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第39話 会談

「……さて。改めまして、ようこそおいでくださった。ファーレンス公爵夫人」


 《塔主》の執務室……つまりは、この《究魔の塔》の中心に立つ《魔塔》の中、それも最上階に位置する部屋で、カンデラリオはそう言った。

 彼も私も上質なソファに腰掛けていて、目の前のテーブルには紅茶が置かれている。

 私はそれを飲んで、軽く口を湿らせてからカンデラリオの言葉に答えた。


「エレインで結構ですわ、《塔主》さま」


「わしも、カンデラリオで構いませぬよ、エレイン殿」


「では、お言葉に甘えますわね、カンデラリオ様」


「正直なところ《様》もいらないのですが……貴方様は公爵夫人であらせられるが、儂は身分の上ではただの平民ゆえ」


「《魔塔》の主をまさか平民扱いする者などいるはずがありませんわ」


「……そうでもありませんぞ? 先日、とある貴族がやってきましたが、まさに平民扱い以外の何者でもありませんでした。そのこと自体は構わないのですが……他人の拠点を訪問するにあたっての最低限の礼儀すらない始末。ほとほと困ってしまいました」


「……貴族にも色々とおりますから」


 なんでもないように返答したが、カンデラリオのこの言葉の意味は、お前はそういう貴族ではないだろうな、というちょっとした釘刺しだ。

 もちろん、私としてもカンデラリオに対し、礼儀を損なうつもりはないのだが、そもそも論として……。


「そういえば、遅くなりましたが、門の事について謝罪いたしますわ。本当に申し訳なく……弁償などの費用はファーレンス公爵家につけていただければと」


 前の時はどのように通っても構わない、と言われた入り口である。

 ただ、他人の持ち物を破壊したのは事実であるし、謝罪しておくのがそれこそ礼儀だろう。

 そもそも壊さなければよかったのでは、とも言えるが、それだと私のストレスが解消されなかった。

 前の時のことなど、この《魔塔》の人々は何も知らないが、それでもだ。

 加えて、これに対してカンデラリオがどのように返答するかで彼の性格もある程度掴めるとも思った。

 人間の本性が現れるのは、怒っている時だからだ。

 あれくらいで怒るようなら、カンデラリオは比較的与し易い人物に私の目には映る。

 逆に全く気にしないようであれば……それとは正反対の感覚を私は覚えるだろう。

 ……おそらく、後者だろう、と確信してはいるが。

 実際カンデラリオは私の謝罪に対して大きな声で笑い、


「……ふぉっふぉっふぉ! これはこれは。まさか謝罪していただけるとは。そもそもがあのような入り口の作りをしている我々の伝統が悪いのですからな。一応、正攻法で……つまりはあの《詩》の謎を解き、英知をもって力とし、扉を開く、というのが基本ではありますが……破壊できるほどの力を示すという方法もまた、ありだ、というのが《魔塔》の考えです。従って弁償など全く不要です。それに、あの正門をまた作り直すのも、下の者たちの良い修行にもなりますからな」


「下級魔術師の方々が作り直すのですか?」


 あの正門にかけられた多くの魔術は、下級魔術師が作り上げられるような構成ではない。

 高位魔術師の力がどうしてもいる。

 それなのに……。

 そんな意味を込めた私の疑問にカンデラリオは言う。


「部品の大半……煉瓦などについてはそうですな。ただ、実際に組み上げるのはやはり、高位魔術師たちが、ということになります。今回はトビアスが主となって作り直すことになるでしょうな。貴方が完膚なきまでに叩きのめした男ではありますが、あれでもこの《魔塔》ではかなりの才能の持ち主です。いずれはあの男にこの《魔塔》の主の座を譲りたいと考えているほどなのですよ。それなのに貴方は……。つかぬことをお伺いしますが、魔術師たちの魔力を遮断したあの魔術、一体どのようなものなのですかな?」


「あれは、《魔臓》の神経を魔術矢によって遮断することで、魔力の生産を一時的に止める、というものです。実力が拮抗している場合には狙いをつけることが非常に難しいため、使えない方法ですが……」


 《魔臓》というのは、魔力を生み出す臓器、という意味だが、実際に体の中にそのような器官が物質的に存在しているわけではない。

 人体の中で、魔力が生み出される場所の中心をそう呼び、そしてその流れを神経と呼んでいるだけである。

 そしてこれは人によってズレがある。

 心臓のようにある場所がほとんどの場合同じ、というわけではないのだ。

 しかし私にはそれらを見て、感じる術がある。

 反対にいうなら、その技術がなければ出来ないやり方であった。

 そのことをカンデラリオはすぐに理解したようだ。


「なるほど……エレイン殿には、《魔臓》、それにその神経の流れがはっきりと見えるのですな……そして、あの場にいた者たち相手であれば、それらを遮断する程度のことはエレイン殿なら余裕であった、と」


「余裕というほどでは」


「謙遜されずとも分かります。確かにあの場にいた者たちは、トビアス以外は中級程度の術者ですからな……しかし、命を奪わずに無力化していただいて、本当にありがたい。貴方であれば、同じだけの労力で殺すことも簡単だったはず。そしてそれをしても《魔塔》としては文句を言えないこともわかっておられたことでしょう。にもかかわらず、あえて無力化で抑えていただけた……」


「いえ。正門は破壊してしまいましたが、人の命まで奪うつもりはありませんでしたから……」


 カンデラリオがこういうのは、《魔塔》という存在が基本的に《力こそ全て》という理念を持った集団であるからだ。

 ここ《究魔の塔》はカンデラリオが《塔主》であるため、所属している魔術師たちもかなり穏健派のようだが、他国の《魔塔》はもっと非人道的であり、それこそ人攫いのようなことを堂々としているところすらある。

 そしてそれがむしろ一般的なのだ。

 だからこそ、そういった集団を仮に力で蹂躙しても文句は出にくい。

 もちろん、襲撃された方の《魔塔》からは文句は出るだろうが、一般人などから見れば、《魔塔》はある種のならず者の巣のような感覚があるということだ。

 《塔主》の地位も、血塗られた奪い合いの歴史を重ねてきている。

 カンデラリオのようなタイプが《塔主》であることは、本当に例外的なことなのだった。


「そう言っていただけると、大変ありがたく思いますな。儂もあまり先が長くない身。若者たちが命を散らすのは、なるべくなら見たくありませぬ……」

読んでいただきありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[一言] カンデラリオさんすごいんだなぁ
[良い点] ストレス発散ですか····流石です奥様。
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