第45話 お茶を飲みながら
「……それで、そのあとはどうしたの?」
王都に存在するブラストリー伯爵家、その館でセリーヌが興味深そうに尋ねた。
私は言う。
「少し話をしたわ。それからカンデラリオ様にその子……クラリスって言うんだけど……について、《鳩》を飛ばして伝えたわ」
「カンデラリオ様に? なんて?」
「実は、魔導具について相談した時に、カンデラリオ様に特殊な属性の魔力を持っている子たちのことについても話しておいたの。前の時、カンデラリオ様が亡くなったのは、そのための実験を終えた直後だったらしいから。だからきっと興味がおありだろうと思って……」
そう言うと、ここでセリーヌは制するように手を挙げて、それから呆れたように、
「そういうことは先に言っておいてもらえるかしら。《塔主》の運命についてここでいきなり聞かされるとは思ってもみなかったわ……」
「あぁ……ごめんなさい。セリーヌなら《予言》の力で何でも知っているんじゃないかって思ってしまって……」
「確かに私にはある程度の未来が分かるわ。けれど、それはあくまでも見ようと思った未来と、たまに突然、見てしまったことだけで、誰のこともみんな分かっている、というわけじゃないの」
「そうなのね……」
確かにこの年齢のセリーヌの能力はそこまでではなかったな、と改めて思い出す。
晩年のセリーヌはそれこそどんなことでも知っているかの如くだったし、それだけの力を持っていたが、彼女自身が経験を積んだため、そのように見せられるようになっていたというのもあった。
知らないこともすでに知っているように見せたり、とかそう言うブラフの類が女優のように上手くなっていたのだ。
それに、私はセリーヌと最終的に対立していたから、その能力の詳細までは知ることが出来なかった。
だから彼女の力については、何となく、で話してしまう。
彼女は頭の働きも飛び抜けているから、それでもかなり理解してくれると言う事実も手伝って。
でも、これは良くない。
ちゃんと一つ一つ、確認していかなければ。
「ええと、ごめんなさい。セリーヌ。これからはちゃんと前置きはするわね」
「そう願うわ。それで……カンデラリオ様が実験の後に亡くなられる、その実験というのが……」
「そう、特殊な属性魔力を持った魔術師の、能力測定の実験ね」
「それで、そのクラリスっていう娘が特殊属性の魔力を持っているから……それについてカンデラリオ様に?」
「そうね。厳密には、カンデラリオ様はそれについてはすでにご存知のようだから、測定ができる、ということをお伝えしたの」
「貴女には出来るわけね? でもどうして? 未来にそういう技術が作られるということかしら」
「最終的にはそうなるのだけど、そもそも基本的な技術はカンデラリオ様がその実験の時にすでにある程度作られていたから。その資料を私……ファーレンス公爵家の方で回収して、私がそれを元にして確立したの」
「……貴女、何やってるのよ……」
「色々やったわ。何せ前の時の私は悪辣極まりない公爵夫人だったからね」
「想像がしにくかったけど、こうやって一つ一つエピソードが重なっていくたび、なんだかだんだんと輪郭が見えてきたわね。そんな貴女と私は対立していたのね……未来の私、勇気があるわ」
「得難い友人よね。しかも何度も出し抜かれたし……」
「私も私で頑張ったのね……」
「ええ。貴女との知恵比べはとても楽しかったわよ」
「今回はそういうことがないことを祈るわ……」
「もちろんよ。今回は、私、平和的に生きるから。そのクラリスのことだって、そのためにカンデラリオ様と話したのだし」
「そうそう。それでカンデラリオ様はなんて?」
「そう言った技術があるのなら、ぜひご教示願いたいって」
「教えるわけね?」
「ええ。そのための魔導具の開発を協力して行うことになったわ」
「魔導具? でも貴女、クラリスを見ただけで特殊属性魔力を持っていることが分かったのよね?」
「ええ。確かに魔導具なんてなくても、私が見れば特殊属性魔力の有無と、どんな属性なのかは分かるのだけど……流石に私が全員見て回るわけにはいかないでしょ?」
「確かにそれはそうね」
「それに、原理についてしっかりと明かしておかないと、信じられないでしょう?」
「貴女に特殊属性魔力があります、これこれの属性です、と言っても妄言にしか聞こえないものね」
「そういうことよ。だから、誰にでも理解できるように論文にして、技術についてもしっかり共有して……ということをやっていかなければね。そのためには《魔塔》の協力は必須だわ」
「そういうことで協力を求めるなら、魔術研究所や魔術学院でもよかったんじゃない?」
「魔術研究所は国の機関だから、色々とややこしいことがありそうでしょ」
「あぁ……他の貴族の横槍なんかはまぁ、ありそうね。魔術学院は?」
「そちらについては後回しといったところ。おそらく、まず魔導具を確立して、しっかりと完成した段階で魔術学院に入る子たちの選別に使ってもらうという段階を踏むことになるでしょう?」
「先に教えるのは……あまり意味はないということね。特殊属性魔力があるかないかは今の段階では貴女しか確実に見抜くことは出来ないわけだし、貴女が試験官をするわけにもいかないでしょうし」
「私個人としてはやってもいいのだけど……」
「流石に色々と抱えすぎよ。やめておいた方がいいわ。それに、特殊属性魔力を持っていたけど魔導具が出来る前に受験して落ちてしまった、なんて子たちも、数年待てば資質を改めて確認できる機会はやってくるのでしょう? 魔術学院は基本的に年齢は問わないのだから、問題ないでしょう。まぁ、一応大体これくらいまで、というのはあるけれど……」
「その辺りについても、後で魔術学院と相談したいところね」
「本当、貴女と友達だと退屈しないわ。私に手伝えることがあったら何でも言ってね?」
「もちろん。そもそも、今日だってただお茶を飲みにきたわけじゃないもの」
「あら、まさに手伝えることがある、というわけね?」
「ええ。多分だけど、ブラストリー伯爵家はウェンズ商会と懇意だったわよね? ちょっと紹介してほしいのよ」
「……それも知っているのは、やっぱり前の時の記憶からね?」
「やっぱりそうなのね。前の時は貴女が亡くなった後にやっと分かったくらいだから……」
「へぇ、未来の私はそこまで隠し切ったのね。自画自賛したくなるわ」
「本当にね……それで、どうかしら? 無理強いはしないのだけど」
「いいわよ。紹介しましょう。すでに知っているようだしね。ただ、うちとあそこの関係は、内緒にしててね」
「分かったわ」
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