第41話 協力について
「……では、どうされるおつもりですかな?」
私の話を聞き、少しばかり落ち着いてきたカンデラリオは、その話が行き着く先について真っ直ぐ尋ねる。
そして私は、これについては別に隠すつもりもなく、騙す必要もないことなので正直に答える。
「私が考えているのは、この魔導具の利益を我々と《魔塔》で共有しないか、ということです」
「ふむ……? しかし、この魔導具は貴女が開発されたもの。我々が特段介入したわけでもなく……本来貴女が一人でその権限を行使できるもの。そうであるのに、なぜ利益の共有などと?」
このカンデラリオの疑問は最もなことだろう。
何か新しいものを作り出した者であれば、そこから得られる利益は全て自らの手元に集約したいと考えるのが普通だ。
そしてそう考える以上は、他の誰かに一枚噛ませるなどとはあまり思わないのも確かだろう。
であれば、私の言っていることはカンデラリオたち《魔塔》の人間にとっては、妙にうまい話、にしか聞こえないと言うことにもなるだろう。
けれど、これは私にとっても十分な利益のある話なのだ。
それについて、私は語っていく。
「いくつか理由はあります。まず一つ目ですが、先ほどコストのお話をしましたわね?」
「ええ、少しばかりこちらの魔導具の方がコストが高い、ということでしたな……」
私の魔導具を手で弄ぶように見ながら、カンデラリオはそう言った。
私はそれに頷き、言う。
「その通りです。ですが、従来から魔術盾の魔導具を製作・販売されている《魔塔》の技術や伝手があれば、それを下げることが可能なのではないでしょうか」
「なるほど、確かにそれはその通りです。この魔導具が、我々の製作技術で作れるものなのであれば、の話ですが」
それを自分たちに教えても構わないのか、と言外に伝えるカンデラリオ。
もちろん、私とてその危険性については考えてきていないわけがない。
「それについては後々解決できる、と考えております」
秘密保持契約をしっかり結ぶとか、核心的な部分について製作する技術者についてはよくよく選ぶとか、そもそもこちらから派遣するとかだ。
「ふむ……」
「それに関わって考えていることがありまして、現在、市井の魔導具職人が《魔塔》の魔導具に迫るべく努力を始めていることはご存知ですか?」
「それは……普段から市井の魔導具職人たちが努力をしていることは知っておりますが……」
それ以上ではない、と言うことだ。
これについては当然と言えば当然だろう。
私のこの知識は、いずれ起こる魔術盾魔導具の利権戦争の際に表面化したことだ。
つまりは未来の知識になる。
だからカンデラリオは知らず、彼が言っているのはあくまでも一般的な努力についての話だ。
だから私は言う。
「そういった努力は当然しているでしょうが、そうではなく、《魔塔》の魔導具にとって代われるような、高性能な魔導具を組織的に研究しているということですよ」
「……それは事実ですかな?」
目がギラリ、としたのはそこに危機感を感じたからだ。
私は先を続ける。
「本当です。といっても、今はさほどの脅威にはならないでしょうが、今後十年、二十年経てば、全く無視できない勢力になるだろう、と私は睨んでいます」
事実、前の時はそうなった。
そしてその状況を私は悪用して、引っ掻き回した。
結果が、《魔塔》の魔導具の信用失墜であり、市井の魔導具職人、それに彼らに資金を提供していた商人たちの台頭であった。
そこから革命、国家転覆まで持っていこう、という考えでもあったのだが……その辺りは流石にうまくいかなかったな。
他にも色々やったので、あくまでも手の一つでしかなかったが、それなりにこの国を引っ掻き回した出来事だったのは確かで、《魔塔》も大した手を出せずに終わったことも間違いない。
だが、今、この時期からそういうことが起こると知っていれば……。
それも、《魔塔》の主であるカンデラリオが理解していれば……。
きっと未来は変わるのではないだろうか。
そもそも私が前回のようなことはするつもりはないので、放っておいても前の時ほどの大きな波にはならない可能性はあるが、どちらかと言えば私は小さかった波を大きくする、くらいの行動をしたに過ぎない。
放っておいてもおそらく、数年遅れではあろうが同じような事態になったことは想像に難くない。
カンデラリオは、ここまでを予想したわけではないだろうが、私の言葉からそれなりの危機感を抱いたようだ。
「それが事実だとしますと……なるほど、我々もうかうかはしてられなさそうですな。しかし、そのことが製作技術やコストとどのような関係が……」
「実のところ、掴んでいる限り、彼らの組織はまだ、小さなものなのです。せいぜいが、先見の明がある数人の技術者が新しいことを始めようとした程度。しかし、確実な将来性がある……ですが、まだ目をつけている者は少ない。この状況で私たちがすべきことは……」
「まさか、取り込むつもりですか? 市井の魔導具職人を。しかし彼らは我々《魔塔》に対する敵愾心のようなものを持って開発に取り組んでいるのでは……?」
これは一般的な価値観からの台詞だ。
《魔塔》は自らの技術を秘匿し、貴族や金持ちに高値で売買している金の亡者である。
だからこそ、市井の魔導具職人は市民のために、安く、有用な魔導具を作るのだ。
と、こういう考えの者が多いと言われる。
「それについては否定できないところです。ですが、《魔塔》に対する彼らの考え自体、そもそもいわれがないものでは?」
「それは……まぁ。そもそも我々が作る魔導具そのものが、かなりコストがかかるものばかりですからな。安く提供できるようなものは、それこそ市井の魔導具職人や、《魔塔》でも下級魔術師などが小遣いや生活費稼ぎに作って売れるように組織としては手を出していないものですし……」
「ですよね。つまり、私は思うのです。市井の魔導具職人と《魔塔》は一度話し合いを持ち、お互いの立場や考えを伝え合うことで分かり合えるはずだと。その上で、優秀な技術者、かつ未来の敵対者を取り込むように動けば……」
「誰もが損をしない、いい協力関係が築ける、と?」
「ええ。コストを下げる方法についても、市井の技術者の方が詳しいでしょうしね」
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