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お嬢様の生活その2

 ごきげんよう。皆様。また私の独白に来てくださったのですね。


 皆様は本当に運が良ろしい方々ばかりです。これからシャルロットお嬢様の朝食のお時間なのですから。


 小鳥のように愛らしいお嬢様のお食事シーンを見ることが出来るなんて、一年分の運を使ってしまったのかもしれませんよ?


 レイブン家では、お抱えの料理人がお嬢様の朝のお腹に合わせて優しい朝食を作ってくださいます。

 本日の始まりのお食事メニューは、ふわふわモチモチの食パンを使ったサラダサンドです。


 新鮮で瑞々しい野菜が挟まり、丁寧に一口サイズにカットされています。お口の小さいお嬢様のことを考えた料理人の細やかな気配りです。


 つい先程、朝の入浴を済ませて緋色のドレスを纏ったお嬢様は、当然ではありますが女神のようにお美しいです。


 寝起きはフワフワとしておりますが、ひとたび意識を覚醒されば面差しは凛としたものに変わります。


 背筋は竹のように伸び、所作は一つ一つが完璧です。


 十六歳の時に社交界デビューされた際は、数多いる令嬢の中でも一際目立ち、多くの男性の視線を集めておりました。


 まぁ、お嬢様に不躾に視線を絡める無礼極まりない輩など、会場となった王城二階の大広間にバルコニーから投げてやりたかったのですが……。

 メイドに過ぎない私がそんなことをすれば、お嬢様に多大な心労を負わせてしまうので見逃してあげました。


 サンドイッチを食べ終えて麗しいお嬢様は窓の外を見つめます。

 本日は曇り空ですが、お嬢様の美貌が曇ることはありません。つまり私にとっては毎日快晴なのです。


 とはいえ……。


「晴れてくれれば、今日にも庭園のマーガレットが開花すると思っていたのに……」


 シャルロットお嬢様が少し残念そうに呟かれました。


 お嬢様は趣味で庭園に花を植えて育てております。開花の瞬間を見るのが一番好きで、開花日の訪れを日頃の楽しみとしておりました。


 マーガレットはシャルロットお嬢様が特に目をかけお世話していたお花です。

 今日一日、日光を存分に浴びてくれれば開花する予定でした。


 しかし本日は曇り。

 開花は明日か明後日になってしまうでしょう。


 シャルロットお嬢様は明日から、各町の孤児院にボランティアをして回る、という慈愛の女神の行いのような予定がございます。


 一週間を予定していますので、開花を見ることができません。


 寂しそうに目を細めた横顔を見て、私はそっと笑いかけました。


 安心なさいませ、お嬢様。

 シャルロットお嬢様の不安は私が解決致します。私は、傍付きのメイドでございますから。


「お嬢様。午前中は何も予定が入っていませんので、お部屋で本をお読みになるのは如何でしょう?」


 提案に紅茶を飲んでいたお嬢様は優雅に頷きました。


「そうね。ちょうど、図書館から借りた本があったわ。雨も降りそうだし、今日は部屋で過ごすことにします」


この国の貴族は本を読む際、主に図書館を利用しております。中には本屋から買い取る方もいますが本屋は市民がよく利用する場所。貴族が次々と本を買い占めてしまえば、市民の方々が読みたい本がずっと入荷待ちになってしまうこともあります。実際、過去にそうなったトラブルも確認されています。


そこで、現王は貴族に王室図書館を解放しました。本屋は市民に気兼ねなく利用させ、貴族は王室に保管されている蔵書を利用させることにしたのです。もちろん閲覧禁止の棚もございますが、貴族の皆様はそれはもう熱心に貴重な本を読み漁るのです。


王室に保管されている本は他には絶対に出回らないものばかり。中にはシャルロットお嬢様が手にしてるような小説もありますが、基本的に貴族の生活に欠かせない知識を記した内容がほとんどです。


どうしても家で読みたい、という場合は今のように期限付きでの貸出が許可されております。汚したり期限を破ったりしたらそれなりに罰がありますが、本の扱いにさえ気をつければ自由に利用できるのです。


 ティーカップを空にしたお嬢様は無駄のない動きでお部屋に向かいます。

 別のメイドに片付けを命じてから私も後を追いました。


「明日からの巡回はイザベルも来てくれるのよね?」


 歩きながら小首を傾げるお嬢様も大変お可愛らしいです。

 思い上がりかもしれませんが、まるで縋っている様なアメジストの双眸に胸が高鳴ります。


 顔を最大限に緩ませて狂喜乱舞する脳内の私をおくびにも出さず、私は肯定しました。


「もちろんでございます。私はお嬢様の傍付きメイドでございますので、いつもお傍におりますよ」


 安心したように相貌を崩すシャルロットお嬢様。

 やがてお部屋の前に到着しました。


 これから読書をするお嬢様に気を使う意味も込めて、私は小一時間ほどの個別時間を求めます。

 お嬢様は快く頷いてくださいました。


 何かあれば、各部屋から家中に付けられている呼び鈴を鳴らすようにお伝えし私は庭園へと向かいました。


 途中で貰ったアルミホイルと豆電球を両手に持って、まだ開いていないマーガレットの前に立ちます。


 そこからゴゾゴソと作業すること三十分。


 マーガレットの蕾は一回り大きく膨らんだアルミホイルに包まれています。

 後は上手くいくことを祈るだけです。


 寂しがり屋なお嬢様の元へ急いで戻ります。

 夕方に作戦が上手くいくように、女神にも等しいお嬢様にお祈りをしました。


 これでもう安心です。


 シャルロットお嬢様のお喜びになる姿ですが、本当は独占したい気持ちでいっぱいです。ですが、運が良けれは皆様もご覧になれるでしょう。


マーガレットが咲かず、お嬢様が表情を曇らせる。これは私にとって大事件です。必ずこの作戦は成功させます。


 それでは、また皆様と会えることもお嬢様にお祈りし今回はここで失礼致します。




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