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お嬢様の生活その8

 パーティから無事に帰還してまいりました。

 今日だけでスナイパーは計10回も性能を発揮し、お嬢様に着く虫を排除致しました。


 つい先程ご就寝前の入浴を終えお嬢様は優しい眠りをつかれました。

 時計は既に深夜の2時を回っております。


 リンデ様にお屋敷を借りておりますので移動にさほど時間はかかりませんでした。しかし私もつい馬車の中でうたた寝してしまうほどには疲れました。


 満開の花のように無視を寄せつけるシャルロットお嬢様。お守りするにはそれなりに体力を使います。

 もちろん、この身の全てがお嬢様のために使われるのは嬉しいことです。


 明日からも麗しいお嬢様と共にいるために体を休めなくてはいけませんが……。

 残念ながらそうはさせてくれない理由がございます。


 グーラッド様を経由して私に届いた王子からの手紙。無視をするには分が悪い相手からの手紙です。


 眠いのでパーッと読んでパーッと解決してしまいましょう。


 ペーパーナイフで上質な便箋を開けて本文に目を走らせます。

 そこには驚く内容が記載しておりました。


 要約致しますと、「私を王宮メイドに召し上げたい」との事でした。


 ……さて、少し皆様に許可を求めます。平民出身の私ですが実は素は結構荒いものでして、今だけはその素の状態でお話させていただきます。だって眠いですからね。


 まずは一言。

 ふざけるな、と叫びたいです。


 高潔なるシャルロットお嬢様の誉ある傍付きメイドである私を、あんな箱庭のような王宮に召し上げる?王子は随分と酔狂なお方ですね。

 あんな監視だらけ罠だらけ最悪の箱庭に誰が行くとお思いですか。

 それを抜きにしてもこの心この命は既にシャルロットお嬢様にお捧げしております。

 それに、「3日後話し合いの場を設けるので城に来たれり」?

 大方、話し合いの場を設けてるだけでも十分な譲歩だとでも言いたいんでしょう。随分、上から目線ですこと。まぁ実際に上なので良しとしましょう。

 話し合いと言っておりますがきっと逃がしてくれないに決まっています!誰が行くものですか。

 私がお嬢様のお傍を遠く離れることは有り得ません。召し上げたいと思うのならそっちが来やがれと私は思います。


 と、まぁ不満は色々あるわけですが簡単にお断りできるわけではありません。

 パーッと解決するつもりがかなり難しそうですね。解決の変わりに不満がパーッと出てきてしまいました。


 かなり厄介なことになりました。

 おそらくお嬢様を徹底的に見守りお助けする私の優秀さに目が止まったのでしょう。ですが私の働きはお嬢様あってこそのものです。

 別のところで発揮するほど器用で八方美人な性格はしておりません。


 なにか考えなくては。考えなくては強制的にお嬢様と切り離されてしまいます。それだけは絶対に避けねばなりません。


 結局私は一睡も出来ずに朝を迎えました。

 起き抜けのお嬢様の可愛らしさのおかげで疲れは吹き飛びましたが、残念ながら目の下の隈は消えませんでした。


 普段はしない化粧で顔色を良く見せていますが、この仮面をとってしまえば窶れた顔が露呈するでしょう。


「イザベル。今日は珍しくお化粧をしているのね」


 白粉をつけている私にお嬢様はそう仰いました。

 そして次に続いた言葉に私は胸を打たれます。


「なにか悩み事?」


 どうして気づいてしまわれたのでしょう。


「いつもより声に元気がないし、何より私とイザベルの仲じゃない」


 目頭が熱くなります。泣くのはご法度です。お化粧が取れて酷い顔をお嬢様にお見せすることになります。


 優しく微笑むお嬢様を見て、私は全てを打ち明けようと決意致しました。

 私はシャルロットお嬢様のメイド。主に隠し事は許されません。

 何より、私とお嬢様の仲ですから。


「実は……」


 全てをお話したあと、お嬢様は神妙な顔になりました。

 王族からの要請に貴族であるお嬢様が逆らうわけには行きません。

 きっと私との別れの言葉を考えているのでしょう。

 お嬢様を困らせてしまい罪悪感に押し潰されそうになります。


 しかしシャルロットお嬢様の愛らしい唇が紡いだお言葉は予想とは全く違うものでした。


「どうやってお断りするのが正解なのかしらね?」


「え……」


「イザベルを手放すなんて私は少しも思わないわ。誰であろうと私たちを引き離すことは許しません」


 あぁ。本当にどこまでも愛しいお嬢様です。反逆罪に問われてもおかしくないのに、この方には全く迷いがありません。


 王宮の目と鼻の先のお屋敷で私たちは小さな声で作戦会議を行うのでした。

 もちろん、時が来るまで皆様には内緒でございますよ。



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