第27話 これからの予定
「そんなことが、ね……。驚いたわ。まさか貴女がそんな企みをして、しかも実行するなんて」
セリーヌが目を見開いてそう言った。
流石の彼女も私の過去、というか未来の話は予想外だったようだ。
今の時点からすると……そんなことをしそうには思えないというのは理解できる。
「何かが、おかしかったんでしょうね……私も話していて、どうしてこんなことをしたんだろうと今、改めて思ったくらい」
「でしょうね。今の貴女は……とても安定していて、国家転覆まで企みそうにはとてもではないけれど思えないわ。私のことを殺すとも、ね」
最後の一言はちょっと苦笑しながら言ったセリーヌである。
私は慌てて、
「それについては本当に申し訳ないとしか……。だからこの一年、貴女に連絡を出来なかったの。とんでもないことを貴女にしたから……」
「前の私に、でしょう? 今の私は生きているから気にしなくてもいいのに。それに……前の時の私は、たとえ貴女に殺されるのだと分かっていても、親友だと言ったのでしょう? その気持ちは、今の私も同じよ」
「セリーヌ……貴女、お人好しが過ぎるわよ」
私もなんだか苦笑してしまった。
ここまで信じてくれる理由は一体なんなのだろう。
わからない。
ただ彼女が間違いなく生涯の親友であることは確実なことだ。
この先、どんな人生を辿ろうとも。
そしてだからこそ、私は彼女に全てを話すことにしたのだ。
それは間違いではなかったと今、心から思う。
「お人好しなんじゃなくて、私は貴女が好きなだけよ。他の人にはどうか分からないわ」
ふふ、と品よく微笑んだセリーヌだが、確かに言った通りではあった。
というのは、前の時の彼女は……今の彼女よりもずっと苛烈で、強い人だった。
その能力から多くの人に必要とされていたので、力だけを目的に寄ってくる人間も大勢いたのだが、そのほとんどを彼女は独力で跳ね除けた。
私が利用価値の高い彼女を失いたくないがために打ち倒した人々もいたにはいたが、特段私が何もしなくても、彼女は自らの立場を自分で守りきっただろうと思う。
そんな彼女だからこそ、最終的には邪魔になって私が自ら亡き者にすべく動くことになった訳だが……。
その記憶からすると、今のセリーヌはだいぶ可愛らしい人だ。
私との関わりのせいで、数多くの陰謀に巻き込まれて強くなる前の彼女だから。
それでもやはり、その持って生まれた芯の強さは変わらず今も持っている訳だ。
「いい友人がいて嬉しいわ」
「なら、今回は殺したりしないでね?」
「もう、セリーヌったら……今回はそんなことは決してしないわよ。今回の私の目標は、末の娘に殺されないこと、なんだから」
「そうだったわね……そのためには私も協力を惜しまないけれど、貴女、本当に末の娘に殺されてしまうの? 私も一応、予言以外に、魔術だってそれなりに使えるけれど……今の貴女、相当強くなっているように感じるのだけど……」
セリーヌの予言の力がどこから来るのか、それは前の時にすら解明されていなかったが、一応の説はあった。
魔力だ。
特殊で強力な魔力が、人の魂に作用してそのような力を身につけさせるのだ、と。
なぜそう言えるかといえば、歴代の予言の能力持ちというのは、いずれも強力な魔術師でもあったからだ。
セリーヌもその例に漏れず、かなり強い魔術師としての力を持っている。
そんな彼女だからこそ、この一年磨き上げた私の力を感じているのだろう。
「確かにかなり修行はしたわよ。前の時に研究した魔術や魔導具なんかも再現したり……。でも、これでも全く足りないわね。あの娘の力は……この程度、簡単に跳ね除けるでしょうから」
「これからどれほどの化け物を生むのかという感じだけれど……ただ、それならこれからどうするの? このまま魔術師としての修行を重ねていくのかしら?」
「それもするつもりだけど……やっぱりそっち方面はあの娘の専門だからね。出力で敵う日は永遠に来ないと思うの」
「じゃあ……」
「他の面で、埋めるしかないでしょうね」
「他の面っていうと……?」
「武術よ。私、前の時はある程度近接もやれるけど、基本的には魔術師として戦ってたわ。でも今回は、魔法戦士系の道を進もうと思っているの」
「貴婦人が目指すものとは思えないのだけれど……」
「仕方がないじゃない。ならないと死んじゃうかもしれないんだから」
「まぁ、それもそうよね……でも魔法戦士系にも色々あるわよ。魔法剣士、魔導剣士に……そもそも剣士でなくとも、槍術士や拳闘士系もあるわ」
「そこのところは臨機応変になんでもできるようになりたいのよね。いつ襲われるとも分からないし、あまり武器を選び過ぎるといざというとき困りそうじゃない?」
「公爵家に一体誰が攻め入るというの……?」
「でも、前の時は伯爵家だった貴女の家に、私の息子が一人で攻め入って制圧したわよ」
「それもだいぶ無茶苦茶よ……貴女の子供たちって、揃いも揃ってそんな化け物に育つ訳?」
「ジークハルトはそれでも一番弱い方だったけれど……あの子は基本的に事務系の人間だったしね。政治や経済には長けていたけれど、純粋な戦闘となると……」
「一番弱くて伯爵家の兵力を単身で壊滅させられるわけね……。ウチの警備、見直そうかしら……?」
「結構てこずってたから、そんな必要はないと思うけれど……でも確か厩番に盗賊ギルドの間者がいたはずだから、それは調べた方がいいかもね。ジークはそこから情報を得たって話してたし」
「……情報をありがとう。早速戻ったら調べるわ」
「ええ、そうして。それで私の修行なのだけど、使用人の一人に頼んで、師匠になりうる人物を探しているところなの。だから、それが来次第、始めるつもり。もちろん、その前に体力がないとどうしようもないから、基礎訓練はしているのだけどね」
「どんな訓練を?」
「騎士団に混ぜてもらって、同じメニューを。迷惑がられると思ったのだけれど、頼んだら喜んでやってくれるって言うから……」
「それは意外ね。そういう、公爵家の奥様のわがまま、みたいなのはああいう実直な職業の人間には嫌がられるのが普通だというのに。どうやって手懐けたの?」
「手懐けたというより、仲良くなったのよ。この間、一緒にゴブリンの軍勢を退治してね……」
「えぇっ……!? どういうことよ、それ……」
そんな風に、私とセリーヌの会話はいつまでも尽きなかった。
ただ、ずっと話しているわけにもいかず、日が暮れてきた頃に彼女は帰宅した。
その際に、
「今後、何かあったら相談に乗るからね。それと、これからは前と同じような付き合いでも大丈夫でしょう?」
と言ってきたので、私は笑顔で頷いて、
「ええ、そうしてくれると嬉しいわ。じゃあ、またね。セリーヌ」
「ええ、また。エレイン」
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