第91話 講堂にて
「……本日お集まりの皆様、ご機嫌よう。私は、魔術学院、初等部の部長を務めさせていただくことになりました、エレイン・ファーレンス、と申します。本日の試験についても、私が最高責任者となって進めて参りますので、どうぞ、よろしくお願いします」
講堂に集う受験者とその両親たちに向かって、そんな挨拶から始まる説明を始めた私だった。
今日は待ちに待った魔術学院初等部の本試験日だ。
気負いすぎることもないだろうが、今日をうまく乗り切れるかで今後の特殊魔力持ちたちの扱いも変わってくるだろうし、万全を期して臨むつもりである。
事前準備もしっかりやってきた。
今から、試験の概要について説明するわけだが、実のところ、ここ何ヶ月かで、各地で説明会を実施している。
まずは学院の再編についての話、初等部、中等部、高等部という年齢分けの話をしたが、これにはさほど疑問の声が上がることはなかった。
これについてはある意味当然で、魔術学院に通ったことがある親たちにとっては、比較的納得感のある話だからだろう。
というのは、今までの学院では幾つであっても同様の試験を受け、入学することから、同じ在籍年数の者であってもかなり年齢が開くことが間間あり、そういう場合に居心地の悪さをお互いに感じることは少なからずあっただろうからだ。
十歳の天才が、十八歳の凡才と同じ授業を受け、天才が凡才に嫉妬と僻みの対象で見られる、なんてことは、よくあることだったのだ。
もちろん、その場合には学院側で対処してきてはいるのだが、こういった学校という閉鎖空間においては、学校側と生徒側の間の認識できることにはかなりの断裂があることもまた、よくある話である。
ある日、唐突に生徒の方から退学届を出されて初めて事態の深刻さに学院が気付く、なんてパターンも枚挙にいとまがなく、そういったことを少しでも減らすために、今回の編成替えがある。
それでもゼロにすることはできないし、基本的な教養科目以外の専門科目については、上の年齢と下の年齢の者が一緒になることもなくす事は出来ないが、今までよりは気を遣いやすくなるのは間違いなかった。
そして、特殊魔力持ちの優遇についての話もした。
基本的にこれは、以前から魔術学院の試験を受けるつもりでいた者たちにとっては不利益なことは何もない。
魔術学院の試験は相対評価ではなく、ある程度以上の実力があるものは人数に関係なく受け入れる絶対評価式であるためだ。
それでは人数が増え過ぎてしまうのではないか、という懸念も一応あるが、毎年生まれる魔術師の割合はある程度決まっている。
多少の上下はあっても人口から計算すれば算出でき、そこから合格点を設定すれば概ね、問題なく調整できるのだ。
ただ、特殊魔力持ちについては、合格基準が特殊魔力を持っているか否か、になるので、属性魔力持ちから見ると、何もしていないのに受かったように見えることが多くなる。
一応、デモンストレーションとして、特殊魔力持ちの力というか、どういう存在なのか、というのは見せるつもりだが、見ただけで全てを納得できるものではない。
だから、事前に丁寧に説明会で説明してきた。
それと、今まで属性なし、とされてきた者たちについて、魔力がある場合は受験を視野に入れてほしい、という話にも力を入れた。
貴族の子供には魔術師がかなり生まれやすいという特徴がある。
これは長い年月で、貴族が強力な力を持つ魔術師をその血の中に取り込んできたから、という事情があるが、しかし、魔力は持っているが通常の属性魔力は持たない、という子が生まれることも少なくない。
つまりは、特殊魔力持ちであるが、これに気付いているのは私やカンデラリオのような特殊魔力の研究者のみであり、だからこそ、貴族では属性魔力を持たない子供については冷遇されがち、という現状があった。
しかし、今回の試験では、そういう属性魔力を持たない子がいるのであれば、是非に、試験を受けに連れてきてほしいという話を行った。
魔力はあるが、属性魔力を持たない場合、特殊魔力持ちである可能性が高く、そうであれば魔術学院において頭角を表すことができるからだ。
これについては、説明会でも話し始めてしばらくは疑問の声が多く上がっていたが、公爵夫人である私がかなり力を込めて熱弁したこと、《魔塔》のカンデラリオもまた支持していることなどを話していくと、消極的にではあるが最後の方には大体の者が受け入れていた。
その場で受け入れたとしても、実際にはどうだったのかは人の内心を見る事は難しいため、なんとも判断しがたかったが、今日、この試験会場に集まっている受験者たちの顔ぶれを見ると、どうやら私の熱弁は結構届いていたようだ、と分かる。
ちらりと見ても、特殊魔力持ちの受験者が数人いるのが分かるからだ。
そしてそういう者の近くには、属性魔力持ちも一緒にいることが多く、これはつまり、属性魔力持ちの家の継嗣と、冷遇されてきた子供、という組み合わせが多いのだろう。
そういう家庭事情で、今日、どちらも受かることになったら、そこそこに家が揉めそうであり、今日の試験はこの国に結構なインパクトを与えるだろうが……子供に罪があるわけでもない。
その辺りの政治的な話は、親たちに頑張ってもらえばいいのだ。
そう思って、私は説明を続けたのだった。
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