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第87話 二人目

「母上! 外で遊んできてもいい?」


 私が執務室で事務作業をしていると、ジークがそう言いながら中に入ってきた。

 部屋の外には彼につけた護衛騎士が恐縮したように立っており、どうやら困っているらしい、とそれで察する。


「ジーク。外もいいけれど、今日はもうやめておいたら? 午前中に泥だらけになったって聞いたわよ」


「でも! 一昨日、リミドとカスターと遊ぶって約束したんだ! だから……」


 リミドもカスターも、ジークの友人の名前だ。

 と言っても二人は貴族ではなく、領都に住む平民の子供なのだが、ジークを何度か街に連れて行った際にいつの間にか仲良くなってしまったらしい。

 流石にジークと護衛一人だけで街に行かせるわけにはいかないが、向こうからファーレンス公爵家の屋敷に訪ねてきて、そこの敷地で遊ぶ分には問題ない。

 だから訪ねて来た時には可能な限り入れるようにしているし、彼らの両親とも連絡をつけられるようにはしているのだが……。

 

「はぁ、分かったわ。でも、暗くなる前にちゃんと帰ってくるのよ」


「はーい!」


 根気負け、というほど戦わずに許可を出した私に、喜んで出て行ったジークだった。

 あまり他の家ではここまで平民と交流させることもないだろうが、私はジークに子供の頃から多くの経験をしてほしいと思っているために、そうしている。

 前の時に思ったが、そういう交流はいざというときに身を助けるからだ。

 追手から逃げ惑う私を匿ってくれたりしたのは、平和な時に気まぐれに近い形でよくした平民たちだったのだから。

 ジークにそういう時の逃げ場を、とまでは流石に思ってはいないにしても、不利益になって返ってくるということはあるまい。

 まぁ、平民に染まりすぎて他の貴族から馬鹿にされる、というのはありうることだが、その辺りの作法とかはしっかりと叩き込んでいるし、そもそも我が家は公爵家。

 そうそう馬鹿にできるような他家というのは存在しない。

 だから大丈夫だろう……。


 さて、ジークも行ったことだし、仕事に戻ろうか、と思ったところで、


「……奥様。ノエルさまが」


 そう言って侍女のアマリアが入ってきた。

 顔を上げれば、彼女の胸元に一人の子供が抱かれている。

 年齢は一歳と少し。

 紫がかった銀髪に、血のような赤い瞳を持っている。

 つまりは私の持つ色と同じだ。

 それもその筈、アマリアが抱いているその子供は私の娘……長女の、ノエル・ファーレンスであるからだ。

 二人目が出来たと気づいたのは二年前のあの休暇からしばらくしてのことだったが、驚くこともなく、また出産もそれほど苦労することなくこなせたのは、もう前の時から数えればその経験が六度目になるからだろう。

 もちろん、出産するときは痛かったし苦しかったしもうこんなことは嫌だ、と思うのだが、それでも実際の子供が生まれてみれば可愛く、産まない方が良かったなどと思うことはまずない。

 それに私は前の時に、ノエルが生まれると知ってしまっているのだから、産まないという選択肢もあるはずがなかった。

 つまり、あと二人産むことも確定しているわけで、その時の痛みやら何やらを考えるとちょっとだけ憂鬱になるところはあるのだが、もうこれは仕方がないと諦めるしかなかった。


「アマリア。ノエルがどうかしたの?」


 私がそう尋ねると、アマリアが近づいてきて、


「お部屋でご機嫌な様子で遊んでいらしたのですが、急に寂しくなったようで……」


「あー、ママ!」


 ノエルが私を認識して、そう叫びながら、アマリアの胸に抱かれたまま手を伸ばしてくる。

 私がその手を握ると笑顔になったので、アマリアは頷き、ノエルをこちらに渡して来たので受け取った。

 

「ノエル、寂しかったの?」


 尋ねると、ノエルは楽しげに、


「あー、うー!」


 と手を伸ばしたり、私の顔に触ったりして喜んでいるようだった。

 言葉はまだまだ全然だが、ママ、とは言えるようになっているので遅いということもないだろう。

 前の時の経験からして、ここからどんどん喋れるようになる。

 そして最終的には迫力のある美人になるのだ。

 成長すると比較的、私の特徴を受け継いだ顔立ちになる予定のノエルだが、ナチュラル悪女顔の私とは異なって、華やかな雰囲気の品格ある女性になるはずだ。

 比べて、リリーは可愛らしい雰囲気をしていて、同じ娘でもだいぶ雰囲気が違って生まれるのだな、と感心したのを思い出す。

 能力的にもノエルとリリーでは大分違った。

 女子力は確実にノエルの方が高く、戦闘力ではリリーに軍配が上がる、という感じか。

 今回もそうなるのかどうかは謎だが、今から楽しみだった。

 

 ちなみに、この子が生まれて私の心配が一つ、無くなった。

 というのは、今回ノエルの誕生は前の時と比べて少しだけ早かったのだが、その場合、前の時のノエルと、今のノエルとは、果たして同一人物なのかどうか、という心配があったことだ。

 子供ができる仕組みというのはある程度わかっているが、そこからすれば前の時と全く同じ子供が生まれる可能性というのはかなり低い、ということになるだろう。

 いや、不可能と言えるかもしれない。

 けれど……ノエルが生まれたその時、私は確信したのだ。

 この子は、前の時のあの子と、同じ子だと。

 理屈ではなかった。

 ただ、そうだと分かった。


 もちろん、それだけだとただの感傷ではないか、という冷静な部分も残っていたので、私は友人に相談した。

 セリーヌだ。

 彼女はその質問を受けることを知っていたようで、私の疑問について仮説をくれた。

 それは、人を人たらしめるものは、魂だ、という話だった。

 私にはセリーヌがどんな世界を見ているのかは知らないが、彼女が言うには、人の本質というのは、宿る魂によって決まるのだという話だった。

 どんなもので構成されるかよりも、どんな魂が宿るのか、がその人をその人たらしめるのだ、と。

 そして人の子供に宿る魂というのは、あらかじめ決まっているのだ、とも。

 つまり私がどのタイミングで妊娠しようとも、そこに宿る魂は変わらない、らしい。

 だから、前の時に二番目に生んだ子なら、今回の二番目の子も同じ魂を持つことになると。

 私からしてみればその話はすんなり受け入れられるようなものではなかったが、しかし、私は確かにノエルを見た時、前の時の子と同じだと思った。

 それは魂が同じだから、と考えればそうなのかもしれない。 

 そう思ったのだ。

読んでいただきありがとうございます。


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どうぞよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 魂が同じ、か じゃあ体の性別が前と違う子が生まれることもあったりして?
[良い点] 奥様、二人目おめでとうございます。 三人、四人も間違いなく前の時の子供が産まれるのはよかった。 違うとショックかもしれない。 [一言] ぶもの誤字は笑いました。 毎日更新ありがとうございま…
[気になる点] 長女のノエル・ぶも 言葉はまだまさ全然 [一言] 作者様、毎日更新楽しみにしておりますが、お疲れなら少し休んでみるのもよろしいかと存じます。
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