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悪役一家の奥方、死に戻りして心を入れ替える。  作者: 丘/丘野 優
第二章 親友と子供と

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第44話 特殊な才能

「さて、これで大体《魔塔》の中は観察し終えたかしら」


 《塔主》カンデラリオの許可をいいことに、まっすぐ帰ると言っておきながら《魔塔》の中をかなり歩き回った私である。

 単純な興味もあったが、もしも後々、敵になった場合にどういった方法で対処するかも考えたかった、というのもある。

 まぁ、今回についてはカンデラリオといい関係を築けそうであるし、トビアスも前の時のような歪み方はしなさそうに思えた。

 私だっておかしな干渉をするつもりはないということも加えて考えてみれば、おそらく敵対することはないだろうとは思う。

 ただそれでも一応、確認しておかないと安心できないのは、前の時、常に命を狙われていて、周囲の人間を家族以外全て敵だと思って行動しなければならなかった、悪辣な自分の生き方のゆえだ。

 我ながら、本当に救いようがないが、あれはあれで生きがいのある人生だったとは思う。

 もう一度繰り返すつもりはさらさらないし、そもそもしっかりと反省はしているのだけど。


 そんなことを思いながら《魔塔》の敷地内を歩いていると、ふと争いの声が耳に聞こえた。


「……貴様、トビアス様に……!」「カンデラリオ様だけでは飽き足らず……!」


 と、聞き覚えのある名前の入った怒声だった。

 なんだろうと気になってそちらの方に歩いて行ってみると、そこには数人の魔術師が、一人の若い、魔術師見習いのような少女を囲んでいるところだった。

 あの少女は見たことがある。

 私が正門でトビアスと戦っていた時、トビアスがカンデラリオを逃すために合図して逃した少女だ。

 そんな彼女が、なぜこんな状況に陥っているのか。

 私が更に近づくと、


「……誰だ!?」


 と、少女を囲んでいた魔術師たちの中でも、最も年嵩と思しき男が振り向いた。

 気配は特に隠さずに堂々と近づいたので、すぐに気づかれたわけだ。

 しかし、その男は振り向いて私を確認するや否や、顔を青くし、


「き、貴様は……正門に現れた……!?」


 と言ってきたので、なるほど、と思って私は言う。


「あら。もしかして私と正門で戦っていただいた魔術師の方の一人かしら? トビアス様以外、あの後どうなったのか気になっていたのよね。他の方がどこかに運んでいったところまでは見たのだけど。お加減はいかがかしら?」


「か、加減はどうだと……!? 貴様、あれだけのことをしでかして何様のつもりだ!? そもそも貴様は誰……うっ!?」


 話しぶりからして、まだ私が誰なのかということについては周知されていないのだろう。

 まぁ、カンデラリオとすぐに彼の執務室に行ってしまったきりだし、私が誰か、というのを正確にあの場で理解したのはカンデラリオとトビアスだけだった。

 その二人がまだあの塔にいる以上は、周知不十分なのも当然だった。

 ただ、私はこれで一応、公爵夫人であり、そんな私に対してあまり不遜な態度をとると、後々彼の立場が悪くなってしまう。

 せっかく戦ってもらったのに、そんな事態を招くのは本意ではなく、だから私はあえて隠蔽してた魔力を放出し、彼を威圧して黙らせた。

 それから、名乗る。


「自己紹介が遅れましたね。私はエレイン・ファーレンス。これでもファーレンス公爵夫人ですわ。魔術の方は嗜み程度に身につけておりますの。分かっていただけたかしら?」


 それから魔力の威圧を少し解いて、喋れるようにすると、魔術師は、


「こ、公爵夫人!? わ、分かりました……大変な失礼を。どうかお許しいただきたく……」


「ええ、許します。ところで、気になったのだけど、なぜそこの少女を囲んでいらっしゃるの?」


「あ、あの、それは……いえ。なんでも。我々はこれで失礼させていただきたいのですが……」


「……そう。まぁ、いいでしょう。許します」


 そういうと同時にそそくさと魔術師たちは去っていき、それを見送った後、少女も頭をペコリと下げて去っていこうとしたので、


「ちょっと!」


 と止めると、


「は、はい……何でございましょうか?」


 と小動物のように怯えた様子で立ち止まり、こちらを見た。

 どこか庇護欲を誘うその姿は、私の目には新鮮に映った。

 娘たちの子供時代は、このような可愛らしさがあったが、前の時の晩年は、正直二人とも吹き出すオーラはほぼ女帝のようだった。

 タイプが違っていて、華やかな長女と、存在してるだけで全てを威圧する次女、という感じだったが。

 だから彼女たちの子供時代の記憶は遠い。

 まぁ、また産む予定なのでその時にたくさん可愛がってやればいいのだが。

 実に楽しみだった。

 ともあれ、今は目の前の少女だ。


「貴女、さっきの魔術師たちに虐められていたでしょう?」


「えっ、い、いえ、何のことだか……」


 恥ずかしいと思っているのか、それともプライドのゆえか、シラを切ろうとしてるが私には分かる。


「ちゃんと怒声を聞いたから分かっているわ。ここに来たのもそれが理由」


「もしかして、助けて頂けたのですか?」


「まぁ、押し付けるつもりはないけれど、そういうことね」


「それは……ありがとうございます! 実は、私、この《魔塔》ではあまり力のない方で、でも《塔主》様にはよくしていただいているから、先輩方からはよく見られてなくて……」


「あら? そうなの。でも結構な魔力量を持っているようだけど」


 ジークの魔力量については教会を頼ったが、実際のところ私は器具なしでも相手の魔力量をある程度読める。

 まぁ、ある程度以上の魔術師ならできることだし、そうでなくても強い魔力を故意に放出すれば魔術の心得がなくても本能的にわかることはある。

 ただ、今の少女は特に魔力を放出していない……いや、出来ないのだろうな。

 少女は驚いたように、


「……よくお分かりですね? 私、魔力は確かに多いのですけど、あまり動かすこともできなくて……無能なんです。それもあって、余計に先輩方には……」


 それで私は理解する。

 彼女はジークと同じだ、ということをだ。

 つまりは偏りのない魔力を持っていて、かつ現在の技術では観測できない特殊な属性魔力を持っている可能性がある。

 魔力の多さから考えて、おそらくそれは正しそうだ。

読んでいただきありがとうございます。


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どうぞよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] ちょくちょく挟まれる娘の化け物エピソード… 第一話の「スッキリ消えましょう」からも性格が滲み出てますね。
[一言] これは化けるかも知れませんなぁ。 ジークの為にも実験台に…(笑)
[一言] なるほどなあ
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