お嬢様の生活その11
皆様ごきげんよう。
本日はお日柄もよく、お嬢様は一段と輝いておられます。
昔は月光に照らされたお嬢様が、最も美しいお嬢様だと思っておりました。
しかし、今ではそんな浅はかな考えをしていた過去の自分を殴り飛ばしてやりたいです。
シャルロットお嬢様のお美しさは、空如きに左右できるものではございません。
大雨が顔を叩いていようと。突風が吹き荒れていようと。
お嬢様はいつでも最上の美を体現しております。
私が、お嬢様へ尽きることない想いを皆様へお伝えするのはいつものこと。
ですがこの度行われる催しは、お伝えできないほど多くの情報が私の中を駆け巡ることでしょう。
国中の貴族夫人や令嬢が集まり和気藹々とお喋りに花を咲かす。白いテーブルクロスに飾られた深紅の薔薇。お喋りに彩りを持たせる細かい細工が施されたデザート。
お淑やかな笑い声の下に隠された女の本音。
扇が隠すのは顔ではなく、言葉の裏に隠された牽制の銃口。
貴族令嬢の戦場とも言われる『お茶会』が開催されるのです。
建国祭のパーティーから既に1ヶ月が経ち、世のおしゃべりなご令嬢方は入手した「あんなことやこんなこと」をお披露目したい頃合です。
秘密の暴露会とも言えるお茶会。恐らくいつにもまして賑やかになるでしょう。
それを今回、シャルロットお嬢様主催で開くのです。
会場はレイブン家のパーティーホール。
飾り付けやテーブルの配置は既に大方終わり、お嬢様は最終確認のため屋敷全体を見て回っております。
私は万が一にも邪魔をしないように、影のように背後にくっついてお嬢様を追いかけます。
いつもは凛としていて優雅な顔立ちのシャルロットお嬢様。今は真剣そのものの表情をされ、その瞳の鋭さに背筋が無意識に伸びてしまいます。
「イザベル」
玲瓏な声でシャルロットお嬢様が私の名前を呼びました。
恭しく礼を取り用件をお聞きします。
「はい」
「お母様にお会いします。謁見の準備をお願い」
「かしこまりました」
会場の準備が完璧に整い、明日いよいよお茶会を開催することを報告なさるのでしょう。
シャルロットお嬢様のお母様であり、リンデ様の奥方様は名前を「アリア」様と言います。
以前に少しだけ説明させて頂きましたが、アリア様は遠いですが王家の血を引くお方でございます。アリア様の父方のお祖母様が、当時の第2王女だったとお聞きしております。
レイブン家の居宅が国の辺境にあるのは、アリア様が貴族や王族の薄汚く暗い考え方に嫌気が差してしまわれたからです。
言葉の全てを疑い、決して弱みを見せず、自身も相手を騙し討て。
そんな日常にアリア様は心労が重なり、リンデ様とご婚約された際に国の中枢部から離脱しました。
そのため、今回のお茶会にもアリア様は難色を示されました。
貴族の宿命とはいえ、疑り合う社交界にシャルロットお嬢様をあまり関わらせたくは無いのでしょう。社交界デビューは規定の年齢に達すればしなくてはなりません。
しかしお茶会の開催はするもしないも自由なのです。
ただお茶会は戦場であると共に未来の友達との出会いの場でもあります。
情報網のパイプを太くするのに、お茶会を開くのが一番手っ取り早いのです。
私ももちろんお茶会を開催することに不安があります。
お嬢様に余計な心労がかからないか。負担を増やさないか。心を痛めてしまわないか。上げればキリがありません。
ですがこれは何よりも尊敬するシャルロットお嬢様がお決めになったこと。
傍付きのメイドである私にできることといえば、少しでも多くのサポートをすることです。
私は足早にアリア様のお部屋へ向かいました。




