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第79話 おねだり

「……食料を? 別に構わんが……何故?」


 館に戻って次の日、ロルフに食料をしばらくの間、定期的に数人分くれないか尋ねてみた。

 ただで譲ってくれという話ではなく、対価は支払うと言った上でだ。

 しかし、対価については別に要らないと言われてしまったが。

 ロルフは曲がりなりにも前公爵であり、十分な資産を持っている。

 数人分の食料代くらい、いくらでも出せる。

 そのため、それについてはすぐに引いて受け入れたのだが、なぜと聞かれたのは困ってしまった。

 もちろん、こんな話をしたらそれは聞かれるだろうとは考えてはいたし、言い訳も用意してあるのだが、果たして通じるのかという問題がある。

 ロルフは長年、ファーレンス公爵として貴族たちの頂点に立っていた眼力の優れた人物である。  

 そのため、私などが嘘をついたところですぐに見抜かれてしまうのは目に見えていた。

 私も前の時に色々と権謀術数を張り巡らせる過程で数え切れないぐらい人を騙してきた経験はあるものの、ロルフは結局騙す事など出来なかったのだ。

 今もできるようになっているとはとてもではないが言えない。

 つまりは、嘘はつくべきではない。

 私はロルフに言った。


「実は、昨日山の方で強い魔力を感じて、夜中見に行ったのです」


「……本当か? クレマンは特に何も言っていなかったが。門番も同様に……」


 ここは引退したロルフの館とは言え、しっかりとした使用人がいる。

 門番も当然いて、かなりの腕利きであることは確認している。

 ただ、私も隠匿系の魔術は得意だ。

 前の時にそれが必要だったためであるが、戦乱の中で磨かれたその技術を見抜くのは容易ではない。

 だからこそ、門番も気づかなかったのだ。

 私は言う。


「クレマンにはまだ言っていないので……余計な心配をかけたくなくて。門番の方々は、申し訳ないのですが隠れて行ったので気づかれなかったのかと」


 するとロルフは呆れた顔で、


「……昨日の夜、クレマンと酒を飲みながら貴女の事を聞いたのだが、かなりのお転婆だと笑っていた……大袈裟なことを言っているのかと思ったが、全く誇張ではなかったのだな……」


「お恥ずかしい限りです」


「それに、門番の技能に少しばかり不安が生じたが……」


「そのことについては、お気になさることはないかと。これについては自慢なのですが、私、忍び込むだけならば王城にすら誰にも気づかれずに忍び込む自信がありますので」


「……本当なら恐ろしいことだが。それを誰かに言ってはならんぞ?」


「もちろんです。お義父さまだからこそ申し上げております」


「ならば良いが……それほどの腕を持っているのであれば、見逃しても仕方がない、か。まぁ、それについてはいいだろう。それで、話の続きだ。山で何を見たかだが……」


「はい。強力な魔獣に遭遇しました。極めて高い隠匿技術を持っておりまして……ただ、怪我をしていました。また高度な知能を持っており、それが故に会話が可能でした」


「なんと!? では討伐隊を組織せねばならんか」


「いいえ。実のところ、その魔獣とは交渉が出来まして、食料と魔石を持参すれば、早晩、この地を去るとの約束をすることが出来たのです」


「ふむ……魔獣も人と敵対的なものばかりでもないのは確かだ。話し合いが可能なものであったというわけか……」


「はい。ただ、傷が治るまではどうしても動けないという話でしたので、それまではしばらく滞在する必要があるようで……」


「……さっさと討伐した方が良い、と判断すべきなのかもしれんが、貴女があえて交渉という手段を選んだことには理由があるのだろうな?」


「かなり強力な魔獣でしたので、トラッドに常駐しているような戦士では討伐は難しいかと。アステールの者でもおそらくは無理でしょう。総合的に考えて、魔獣の提案を飲んだ方がいい、と判断しました」


「嘘偽りはないな?」


「ありません」


 真っ直ぐ目を見つめて頷いた私を、その心の奥底まで見抜くような眼差しで見るロルフ。

 正直、色々と見抜かれるのではないかとドキドキした。

 私は今、確かに嘘は言っていなかったが、正確なことを報告しているとも言えない。

 竜とは言わずに魔獣と言っているのだから。

 竜と言ってしまうとかなりの大事になってしまうし……強力な魔獣、くらいであればまぁ、なんとか。

 本当のところ、ロルフには竜だと言ってしまってもいいのだが、どこに耳があるか分からない。

 後で伝える必要が生じることは分かっているが、とりあえず今のところはこれでいいはずだ。


「……なるほど。嘘はついていないが、言っていないことはある、そんなところだな」


 やはり見抜かれた、とは思ったが、別にロルフの目に私に対する不信が宿ったわけではなかったので、私は落ち着いて言う。


「……はい。ここで全てお伝えするのは……少しばかりまずいかと」


「ふむ? 誰かに聞かれることを危惧しておるのか。おそらくは問題ない……とは思うが、私も引退してこのトラッドに引っ込んでから、かなりその辺りは適当になってしまっていることは否めんな。後で詳細は聞くことにして、今はそれで満足しておこう。食料についてもすぐに用意させるが、貴女が自ら持っていくのか? 護衛などは要らんのか?」


「護衛をつけたところで意味がないというのが正直なところですので。それに一人で行った方が信頼も買えるという期待もあります」


「……強かだな。ただ打算が全てというわけでもないか。まぁ、いいだろう。あぁ、魔石についてはどうする? いくらかなら備蓄があるが……」


 屋敷の中にある魔導具を稼働させるために、魔石はそれなりにあるのだろう。

 私としてはちょうどいい提案だったため、言う。


「……でしたら、お願いできますでしょうか。ただ、それについての対価は……」


「払う、と言いそうだが別に不要だ。それに他に必要なものがあれば遠慮せず言ってくれ。今までの不義理の分協力は惜しまない故な」


「本当にありがとうございます、お義父さま……どうお返ししたらいいか」


「気にしなくていいと言っているだろう。ただ、あえて言うなら、またここを訪ねてくれ、というくらいだな。それと私たちも訪ねさせてくれ」


「それについてはもちろん」

読んでいただきありがとうございます。


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どうぞよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 竜が登場~!Σ( ̄□ ̄;) 竜の対立に巻き込まれていく、スペックが高くなっていく主人公。 本格的に巻き込まれる前に、ほのぼの家庭の様子を・・・もっと読みたいです。 旦那様とラブラブで鋭気を養…
[一言] 王城に浸入できる技能を持つ公爵夫人て、まあまあふざけてるよな 先代公爵もなかなか切れ者というか、すごいよな
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