリッシュと西軍の部隊は、その後東軍の残党がいないか確認した後、砦へと帰還した。
敵軍をオリッシュ一人で撃退したという話は、瞬く間に砦中に広まる。
そして、報告を聞いたシャーマナイトは、急いでオリッシュのところにやって来た。
「オリッシュ……本当に一人でやったのか?」
「はい、そうですお兄様。このローブに染み着いた東軍の兵士の血が何よりもの証です」
時間が経過して乾いたものの、オリッシュの着ているローブには今も全身が血塗れになっている。
至近距離で風の刃で切断した東軍の兵士たちのものだ。
「返り血を浴びる程に敵に近づいたのか!! 無茶をするんじゃない!」
「ですが、おかげで敵軍を撃退できました」
「そういう事ではない! この前みたいに危うくやられそうになったらどうする気なのだ!!」
これは言い訳できないな。
シャーマナイトからすれば、敵軍にやられそうになった妹を間一髪で救ったのだ。
それがまた、一歩間違えば死ぬところだったとあれば、感情的にもなるか。
「ごめんなさい、お兄様」
「もういい。オリッシュ、無事に帰って来てくれてよかった」
やれやれ。
これでまあ、一件落着かな?
後はまあ、次は本気で攻めてくると思われる東軍に備えるのみか。




