風の魔法 その1
俺の体が西軍のオリッシュという女と入れ替わって二日目の朝。
西軍のハイネ砦で最初に目を覚ました時は既に一日経過していたらしい。
今は西軍の魔法第一旅団長、ハーモレイク・ミラーを殺した次の日である。
「おはよう、オリッシュ。朝ごはんを一緒に食べないか?」
俺は昨日と同じ病室のベッドで目覚めた。
シャーマナイトが将校用の少し豪華な食事を持ってきたようだ。
「あっ、おはようございます。お兄様」
「一般兵用の食事では不満だろう。私のを一緒に食べよう」
──そういえば、このオリッシュという女は今、軍ではどんな身分なんだ?
「あの、お兄様? 私は戦場ではどういった役割だったのでしょうか?」
「それなんだが、どうもハーモレイクが一般魔法兵としてオリッシュを無理やりここに送り込んだらしい」
成る程、御貴族様が一番下の一般兵か。
貴族出身の軍人ならば、最低でも複数部隊をまとめる旅団長スタートだろうに。
ハーモレイクの奴も、私怨でとんでもない事を行ったな。
「だが安心するんだ。今日明日にでも安全な場所に異動できるよう手配しよう」
冗談じゃない!
戦場から離れるという事は、俺の体が遠のくのと同義。
それだけは何とか避けなければ!
「お兄様、それには及びません」
「ん? どういう事だ?」
「私も戦います!」
これで納得してくれるお兄様なら話が早いんだけどな。
だが、昨日からの過保護っぷりから察するに難しそうだ。
「駄目だ! 昨日は覚醒したかもとは言ったが、今は記憶喪失で魔法も使えないのだろう? 危険過ぎる」
「戦場で戦ってみれば、何か思い出すかもしれない……そう思ったのです」
「だが、戦えない者を戦場に送るわけにはいかない。足手まといだ」
これは困った。
東軍の火の魔法ならば、昨日俺がハーモレイクを殺した時みたいに使える。
しかし、それを西軍が見ている前で使うわけにはいかない。
「魔法が使えるところを見せればよいのですか?」
「……使えるのか?」
「いえ。ですが、魔法の本を読めば何か思い出すかもと」
とりあえず、この体の元の主であるオリッシュが使う魔法の系統が分からなければ何にもならない。
そして、できる事ならば基礎の魔法についても学んでおきたい。
その二つを同時に叶えるのが、西軍の魔法の本の入手である。
「それなら持っているだろう……いや、その記憶も無いのだったな」
「はい、残念ながら……」
「一般兵用の宿舎にオリッシュの荷物があると聞いている。その中に多分入っているだろうから探すといい」
本は何とかなりそうだ。
後は実際に読んでみて判断するしかないな。




