お嬢様の生活その4
ごきげんよう。皆様。
そろそろ天使のお嬢様が見られる頃かな?とお思いになりいらした皆様へ残念なお知らせがございます。
本日、一人の子供がこの世から消え去るかもしれません。
いえ、べつに私が正気を失っただとか、お嬢様への愛が暴走して狂っただとか、そういうことではございません。え?元々?フフフ、ご冗談を。
と言いますのも私の精神状況はただいま非常に荒れておりまして。
荒れているのに、怒りが大きすぎて冷静になっている状態と申しますか……。
……これでは分かりませんよね。かしこまりました。順を追ってお話致します。
時を遡ること1時間前のことです。
✿❀✿❀✿❀✿❀✿❀✿❀✿❀✿❀
「お嬢様。お忘れ物はございませんか?」
本日も大変お可愛らしくお美しくいらっしゃるシャルロットお嬢様に私は聞きました。
もちろん普段はしっかり者のお嬢様ですから、忘れ物などするはずもなく。
「ええ。大丈夫よ、イザベル。大きな荷物はあなたがまとめてくれたし、荷物に関しては安心ね」
女神のように笑って答えられました。
私がまとめたから安心という、一種盲目的な絶対の信頼に頬が上気してしまいます。
「隣町へは三十分程で到着致します。馬車でごゆるりとおくつろぎくださいませ」
豪奢な馬車を背景にして、優雅に直立するお嬢様と一緒に馬車に乗りたい、という願望はあります。
ですが傍付きとはいえ侍女は侍女。主君と同じ高さの椅子に座るなど許されることではありません。
お嬢様は少し寂しそうにしながらも、静かな足取りで馬車への踏み台を上り箱の中へ消えていきました。
シャルロットお嬢様を馬車の中へお届けして、大急ぎで侍女用の馬車へ乗り込みます。
私の他にはお嬢様のお世話をする侍女が三人いて、それぞれが自分の時間を堪能していました。
私は窓側へ座り流れる景色を眺めます。
さて、突然ですがここで問題です。
窓からの景色を眺めている私は一体何を考えているでしょうか?
3択問題ですので、どれか1つお選びになってください。
一,お嬢様のこと。
二,お嬢様のこと。
三,お嬢様のこと。
選びましたか?
正解はお嬢様のことを考えておりました。おや?皆様正解なさったのですね!これまでのタイミングの良い訪れと言い、今回のクイズと言い皆様は本当に幸運なのですね。おめでとうございます。
窓からは空も木々も人々も町も見えます。ですが一つだけ私の視界から絶対に外れてはならないものがあるのです。
そう。シャルロットお嬢様です。
馬車の中からはお嬢様の様子は窺えません。
一人だけの密室でお嬢様はどんなことを考えていらっしゃるのか。
どんな表情をなさっているのか。どんなことをしておられるのか。
馬車に同乗出来ないが故に全てが謎に包まれ、これからも知ることはできません。
ですので私は今全力で、お嬢様に対しての妄想を膨らませているのです。
馬車の中。一人だけのお嬢様。誰も知らないお嬢様。
素材はたっぷりあります。何せ妄想対象はシャルロットお嬢様ですから。
お嬢様がいないため普段は押し殺している緩み切った顔も隠す必要がありません。
よって毎日綺麗に拭かれている窓には、私のニヤッニヤの笑顔が綺麗に反射しておりました。
馬車が走る街道を歩き人々は今頃、馬車の中から見えるにやけ顔に鳥肌を立てていることでしょう。朝早くからお目汚し失礼しました。
さて、皆様もご存知の通り、妄想していると時間はあっという間にすぎます。
一週間のボランティア活動の始まりの孤児院が見えて参りました。
遠目に子供たちが手を振って出迎えているのが見えます。
馬車は子供たちの前で止まり、馬車から降りた私はお嬢様の馬車へ走って向かいます。
緻密な装飾が施された扉を掴みそっと開けると、絹のようにサラサラな銀髪を風に揺らしたお嬢様が姿を現しました。
本当に、女神様のようにお美しいです。朝日に煌めく銀髪もまるで宵の明星に残る星のような輝きで目を奪われてしまいます。
私の幸福値がパラメーターを振り切った時、信じられない声が響きました。
「顔は"びじん"なのに髪は白髪かよぉ!だっせぇ〜!」
はい?今、なんと言いやがりました?
「ババアが若作りしてんじゃねぇよ!顔若く見せんなら髪も若作りしてこいよぉ!」
お嬢様の儚く美しい銀の髪を、「白髪」と言いましたか?
おかしいですね。私の耳にはあの子供の言葉がこのように聞こえるのです。
「殺してください殺してください殺してください殺してください殺してください」
どうやら死をご所望のようですね。
お嬢様の見えないところで、静寂の中で、酷く、惨く殺して差し上げましょう。
(^ω^╬)