お嬢様の生活その7
どんなに豪奢な装飾も。
デザインの凝った会場も。
高く澄み渡る青空ですら。
お嬢様の美しさには敵わないということが、今この時証明されました。
はい?他のご令嬢?比べるまでもありませんね。どんなに美しいご令嬢でも、今はお嬢様の引き立て役に過ぎません。
複雑に編み込まれた銀髪を引き立てる麗蒼のドレス。コルセットはそれほど閉めておりませんが、綺麗に締まったウエスト。そこから満開の花弁のように広がるフリル。
まるで大輪の青薔薇が咲き誇っているようです。
王宮で開催されている建国祭のパーティーには、国の各地から貴族が集まっております。
地方の力の弱い貴族から、国の中央部にいる力の強い貴族。
そのご子息ご息女は数え切れないほど。みな、婚活にでも来ているのか、媚びへつらっています。
シャルロットお嬢様はただそこにいるだけで勝手に貴族が寄ってきますので、ずっと凛とした面持ちで毅然と立っております。
胸を掻きむしり、頭を拳で殴り付け、その足元で転がり回りたいほどの美しさです。なんて可憐。なんという美麗。
この場にはヴィーシャの貴族だけではなく、他国の貴族や王族も参加しています。
立食式なので皆様ご自由に皿を手に取り、料理を口に運んでいます。
王宮の料理人の腕はなかなかなもので、舌が肥えているはずの貴族たちが舌づつみをうっていました。
「イザベル。そろそろ、時間ではなくて?」
小さなお声でお嬢様が仰られました。
懐の懐中時計を見て、ため息を吐きます。
非常に残念でなりませんがここから先の時間は、貴族や王族のみが出席できる無礼講のパーティーとなります。
当然、私のようなメイドの同席は認められず、パーティーが終わる夜の0時までお嬢様と離れ離れになってしまうのです。
時間に合った料理や飲み物が提供されるので、夕飯の心配はありません。しかし、私がお傍にいられないということは、お嬢様に近づく虫を払えないということです。
不安で仕方ありませんが、お嬢様は貴族院に属する立派なレディーにございます。
こういう無礼講の場でどれだけ動けるか。それが舐められるかどうかの境界線と言っても過言ではありません。
私は寂しがる自分自身を心を鬼にして叩き殴り、シャルロットお嬢様へ深々と頭を下げました。
「それではお嬢様。くれぐれもお気をつけくださいませ。何かありましたら、必ずリンデ様をお呼びになってくださいね」
「大丈夫よ。私がお父様のお飾りじゃないことをしっかり証明してみせるわ」
胸を張ってお答えになるお嬢様。そのお顔は段々とお母様であるアリア様に似てきました。
ヴィーシャの王族であるアリア様は今回のパーティーを風邪(仮病)と言い欠席なさっています。
アリア様はとある理由から王宮を嫌っておりますので、こういったパーティーにはあまりお顔を出されません。
まぁ、アリア様とシャルロットお嬢様がお並びになった暁には、会場の方々が倒れられてしまいますのでそこまで悲観することでもないのですが。
手を振るお嬢様にもう一度頭を下げて私はパーティー会場から離脱しました。
黒いメイド服を翻し向かう先は物見塔。
王宮の左右にある物見塔のうち、西側にある塔からはパーティー会場がよく見えます。
塔の上には予め用意していたスナイパーが鎮座しておりました。
なんとびっくり。サイレンサー付きで発砲しても音が響かない細工がされています。
メイド服が汚れるのを防ぐためにエプロンやドレスを脱ぎます。
もちろん下には汚れてもいい服を着ているので、下着になった訳ではありません。
と言っても着ているのはキャミソールとショートパンツなので似たようなものですね。
塔の床に寝転がり、スナイパーのスコープから会場を覗き込みます。
女神のように輝かしい美貌をお持ちのお嬢様はすぐに発見出来ました。
どうやら離れて早々妙な虫が話しかけているようです。
あれは確か、下級貴族バール家の嫡男だったはずです。
社交的挨拶にしてはやけに距離も近く馴れ馴れしい雰囲気です。
あの男とお嬢様は面識がなかったはずですので、無礼講という言葉に甘えたセクハラ行為と見なします。
躊躇なく引き金を引きました。
銃弾はさすがに不味いので、撃ったのは発泡スチロールの弾です。
このスナイパーは有名な武器屋に作らせたもので、弾丸は発泡スチロールなので威嚇程度に人に向けることができます。
私の狙い通りに弾は嫡男の鼻の先を掠めて背景の茂みへ消えていきました。
スコープ越しに顔を青ざめさせお嬢様と距離を取るのを確認しました。そうです。そのまま離れなさい。
ひとまず危険が去ったことに息をついていると、背後に誰かが立つ気配を感じました。
振り向き銃口を向けると、見慣れた男の顔がありました。
「危ないですね。物騒なものは下げていただいてもよろしいですか?」
敬語が鼻に着く嫌味な男。それが私の中の彼の印象です。
カルマ・グーラッド。ヴィーシャの第1王子から最も信頼を置かれている騎士です。
彼も無礼講タイムに入ったのを機に会場から離脱したのでしょう。
「グーラッド様。何故ここに?控え室がありますでしょう?」
油断なく睨んでいると、グーラッド様は隣へ腰を下ろしました。
「誰かさんがうっかり人を殺してまわないように来てあげたのです」
「余計なお世話です。お嬢様にご迷惑がかかることはしませんので安心して離席してください」
栗色の猫っ毛を遊ばせた優男から銃口を外し、お嬢様の護衛を続けます。
どうやら中級貴族のご令嬢とご歓談中のようです。
「それで?なにか要件があるのでしょう?お嬢様が楽しそうにされているうちに早く済ましてください」
用件がなければ近付いてこない。グーラッド様はそういうお方です。
イタズラが好きそうな垂れ目と目を合わせると、彼はようやく話を切り出しました。
「第1王子から言伝を預かっています」
上質な紙を使った手紙を渡されました。
「本日の業務が終わったら読むこと、だそうです」
「忠犬から伝書鳩にでもなったのですか?」
ニヤッと笑うとグーラッド様は無言で笑いました。何も言わないのが逆に嫌ですね。
「わかりました。王子の言伝とあっては断れませんし、命令通り業務終了に拝読致します」
「頼みましたよ」
そう言ったきり、グーラッド様は物見塔から降りていきました。
手紙を畳んだメイド服のポケットにしまい込み、パーティー会場の監視を再開させます。
またまたおかしな虫が着いていましたので、1発パンと撃って威嚇しました。
本日の役割はこの狙撃だけになりそうですね。
次は……手紙を読む時にでもまたお会いしましょう。
手紙の内容がとっても気になりますね。
( x`・ω・)▄︻┻┳═