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お嬢様の生活その5

 怒りすぎて逆に冷静になってしまった私は、頭をフル回転させます。


 いついかなる時もお嬢様のお望みを叶えられるように、私の頭はそれなりに知識を詰め込んでおります。

 当然、その中には無礼者への報復に方法も多くあり、何百とあるレパートリーの中から相応しい殺し方を探します。


 無礼な言葉を回す舌はちょん切ってしまいましょうか。

 それとも礼儀を知らぬ頭は砕いてしまいましょうか。

 または、正しく美しさを認識できない目はくり抜くのが良いのでしょうか。


 先程から、孤児院の従業員が子供を庇うように頭を下げていますが、不思議なほど今の私の視界には入っておりません。


 背中に隠されている子供の姿をした悪魔を、どう捌こうか考えることに集中していましたので当然ですね。


 皆様はどうしますか?

 敬愛する者の美しい特徴を侮辱され馬鹿にされた時、無礼者へどのような報復をしますか?


 ……ふむ。どうやら私の耳には「殺す」または「消す」という解答しか聞こえないようですね。


 舌切りか頭蓋崩しか目玉抜きか迷っていましたが、この際全てやってしまいましょうか。


 誰にも見つからないように消したいので、まずは声を上げる下を切り飛ばし、無意味な視界を奪い、最後に罪深き頭蓋を砕きます。


 私が裁定を下すために口を開きかけた時、シャルロットお嬢様が子供と同じ目線になりました。

 礼儀知らずの子供と同じ目線になるために膝をつくなんて……。さすがはお優しいお嬢様です。


 従業員に怒られてべそをかく子ども。べそをかきたいのは悪口を言われたお嬢様の方です。泣きべそをかくお嬢様。見てみたいですね。


「あなた、名前は?」


 慈悲深きお嬢様が子どもの名前を聞きます。

 大きな目を潤ませながら子どもは答えました。


「ベス」


 敬語を使いなさい。無礼ですね。


「ベス。あなたは星を見た事はある?」


「いつも見てるぜ。ここでは夜の明かりは月と星だけなんだ」


「そう。月の明かりはすき?」


「うん!青いのに白くて、寒そうなのに寒くないんだ!」


 おや。頭の悪い小生意気なガキ……コホン、子どもかと思ったら、なかなか詩的な表現もできるようですね。


「私の髪の色は月と同じだとは思わなくて?」


「そういや一緒だな!でもそんな髪色初めて見た!」


「夜を照らす月のように、私はあなたを照らす光になりに来たの」


 お嬢様、美しい表現ですね。ですが、子どもには少し難しいかもしれません。


 案の定、ベスは首を傾げました。


「何言ってんの?」


 こら。だから敬語を使いなさい。


「簡単に言うとね、みんなにおやつを持ってきたわ」


 シャルロットお嬢様はこの世でいちばん美しい笑顔を見せると、繊細な手のひらを叩きました。


 芸術品のように美しい手から響いた音を合図に、荷馬車から次々と支援物資が運ばれてきます。

 サイズが一通り揃った衣服類から、長く保存が効く食料。薬や包帯などの医療物資。さらに孤児院を修繕するための金貨。


 従業員がその量に目を見開きます。子どもたちは目を輝かせてお菓子を受け取り、喧嘩もなく仲良く食べ始めました。


「うまい!おなかいっぱい食べてもいいのか!?」


 両手に花ならぬ菓子を持ったベスが咀嚼しながら確認します。食べてる最中は喋らないでください。汚いです。


 無邪気な姿にお嬢様は気分を害されるわけでもなく頷かれました。


「いいのよ。私はあなたたちの笑顔が見たくて来たのだから」


 どうしましょう皆様。女神がおります。天使がおります。神は、ここにおりました。


 なんて神々しい。なんて美しい。

 シャルロットお嬢様は本当に月の女神様何ではないでしょうか。


 子供たちとしばらく触れ合ったお嬢様でしたが、次の孤児院へ行くために馬車に乗り込みました。


 来た時と違い、満たされた顔になった子どもたちが泣きながら笑って手を振ります。

 シャルロットお嬢様は子供受けがとても良いのです。


「姉ちゃーん!また来いよ〜!」


 最後の最後まで敬語を使わなかったベス。そのお腹はぷっくりと膨らんでいます。


 シャルロットお嬢様を「姉ちゃん」ですか……。


 羨ましいですね。私も子供なら、そんな風に呼べたのでしょうか。


 少しだけ、本当に少しだけ、子供に立場が羨ましくなりました。


 次の孤児院まで3時間ほどかかります。

 私はまた妄想タイムに入りますので、今回はこれにて失礼致します。


 シャルロットお嬢様に癒されたい方や、私の独白を聞きたい方は、また次回もぜひお越しくださいませ。

ベス、殺されなくて良かったですね

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