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第69話 活躍

ちょっと頭痛が酷くて今日短めです。申し訳ない。

「……なんてこと……」


 馬車の外に見えるアステールの街の光景は酷いものだった。

 あの竜が放ってきたものだろう氷柱がいくつも、街の様々なところに突き立っているのがまず目に入る。

 それに破壊された建物の数も相当に上ることもすぐに分かった。

 それ以上に酷かったのが、被害を受けた人々だ。

 大怪我を負った者達がそこら中に倒れている上、軽傷のものまで数え上げればキリがなさそうだった。

 治癒術士と思しき者達も走り回っているが、数が足りているとはとてもではないが思えない。

 そんな中、馬車が停車し、御者が、


「奥様。これ以上進むのは難しいかと。引き返された方が……」


 と控えめに言ってきた。

 改めて外を見てみると、瓦礫や人の波で馬車が進むのはここが限界、ということのようだった。

 元々馬車の向かっていた先は、アステールでも比較的大きな治療院である。

 私はそこで治癒術が使える人間として活動するつもりだった。

 ただ、これ以上進めないのであれば……。


「分かったわ。私はここで降りて、歩いて治療院に向かうから、馬車の方は頼んだわね」


 そう言って馬車を降りた。

 外に出ると、


「奥様?」


 と首を傾げる護衛が三人、乗っていた馬から降りて近づいてきたので、私は彼らにも言う。


「ここからは歩いて治療院に向かうわ」


「でしたら、馬をお使いください!」


 護衛の一人がそう言って自らが乗っていた馬を示すが、私は首を横に振った。


「それほど遠くはないし、それに重傷者を見つけ次第、癒しながら向かうから。馬の上からだとかえって手間よ」


「は……?」


「ともかく、行くわ」


 困惑する護衛に全てを説明することなく、私はそのまま歩き出した。

 あまり長々と説明していたら手遅れになる人もいるかもしれない。

 行動で示せば理解してくれるだろうと思って。


 ◆◆◆◆◆


「コリン……コリン!!! 死なないで……!」


 治療院に向かう道すがら、怪我を負った子供を抱きながら、涙を流しつつ叫ぶ若い母親を見つける。

 私は彼女の元に駆け寄って、子供の様子を見る。

 腹部にかなり大きな裂傷があり、そこから血液が流れている。

 この様子だと放っておけば死ぬ。

 そう思った私は、


「ちょっといいかしら?」


「……え?」


「失礼するわね……《治癒サナーレ》」


 意思を確認するよりも先に、傷に向かって手を掲げ、治癒魔術を唱える。

 最も基本的な治癒術である《治癒サナーレ》であり、ベテランの治癒術士や神官はこれを低級なものとして使用しない者もいるものだが、実際にはかなり有用だ。

 回復量の調整をしやすいし、他の治癒術よりも必要魔力量も低い。

 単純な裂傷に対しては最も効果が高く、したがってここでは一番の治癒術だった。

 実際、子供の裂傷は少しずつ塞がっていき、そして最後には傷跡すらなく完全に治った。

 意識はまだ戻ってはいないが、呼吸は安定している。

 間に合った、とほっとする。

 そこでやっと、


「……治癒術……!? も、もしかして治癒術士様ですか!? コリンは、コリンは助かるのでしょうか!?」


 母親が慌てたようにそう尋ねてきた。

 間近で見ていたのだから当然、傷が消えたことは認識しているだろうが、まだ不安なのだろう。

 私は彼女に言う。


「大丈夫よ。血を結構流してしまったようだけど、この様子なら問題ない。後は、ゆっくりと休ませてあげることね」


「……ありがとうっ、ありがとうございます……! あ、でも、お金が……」


「それも気にしなくていいわ。それじゃあ、私は行くから」


 そう言ってから、私はその場を護衛たちと共に後にし、治療院へと歩き出す。

 けれど、治療院にたどり着く前に、何度かそんなことが続いた。

 さらに……。


 ーーバリィン!!


 と言う轟音が鳴り響き、身構えると、上から落ちていた影の形が変わるのが視界に写る。

 その影は刺さっていた氷柱の影で、つまり今の音はそれが壊れた音なのだろう。

 周囲にひしめく大勢の人々。

 私の周りには魔術盾が張ってあって、仮にあれがそのまま落ちてきたところで私は死にはしないだろう。

 しかし、街の人々はそうではないのだ。

 私は一瞬でそう考え、自らの周囲に張っていた魔術盾の範囲を拡大した。

 上から落ちてくる氷柱の残骸に気づいた人々が悲鳴を上げる。

 あれに押しつぶされる運命を幻視したのだろう。

 けれど実際にはそんなことが起こることはなく、目をつぶっていた彼らが上を見上げると、そこには不自然に空中に浮かんでいるような氷柱の残骸の姿があった。

 

「奥様……!」


 護衛たちが私がやっていることだと気づき、そう言った。

 ただそれに答える余力はなく、私は少しずつ魔術盾を縮小していき、氷柱の残骸を安全に地面に着地させていく。

 流石に混乱していた群衆も、この光景には驚いたらしく、意外にも落ち着いた様子で氷柱の隙間を縫って身を寄せ合い、避難していた。

 そして全ての氷柱の残骸が着地した時、歓声が上がった。

読んでいただきありがとうございます。


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どうぞよろしくお願いします。

ブクマ・感想もお待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] みごとな話の展開力。普通の救助の話なのにエレインのやることが身に沁みる。頭痛で大変でしょうが、ご自愛を。
[良い点] いつも楽しく拝見させていただいています。 奥様の死に戻り冒険活劇に毎回ドキドキワクワクしています。 楽しみにいつまでも待っていますのでゆっくりお体静養なさってくださいね。
[一言]  民衆からは、神様 仏様 エレイン様と崇められそうですね。  ――てか、こんな人格者が、前回の時は何故に権力に妄執して、国家転覆まで企てたのか気になります。  何か権力の鬼になる事件でもあっ…
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