風の魔法 その8
「分かった、この兄の負けだ」
叫んだ甲斐があってか、シャーマナイトがようやく折れたようだ。
「それじゃあ、ここに残ってもよろしいのですか?」
「そうだ。強引に連れ帰って脱走されても困るからな、仕方ない」
脱走か。
その手もあったが、今は右も左も分からない事だらけだ。
できれば、それは避けたい。
「ありがとうございます、お兄様」
「その代わり、無茶はするなよ。この前みたいに助けられるとも限らないからな」
その救出のせいで俺はこんな面倒な事になったんだ。
畜生、オリッシュの体で東軍の捕虜になっていれば、まだ……。
いや、今は悔やんでも仕方がない。
一日でも早く戦場に出なければ。
そして、俺の元の体である東軍のアメイガス魔法第二旅団長までたどり着かなければ。
「それから、今日から部屋は兵の宿舎ではなくここに移れ」
「でも、ここはお兄様の……」
「どうした? この兄と一緒の部屋というのは嫌か?」
「そういうわけでは……」
相変わらず過保護な事だ。
そんなに妹を手元に置いておきたいか?
だが、少なくとも一般兵用の宿舎よりかは居心地はよさそうだ。
監視されている感じがするのは嫌だが、それは兵の宿舎も変わらんだろうしな。
「分かりました。今日からまた、よろしくお願いします」
「何をそんなに畏まって? 兄妹の間柄だ。気にしなくて……その記憶も無いのだったな」
「は、はい……ごめんなさい、覚えていなくて」
記憶喪失。
全くもって素晴らしい設定だな。
多少のミスもこれで誤魔化せる。
「いいんだ。ゆっくり思い出せばいい」
「お兄様……きっと、きっと戦いに出れば記憶を取り戻せると思います」
そうだ。
元の体にさえ戻れば、俺の体に入っていると思われるオリッシュ本人もこの体に戻る。
記憶が戻るというのも間違いじゃない。
「同じ様なショックを受ければ記憶喪失が戻るというアレか」
「そうです、お兄様。本当かどうかは分かりませんが、やってみたいのです」
「そうか。あんなに憶病だったオリッシュがすっかり変わってしまったな」
いかん、調子に乗って急ぎ過ぎたか!?
「記憶が無いというのは、それだけ怖いのだろう。一番辛いのはオリッシュだな。この兄もしっかりせねば」
「そ、そんな事ありません。お兄様は十分しっかりしてます!」
「はは、いいんだ。この兄がもっとしっかりしていれば、記憶喪失も防げていたのだから」
「お兄様……」
ホッ。
いきなり何を言うかと思えば。
あんたは妹の兄貴としては十分立派だとおもうぜ、シャーマナイトさん。
軍の将軍、複数の旅団を束ねる師団長としてはどうかと思うがな。
さて、戦場に戻れると決まれば、次は装備だ。




