初陣 その3
「な、何!?」
「誰!? いきなりそんなの出したら危ないって!」
驚いた他の魔法兵たちが、俺の方……オリッシュに注目した。
俺が使用したのは、風の魔法の基本にして一番簡単なウィンドカッターのみ。
だが、周りはまるでオリッシュが上級魔法の様な特別な魔法を使ったかの様に見てくる。
何て事はない。
単純にウィンドカッターの魔法で出した風の刃を障壁替わりにしているだけだ。
「これが貴族の……魔法御三家の実力!?」
「す、凄い……」
「こんなにも……私たちとの差があるなんて……」
魔法御三家という肩書で見られるのは仕方ない。
しかし、この程度で驚いているようでは、東軍の魔法兵を相手にするのは厳しいな。
下手すりゃ実戦経験がまるでない連中かもだ。
「これなら、私たち……勝てるかも!」
「でも、この前の部隊はやられて……」
「って事は、敵はもっと強いって事!?」
意図せず部隊の士気を下げてしまったか……?
だが、自分たちの強さを過信せず、警戒を怠らないのは感心だ。
──俺より強い奴が東軍にいるとは思えないけどな。
まあいい。
俺がこいつらの面倒を見て育てるわけじゃあないからな。
「何の騒ぎだ!?」
先程話した部隊の女隊長が、騒ぎに気付いたようだ。
こちらに向かって来る。
「一体誰が……って、オリッシュ……様……!?」
女隊長は、最初こそ威勢が良かった。
しかし、オリッシュが魔法を展開していると知るや否や、たちまち委縮してしまった。
「どうかなさいましたか?」
俺は、オリッシュの体で多少意地悪に女隊長に答えた。
「い、いえ……。しかし、この魔法は?」
「ただのウィンドカッターです」
「えっ!? そ、そうですか……」
女隊長は「どう見てもそんなわけがない」と、言わんばかりの顔をしている。
だが、これは残念ながら事実なんだ。
とまあ、味方の西軍への自己紹介はこれでいいだろう。
今の俺が、オリッシュが戦力になるという事を十分に分かってもらった筈だ。
だが、まだ「私、何かやっちゃいましたか?」をやるには早い。
問題は敵……東軍の方だ。
とりあえず、今来ている連中を倒して分からせてやらないと。
「私は、これから敵の隊長に特攻します。あなたたちには、私が撃ち漏らした敵の相手をお願いします」
「えっ……ちょ!?」
いきなり作戦を告げられた女隊長は動揺していた。
だが、今はそれに逐一付き合っている場合ではない。
さっさと東軍の隊長を倒さなければ!
俺はウィンドカッターの障壁で自分の身を守りながら、敵陣へと向かい走った。




