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第40話 相談

「先が長くないなど。カンデラリオ様はこれからもまだまだ長生きされそうですわ」


 若干嫌味っぽく聞こえる台詞だが正直な気持ちだ。

 カンデラリオの実年齢が幾つなのか、私は知らない。

 彼を素直に観察すれば、確かに髭や髪は真っ白であるし、顔にも皺が沢山ある。

 けれど背筋はピンと伸びているし、その瞳の奥に覗いているのは確かな知性の輝きだ。

 全くもって、頭の働きも体の健康も、若者以上にあるように見える。

 それに、魔力を多く持っている者というのは統計的に長生きだ。

 それは、魔力が体の劣化を抑える働きを持っていることが理由だと言われる。

 それだけ言われてもどういうことか判然としないだろうが、例えば歩くときに筋肉などにかかる負担を和らげたり、環境の変化に対する耐性を自然に付与したり、ということが魔術師の無意識によってなされていると言われているからだ。

 もちろん、極端に身体能力が高くなったり、竜の吐息を防御し切れるくらいの耐性が生まれたり、なんてことはほとんどない。

 ゼロではないのは歴史上、そういう者もいたこともあったためだ。

 見た目は他の人間と変わらないのに、極端な膂力や耐久性を持つ人間というのがたまにいて、それは無意識に身体強化魔術などを使用しているためである。闘気、という場合もあるが、そちらはそもそもかなりの修練が必要な力であるのでまた異なる。

 そもそも、一番初めに魔術や魔力の働きに人間が気付いたのは、そういった力が無意識に働いていることに気付いたのがきっかけの一つだったのでは、と言われているくらいだ。

 他には魔物の不思議な力……つまりは魔力を使った攻撃などを模倣しようとしたところから始まったのだ、なんていう説もあるが。

 何にせよ、魔力を多く持つ者が長生き、というのはそういうこともあって、統計的にも事実だ。

 魔術師の中には三百年の長きにわたって生きた者の記録もあるくらいだ。

 外法に手を出せばこれはさらに伸びるというか、不老にまで足を踏み込むことも可能だが、それは例外だろう。

 少なくとも、カンデラリオはそれに手を出す気は今のところはなさそうだ。


「ふぉっふぉっふぉ。そうだといいのですがのう……さて、談笑もこれくらいにして、そろそろ本題に入りましょうか。エレイン殿」


 カンデラリオが今までの穏やかな空気を若干引き締めるように声色を変えた。

 少しピリピリするのは、ただの空気というわけではなく、彼の隠蔽している魔力が少しばかり外に放出されているからだ。

 もちろん、無意識に、というわけではなく意識的なものだろう。

 ある種の威嚇である。

 といっても喧嘩を売っているわけではなく、軽いものに過ぎない。

 修練が浅い魔術師であればこれだけで威圧されてしまうだろうが、私はこれ以上の威圧を前の時に味わっている。

 いうまでもなく、リリーだ。

 彼女の威圧は冗談でなく物理的な破壊力を持っていたからな……それと比べれば、なんてこともない。

 むしろ優しいくらいだ。

 私は言う。


「ええ、ではそういたしましょうか」


「……ふむ。やはりこのくらいでは動じませぬか」


「もっと暴力的な魔術師に威圧されたことがありますから……。それで、お話なのですけれど」


「ええ。ファーレンス公爵夫人ともあろう方が、何をしにこの《魔塔》へやってきたのか、儂も深い興味があります。どうぞお話しくだされ」


「お言葉に甘えて……本日、私が相談しに参ったのは、《魔術盾》を展開できる魔導具についてです」


「……ほう。利権を寄越せ、というわけではなさそうですな?」


 一瞬鋭くなったカンデラリオの視線であったが、すぐにその可能性はないということに気づいたようだ。

 流石にいくらファーレンス公爵家がこの国において大きな権勢を誇っていても、《魔塔》の持つ権利を全て譲れ、などという馬鹿は通らない。

 陛下も決して許可されないだろう。

 私が前の時にしたように、様々な権謀術数を張り巡らせて、最終的に譲らざるを得ないようにするならともかく、だ。

 そしてそのようなことをするつもりなら、ここに来るのは全ての決着がついた後、つまりは最後になる。

 だからそんなつもりはない。

 私は言う。


「もちろんですわ。そうではなく、私、最近、魔導具作りに目覚めましたの。それで、新しい魔導具を製作しまして……こちらを、まずは見ていただけませんか?」


 ことり、と掌大のメダルを取り出し、テーブルの上に置いた。

 カンデラリオはそれを手に取り、


「ふむ……これが、魔導具、ということですかな?」


「ええ、そうです。それが、《魔術盾》を張ることの出来る魔導具になります。それも、中位魔術師の放つ十本程度の《石の槍(ストーン・ジャベリン)》を、十回ほど受け切る能力があるもの。私がつい先日作り上げ、これから量産を考えているものです」


「は……? ちょ、ちょっとお待ちくだされ! その性能は……本当ですかな?」


「ええ。我がナオス騎士団の手によって、すでに何度も実験を行なっています。今のところ不具合は確認されておりません」


「まさか……これほどの大きさの魔導具で、それだけの性能を……? しかしこんなものが売りに出されては我らが《魔塔》の《魔術盾》の魔導具は……」


 先ほどまでの落ち着いた表情から、少しばかり動揺が顔に覗き始めたカンデラリオ。

 当然だろう。

 《魔術盾》の魔導具は《魔塔》、特にこの《究魔の塔》の大きな収入源である。

 この国のみならず、他の地域の《魔塔》にも《魔塔連》を通じて輸出しており、それらの利益が最終的に《究魔の塔》の元へと集約されているのだ。

 他にも《究魔の塔》が作り上げている魔導具というのはそれなりに存在しはするが、最も大きな利益があるのは、やはりこの《魔術盾》の魔導具なのであった。

 私はカンデラリオに言う。


「もちろん、売れなくなるでしょうね。こちらの方が性能が良いわけですし……ただ、問題がないわけではないのです。細かい部分については非公開ですからはっきりとは言えないのですが、こちらの魔導具はおそらく《究魔の塔》のそれよりも若干、コストがかかっております。もちろん、性能をある程度下げればそれも解決するのですが……やはりそれによって生じるのは、《究魔の塔》との利益の奪い合いでしょう。実のところ、私はそれをあまり望んでおりませんで……」


読んでいただきありがとうございます。


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どうぞよろしくお願いします。

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[一言] この爺さんが慌てる程のものとは
[気になる点] 話が短いのが気になります
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