第82話 種族
「十歳にしては……体、大きすぎない?」
私はとりあえず思ったことを口に出す。
驚きのあまり、何を言っていいものか咄嗟に何も思いつかなかったためだ。
そんな私の動揺を知ってかしらずか、黒竜は言う。
『本体はまだ成長途中だが……竜体の方は魔力によって形作られているものだからな。まぁ、それでももっと大きくはなるだろうが、今はこんなものだ』
その言い方に、私は疑問を感じる。
「竜体?」
『あぁ。この姿は、本来の姿ではないのでな。ただ、元の姿に戻るにはそれなりに消耗するし、奴には特殊な攻撃をされたものでな。このままの状態で治すほかないのだ。お前には本来の姿を見せてやってもいいのだが』
「ちょ、ちょっと待って……ということは、貴方はまさか……」
ここまで言われて彼の正体を分からない者は中々いないだろう。
まぁでも、今の時代なら分からない者の方が多いかもしれないが。
彼らが問題になるのはもう少し先の話だからだ。
黒竜は言う。
『気づいておらなんだか? 我は魔人族だ」
「その中でも最も強力な力を持つと言われている、竜人族……という訳ね?」
『その通り。なんだ、知っているではないか』
そう、私はその存在を知っている。
いや、存在だけならばこの世界の誰でも知っているだろう。
ただし、実際に会ったことがある者は、この国イストワードの中にはほとんどいないだろう。
というのも、イストワード王国は宗教的に聖国にある聖都を聖地とする聖教会の下にあり、教会は人族至上主義を掲げる集団である。
特に魔人族についてはこの世界を蝕む存在としてひどく排斥していて、それがために聖教会に属する国家に魔人族がいることはまず、あり得ない。
イストワード王国もその例外ではない。
ちなみに、魔人族、とは分かりやすく言うのなら、獣人族の魔物版である。
獣人族には、兎人族や犬人族など、動物の特徴を持った種族がいるが、魔人族は魔物の特徴を持っているのだ。
それが故に、歴史的に魔物と同一視され、排斥されてきた。
ただ、魔物の特徴を持っている、ということはそれだけ強力な力を持っているということに他ならない。
それこそ竜の特徴を持っている竜人族の強力さはとてもではないが一個人が持てる力の上限を超えている。
一国をすら滅ぼしかねないほどの力なのだから。
ただ、だからこそ、力を持たない人族などは聖教会のような集団を作り、信仰をよすがにして勇気と技術をとりまとめ、対抗したという部分もあるだろう。
もっと分かりあうための努力をすべきだったのではないか、と今の私などは思ってしまうが、それが出来るタイミングはほとんどなく、そしてあったとしても素通りされたことは想像に難くない。
今の世界の状況が、そのことを証明している。
ちなみにだが、現在、いわゆる人間と言われるような人の国と、魔人族の国家は対立してはいるものの、概ねその勢力は拮抗していて、ほとんど冷戦のような状態にある。
いつかその状態は崩され、まさに血で血を洗う戦争状態になるのではないか、と実情を知る多くの者が危惧しているが、その日がいつやって来るのかは誰も知らない。
……いや、セリーヌは知っているか。
そして私も。
リリーはまさにそんな中で活躍したのだから。
ともあれ、今現在は、まだそんな危険な状態にはない。
だから、私が魔人族と接触したところで問題はない……とは強弁出来ないかな。
この黒竜にしたって国境侵犯に不法入国ということになる。
自由都市連合の領域だから、本当に厳密なことを言い始めるとどうだか分からないが。
ちょっとしたグレーゾーンでもあるのだ。
まぁ、色々思うところはあるが、ここは黙っておいた方がいいだろう。
表沙汰にしたところでろくなことがないし。
そもそも、ここでその辺りの法律を振りかざして違法だと叫んだところで殺されて終了だ。
私も命は惜しい。
流すことに決めた私は、話を続ける。
「どうして魔人族がこんなところに……」
『色々あったのだ』
「そうでしょうけど。もしかしてあの追いかけてきたって言う青竜も魔人族?」
『そういうことだな』
「細かい事情を聞きたいところだけど、知ったところで藪蛇な気がしてきたわ」
『知らん方がいいと思うぞ。我もここに来たことを吹聴するつもりはないのでな』
「……なら、お互いに黙っておくってことで」
『いいだろう。ただ、もう一度ここを訪ねるつもりではあるが……』
「《竜水晶》のことね? そういえば、竜人族も作れるのね」
『あれは竜の因子を持つ者なら皆作れるものだからな。ただ、質に違いがあるだけで』
「その辺りは研究してみたいところだけど……」
『であれば、ここを去るときに、我の《竜水晶》をお前に譲ろうか? 母上のそれほどのものではないが、お前の位置を知るのには役立つ故な』
「位置って……」
『次回、ここを訪ねるときに目印がなければ困るだろう? 一番簡単な解決方法だと思うが』
「ここに直接来ないで、私のところに来るってことね。まぁ、悪くはないけれど……黒竜の姿で来られるのはやっぱり……」
『なるほど、そこが問題なわけだ。であれば、人の姿で来ることにしよう。本体は人の姿の方なのでな。国境も隠匿によってすんなり越えられる』
「イストワードの者としてはそう易々と越えられては困るものなのだけれどね……まぁ、そういうことなら、誰かを無闇に驚かすことはないでしょう。分かったわ」
本当は分かりたくないし、来るなと言いたいが、力の差が彼の言葉の全てを肯定せざるを得ない状況にさせられてしまっている。
本人はさほど悪い者ではなさそうなのでそんなつもりはないのかもしれないが、私からしてみれば爆弾を転がしているような気分だ。
あぁ、早いこと傷が治ってくれないかな。
そう神に祈りたくなった。
あまり信じてはいないけれど。
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