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第72話 貰った経緯

「それでもらったのが、これ、というわけか……流石に僕でもこれはもらいすぎのような気もするね」


 ファーレンス家の館に戻り、クレマンにフィーカにもらった箱を開けて見せると、彼はそう言った。

 そこにあったのは驚くべきものだった。

 見た目は紫に近い黒っぽい輝きを放つ水晶、なのだが、実際のところはそんなものではない。


「……私も《竜水晶》なんて、貴族向けのオークション以外で見たのは初めてのことだったわ」


「そうだろうとも。そのオークションですら十年、二十年に一度出るか出ないかの品物だ。しかもこれは最上級クラスの竜のもの……オークションに出せばそれこそ数百年に一度の出物だと言われて然るべき品だろうね」


 そう、《竜水晶》とはそれだけの品なのだ。

 単純には、竜がその体内に持つ魔石の一種である。

 だから飛竜なども持っているではないか、と思うかも知れない。

 しかし、飛竜の持っている魔石はただ単純に魔石としか呼ばれない。

 《竜水晶》の名で呼ばれるのは、一定以上の格を持った竜の魔石のみなのだった。

 それはその存在の特殊さに原因があって、通常、魔物が体内に持つ魔石というのは、その魔物を倒して解体すれば得られるものである。

 けれど、《竜水晶》は違う。

 たとえ竜を倒し、解体したとしても、通常、竜が体内に持っている魔石は取れるが、《竜水晶》は取ることができないのだ。

 ではどうやって得るのか、というと、竜の巣だったと思しき場所に、稀に残されていることがある。

 何故なのか、という点については、色々な説があるが、竜が死したときに自らの力を込めて残した生きた証がそれなのだ、とか、子供に与える母乳のようなもので、子供を育てているときにだけ生産されるのではないか、という説が有名だ。

 実際のところははっきりとはしていないということになる。

 ただ、伝説などでは高位竜と意思疎通をして契約したものが、その証としてもらった、という記述などもあり、本人ならぬ本竜と交渉すれば得ることができるのではないか、と主張する者もいる。

 そして今回の場合、この説を裏付ける話をフィーカがしていた。


「フィーカさんは……この《竜水晶》を昔、竜から直接もらった、って話していたわ」


「竜から!? いや……驚くべき話ではあるが、彼女のような立場では他に手に入れる方法はないだろうし、嘘ではないと考えるべきだろうね」


 フィーカは困窮している平民だ。

 オークションでは貴族ですら尻込みする価格が付けられるだけの品を、購入することができるはずもない。

 窃盗で、というのは考えられないわけではないが、《竜水晶》を元々誰が持っている場合であっても、フィーカに盗まれるような適当な警備をしているはずがない。

 そもそもフィーカは確かに困窮はしていても、清廉な性格の人だった。

 そんなことはするはずもないと私は思っている。

 では、それこそ竜の巣などで発見したのか、と考えることもできなくはないが、竜の巣のある場所などいわゆる深山幽谷と呼ばれるような、普通の人間にはとてもたどり着けない魔境だ。

 病で苦しんでいた彼女がそんな場所に行けるはずもない。

 若い頃だとて、そのような戦闘力があった経歴は特にないようだった。

 あれば年老いてもそれなりの気配や魔力というものは感じられるものだが、そういうものもなかったし。

 となると、やはり彼女が言ったように、竜そのものから受け取ったのだ、ということになる。


「ええ。若い頃、彼女は踊り子をしていたらしいんだけど、この辺りの山で山菜狩りをしているときに竜に遭遇したそうなの」


「ほう……それはそれは。この間の竜の襲撃と言い、実はこのアステールは竜にとって重要な土地なのかな? しかしその割には竜の目撃情報などほとんどないが……」


「そのあたりは流石に分からないわね」


「おっと、話の腰を折ってしまったね。続けてくれ」


「ええ……それでね。その竜がかなり大きな傷を負っていたみたいで……」


「竜が、傷を……余程腕のいい冒険者や傭兵にでもやられたか、それか同種同士の争いか……」


「それも、今となってはね。ともかく、それを見たら普通は逃げるものだと思うのだけれど、フィーカさん、なんだか押しが強いというか、物怖じしない所は昔からなのね。彼女は逃げずに、竜に近づいて話しかけたそうよ。『怪我は大丈夫かしら? 何か必要なものがないかしら?』」


「……それは。物怖じしないどころか暴勇と言っていいだろうね」


「ね。ただ、正直なところを言えば、逃げようとすれば殺されそうな気配もあったらしいわ。むしろそっちが本当の理由だったのかもね」


「あぁ、ありそうだね。怪我を負った竜が山にいた、という情報はかなり高く売れるだろうし、すぐに討伐隊が出るかもしれない。そういう危険を避けるために、人間を見たら殺す、というのは知能の高い高位竜にはありそうな行動だ」


「でも、流石に自分から話しかけてくるとはその竜も思わなかったみたいね。驚かれたらしいわ。そして……意思疎通に成功した。その竜は会話が可能な高位竜だったみたい」


「ある種の賭けに勝ったわけだ。それで?」


「それから、竜は驚きつつも、助けが必要だと正直に言って、フィーカさんに色々と頼み事をしたらしいわ。食料や布なんかを求めてね」


「人のそれで足りるのか?」


「それは彼女も疑問だったらしいんだけど、素直に持っていったということよ。それ以外にできることもなかったと。それに、次に行った時にはかなり大きな傷がほとんどなくなっていたって」


「竜は治癒力も人智を超えているからね。おかしくはないが……」


「そして、竜はフィーカさんにお礼を言って、《竜水晶》を作り出し、彼女に渡して飛び去っていった、と」


「食料と布の対価にしては随分といいものをもらったものだ、と言う感じだが、竜にとってはだいぶありがたかったのかな? 行動原理がよく分からないが……フィーカさんは運がいい人のようだね。今回も君が来たわけだし」


「どうかしら。でも、世の中には神に愛されているように、不思議な経験をたくさんする人というのはいるわ。フィーカさんも、そういう人なのでしょうね……」


 そして私も、と余程言いたかったが、これについては言ったところで通じるような話ではない。

 しかしフィーカと出会ったのはある意味で必然なのかも知れないと、そんな気がした。

読んでいただきありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
おどりこへーみんと ଘ(*;ˊvˋ)ଓΣ(0言0;)ξ(おどろきドラゴン)
[良い点] 何か良いものは《竜水晶》だった… えっ∑(゜Д゜) 気持ちとはいえ、そのままお礼として貰ってしまうにはちょっと釣り合いの取れない「良いもの」でしたね! 勿論、死んでしまえばどうなってしまう…
[一言] すごいものをてにいれたなぁ
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