初陣 その6
「ところで、ハーモレイクはどうしたのだ? 自分が守る砦が攻められているのに引きこもっているなんて、とんだ腰抜けじゃないか」
「そちらこそ、とぼけないでください。東軍がやったのでしょう? ハーモレイク魔法第一旅団長の暗殺」
無論、これは嘘だ。
ハーモレイクを暗殺せざるを得なかったのは、この俺だからな。
だが、ハーモレイクがもういないと分かれば東軍のハイサムスも本気で動くはず。
それにしても、まさか東軍がハーモレイク暗殺について全く知らないとはな。
西軍のシャーマナイトの隠蔽が凄いのか。
それとも、東軍の情報収集力が劣っているのか。
「ふっ、お喋りはここまでだ。貴様を倒させてもらう」
知りたい事は全て聞き出し、もはや用済みというわけか。
当然だ。
俺があえて教えたのだからな。
東軍の隊長は火の魔法を使い、一面に広がる炎の壁を出現させた。
ちっ、フレイムウォールの魔法か。
「どうだ。貴様を守る風の刃の障壁でも、これは防げまい」
確かに、その通りだ。
自分を中心にぐるぐると回っている風の刃では、炎の壁は崩せない。
そして、これをまともに受ければ、俺は、オリッシュの体はやられる。
「喰らえ!」
炎の壁がオリッシュの方へと向かってくる。
このままでは、まずいな。
だが、幸いにも俺はこのフレイムウォールの魔法をよく知っている。
俺は、バトルサイズを振り上げ、ウィンドカッターの魔法に集中する。
そして、バトルサイズを力強く振り下ろした。
「破ァ!」
魔法によって縦一直線に切り裂く風の刃を生み出され、それが炎の壁にぶつかった。
炎の壁はオリッシュの体の位置を中心に真っ二つに割れる。
それから、オリッシュを避ける様に分かれた二つの炎の壁は通り抜けていった。
フレイムウォールの魔法は確かに強い。
広範囲を一度に攻撃できるからだ。
だが、引き延ばされて薄くなっている分、脆いのが弱点。
だから、こうやって強い力をぶつければ突破口を作る事ができる。
使い手である俺も、それはよく知っているというわけだ。
「逃げたか……」
炎の壁の内側に、奴を含め敵はもういなかった。
元より逃がすつもりだったからな。
むしろ、この方が想定内だ。
さて、東軍は撤退した。
今は深追いする理由もない。
戻って合流するか。
……ん?
砦の方角から足音が聞こえるな。
西軍の連中なら丁度いいタイミングだ。
「オリッシュ……様……? これは、いったい!?」
「東軍ならたった今撤退しました。ですが、付近にまだ残党が潜んでいるかもしれません。注意してください」




