初陣 その4
俺は、西軍の他の魔法兵を置き去りにして敵軍に向かって走り出した。
いや、向こうからすればオリッシュ勝手に飛び出したというところか。
「ま、待ちなさい!!」
女隊長がオリッシュを呼び止める。
が、俺は止まるわけにはいかない。
そして向こうも、オリッシュが向かう先が敵軍がいる方角なので迂闊に追いかけられない。
こうして、俺は単身で東軍へと突っ込む事になった。
ここまでは想定通りである。
体の方もすっかり慣れ、以前の様に転ぶ事はもはや無い。
むしろ、アメイガスの体と比べて走りやすくなったくらいだ。
若い体になったせいだろうか?
「誰かこっちに向かって来るぞ!?」
「敵襲! 敵襲だ!!」
正面突破してきたオリッシュに東軍の連中が気付き始める。
部隊の構成を見たところ、奴らも同じ魔法兵。
そして、扱う魔法は装備から察するに火の魔法。
東軍の魔法兵たちが、オリッシュに向かってファイアボールの魔法を撃ってきた。
「あまいッ!」
俺は、障壁に使っている分とは別にウィンドカッターの魔法を使った。
バトルサイズをファイアボールの魔法に向け、そこから風の刃を放出したのだ。
その結果、炎の弾と風の刃は空中でぶつかり合い、相殺される。
ファイアボールの魔法に当たっては、こちらもただでは済まないからな。
障壁もあるが、できる事ならば確実に防ぎたい。
こうして、俺は敵の攻撃をどんどん防ぎ、着実に敵軍へと近づいて行った。
「ひ、ひぃー!」
「く、来るなッ!」
オリッシュに近づかれた東軍の魔法兵は、彼女を守る風の刃に容赦なく斬り裂かれる。
当然、魔法兵たちはそれを避けようと逃げていく。
だが、逃げ遅れた兵士が一人、そしてまた一人が風の刃の餌食となってしまう。
「ギャー!!」
東軍の魔法兵たちの悲鳴が戦場に響き渡る。
至近距離で風の刃に斬られた敵の返り血が、次々とオリッシュの体へと降り注がれた。
そして、その血は彼女が着ているローブを鮮血の色へと染めていく。
オリッシュが着ていたのは、風をイメージした淡い緑色のローブ。
そして元は貴族用の豪華で高性能な装備である。
だが、それも東軍の兵士の血で染まり、紅く変貌してしまった。
やれやれ。
俺が東軍でアメイガスとして戦場に立っていた頃は、西軍のウィンドカッターに随分と苦労したものだ。
だが、いざ自分が使うとこんなに強いとはな。
「くッ! 相手はたった一人なのに……」
「私たちじゃあ手に負えない」
「あんなの無理!」
東軍の連中に動揺が走る。
泣き言を喚くものも出てきた。
これなら、隊長格が出てくるのも早そうだ。




